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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第五章 教会編

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第28話 1周目 【三聖女】

 結論から言えば、セトはちゃんと男の子だった。


 ……付いてた、セーフ。

 いやアウトなのか。


 セフトか。


 俺の感覚では、小学生の男の子と一緒に風呂に入るのはそんなに抵抗はない。

 いやもちろん普通のご家庭にある浴室ってことなら、男同士だとしても「どっちが先にはいる?」って聞くのが当たり前だとは思うけど、王族専用の浴場といわれれば「一緒に入ろうぜ」って誘うと思う。


 相手がセトじゃなくてもだ。

 

 感覚としてはスーパー銭湯とか温泉地の露天風呂とか、そういう感覚だったんだ。

 別々に入ったほうがおかしいだろう?


 そう思わないかタマ。

 いや、にゃあじゃ無くて。


 というかお前、尻尾が二本あるとはいえ猫になったんだから風呂場についてくるなよ。

 飼ったこと無いからよく知らないけど、猫って水を嫌うんじゃなかったっけ?


 今の俺は、中央のもはや滝と見紛う湯出口を複数備えた、段々畑のようになっている最大の湯船に浸かっている状況だ。

 どうみても猫であるタマが、俺の隣で気持ちよさそうに湯に浸かっているのがシュール。


 こんなん猫じゃない。


「だから機嫌直せって、セト」


「……師匠の馬鹿」


 まだ機嫌は直っていないらしい。


 せっかくいろんな種類の湯船があるのに、小さな白濁した薬湯に浸かったきり出てこない。

 口元まで浸かってるが、のぼせるぞ大丈夫か?


