第27話 1周目 【状況確認】
「謁見」から魔法遣い同士による試合の流れは、当初予定していた通りと言える。
ちょっとした追加要素として、ジアス教会の大司教に喧嘩を売ったり、そのついでにどうやらこの世界にはまだ存在しない概念である「王権神授」をぶち上げたり、教会所属の魔