 こっちの世界(ラ・ヴァルカナン)では、()()()()()()に関して男と女の垣根はあまり無いらしい。

 特にセト(クラス)の美少年であれば、男性からも()()()()対象としてみられる事は当たり前だと、セシルさんが教えてくれた。

 そんな()()が前提としてあるので、耳年増なサラも赤面していたのだ。


 まあ確かになあ。


 俺のいた日本でも明治の初めあたりまでは陰間、いわゆる男娼は当たり前の存在だったらしいし、現代でもそういう性向の人たちは結構存在した。

 中世風のこの世界(ラ・ヴァルカナン)でそれが当たり前でも、そう不思議は無いわけだ。

 なんか教会とか聞くとそういうのが禁忌とされてて当たり前だと思ってしまうが、そうでも無いらしい。


 陰間のお得意様も坊主が多かったらしいし、結構セトは教会でそういう視線に晒されていたのかもしれないな。

 若くして「十三使途」の第三席であるからこそ、そういうのもシャットアウトできていたのだろう。

 まあ実際セトは美少年だし、肌はめちゃくちゃ綺麗だし、華奢だし、そういうのが()()な人にとっては、確かにたまらない相手だというのは理解できる。


 残念ながらというか、俺の場合有り無し以前に考えたこともなかったからな、美少年をそういう対象にするという事を。


 さすがにあっち(日本)でオタクをやっていたからには、一大ジャンルを構築できるだけの嗜好者が居ることを知ってはいたが、なんというのだろう。

 俺にとってはもう遠い過去の事実である「陰間」と同じように、現実感が無かったのだ。

 あくまで創作として、主としてご婦人方に好まれる「妄想」の世界であって、二次元の存在が繰り広げる「私の知らない世界」程度の認識だったのだ。


 だからこそ、自分がセトを美少年と勘違いしていただけで、実は美少女だったというありがちな展開かと慌ててしまったのだ。


 とはいえ本人に「お前女の子だったのか?」と聞くのはさすがに拙すぎた。


 セトはそれが許せないらしい。


 そういう前提があるのであれば、無理に一緒に入らなくてもと言う俺の言葉によけいむきになった。

 「男だからヘーキ!」といって一緒に入ることを頑として譲らなかったのだ。


 まあどれだけ美少年でも、男の子は男の子だ。


 真剣に女と間違われる、疑われるというのは許しがたい事なのだと言うのは理解できる。


 男の沽券に関わる。


 俺の見た目では、何をどうしたって女の子と間違われることなんか無いし、当然今までもなかったから、その怒りに共感することは不可能なのだが。

 セトの場合はもっと小さい頃から、何度も間違われてきたんだろうなあ、あの見た目だし。

 だからこそ、口調がああいう感じになっていったのかもしれない。


 俺だって普通に「口の悪い美少年」という認識だったしな。


 しかし弟子として男の師匠に抱かれる覚悟がありながら、女の子と間違われるのは許せないというあたりの心理が、俺にはどうもピンと来ない。

 口に出すと、無自覚に地雷を踏みそうなので黙っているが。


「ごめんってば、セト」


 しょうがないだろ、お前綺麗なんだからと続けそうになるのをぐっと飲み込む。

 これ以上逆なでしてどうするんだって話しだ。


「ま、まあ師匠は信じらんねえくらい常識知らねえみたいだしな……弟子として何時までも師匠相手にぶんむくれてるわけにもいかねえし、もういいよ。ただし二度と女扱いはしないでくれよな」


 焦ってセトの股間を(ハタ)いたのが、我ながら信じられない。

 デッド・オア・デッドの行動に出るとは我ながら情けないとしか言い様が無い。

 セトが女の子だったら、泣かれてたかもしれない。


「厳守します、弟子セト。いやほんとに悪かった。それに俺はそっちの趣味無いから安心してくれていいよ。前提条件知らなかったから、あの空気の原因を俺がセトの性別間違えたせいかと思っただけだ。最初から俺はセトは男だと思ってたからな」


 何とか機嫌を直してくれたようだ。

 今後二度とないことを誓い、それに説得力を持たせるための説明もする。


「ほんとか?」


 セトはまだ信じていないようだ。

 その疑惑の顔をやめなさい、へこむだろ。


「だから驚いたんじゃないか。最初から女の子だと思ってたらお風呂には誘わないよ、さすがに」


「そっか、そうだよな。師匠が驚いたってことは、俺をちゃんと男だって思ってたからだって事だもんな。へへへ」


 我ながら理路整然としている。

 セトも理詰めで伝えたおかげで信じてくれたようだ。

 うれしそうに笑う顔が、女の子にも見えるとは口が裂けても言わない。


「そういうこと。だからこっちへ来いよ、遠いと話し難くて敵わない」


「う、うん……」


 女性陣と合流する前に聞いておきたいこともあるから、こっちの湯船にセトを呼んだ。

 

 躊躇いがちに白濁した薬湯の湯船から上がり、上等な湯絹衣で胸のところまで隠してこっちへやって来る。

 ずっと浸かっていたからか、白い肌は上気して桃色になっている。

 その肌が薬湯を弾き、ころころと湯絹衣へ伝う。

 薄い湯絹衣は完全に肌に張り付き、本来純白のそれを、セトの肌色と混ぜたような色合いにしている。

 こうみると白いとはいえ、ちゃんと肌色なんだな……


 いかんこれ、目の毒だぞ?


 男だという事は重々承知でも、思わず目を逸らしてしまう。

 あ、いかんまたセト怒るかな。


「なんで目を逸らすんですかね? そっちの趣味は無い師匠殿」


「あれ? 怒らないのか?」


 思わず赤面して目を逸らした俺を、また女扱いしたと怒るかと思ったがそうでも無い。

 照れは隠しきれていないが、こっちをおちょくるように聞いてくる。


「ちゃんと男として、綺麗と思われることは嫌じゃないんだぜ? 師匠がそっちの趣味に目覚めたら、こ、応える覚悟もあるしな?」


 強気に出るのはいいけれど、噛んだら台無しだセト。


「まあそりゃ無いと思うから安心してくれ。じっと見てると自信なくなりそうだが」


「ふふん」


 俺の答えに、満足そうに同じ湯船の湯に浸かる。

 こっちの湯は無色透明だから、目線のやり場に困るな。

 

「で、聞きたい事って何だよ師匠」


 セトも照れくさいのか、すぐ本題に入ってくれるのはありがたい。


「ああ、セトが最初俺の魔法をみて無理だと判断したときに言ってた言葉があっただろ」


 今俺が一番気になっているのはその情報だ。

 俺の能力(チート)には及ばなかったものの、セトは「十三使途第参席」に相応しい、本物の魔法遣いだったと思う。

 俺にしても奥の手に対する応手を間違えれば、不覚を取った可能性すらあった。

 そのセトが言った言葉だからこそ、重要な情報なのだ。


「なんか言ったっけ? 正直ビビッて逃げることしか考えてなかったから覚えて無いや」


 たしかに慌てふためいていたな。

 思い出してちょっと笑う。


「とにかく助かりたけりゃ教皇庁の聖女様か、ここの姫巫女様にでも頼むんだな」


 あの時セトがカザン大司教に言った言葉を、そのまま言ってみせる。


「そんな事言ったっけ? ってそうじゃなくて師匠、「三聖女」も知らないの? ほんとに?」


「面目ないが、全く知らん」


 だから聞いているのだが。

 というかまたぞろ知っていて当たり前の情報らしい。


「どこの辺境で修行に明け暮れてたのか知らないけど、本気っぽいね。「三聖女」って言うのは……」


 セトがしてくれた説明を要約すると以下の通りになる。


 ジアス教の教えでは、百年に一度「聖女」が降誕する。


 強大な魔力と、数々の「奇跡」――魔法を使いこなす「聖女」は、降誕した時代に大いなる恵みを与えてくれる。

 だが世界(ラ・ヴァルカナン)が「大いなる災厄」に見舞われる際には「聖女」が同時に三人降誕し、やがて訪れる世界(ラ・ヴァルカナン)の危機に立ち向かう「勇者」を支えると伝えられている。


 かなり乱暴にまとめるとこんなところだ。


「ま、ただの伝説と思われてたんだけどね。教皇庁で百年ぶりの聖女が降誕した同じ年、ヴェイン王国でも「聖女」――ヴェインでは「姫巫女」と呼ばれてる――が生まれた。まだ三人目は確認されていないけど、それ以来教皇庁と大国各国は、「大いなる災厄」と「勇者」の出現に過敏になってるって訳」


 まさにお約束展開進行中に、俺はこっちの世界に転移してきた訳か。

 説明しとけよタマ。


「はー、なるほどな。それだけ強力な存在だから、俺の魔法も何とかなると思ったわけか」


「そゆこと。俺は教皇庁の「聖女」様にしかあったこた無いけど、同じ存在だってんなら、ヴェインの「姫巫女」も師匠のあれを凌げるとは思うぜ。もう俺のレベルじゃどっちが強いかなんて判断付かないけど」


 少なくともセトにそこまで言わせるだけの「力」を持っているわけだ、教皇庁の「聖女」は。


 警戒する必要はあるな。


「サラ王女殿下が、俺達ジアス教に隔意を持ってるのは間違いなくそのせいだろ」


 ため息混じりにセトが言う。


 セトはがさつな子供じゃない、ちゃんとサラが自分に隔意を持っているのを理解している。

 そしてその原因にも思い当たる節があるらしい。


「なんでさ?」


「それも知らないのか師匠。ああ、まだ逢って二日目だったっけ? なんか十年来の付き合いあるみたいになつかれてるからピンと来ないけど、それじゃあしょうがないか」


 そういって、俺の目をみて教えてくれる。


「ヴェイン王国第一王女殿下、クリスティナ・アーヴ・ヴェイン。サラ第二王女殿下のお姉ちゃんが、「三聖女」の一人、ヴェインの「姫巫女」だからさ」

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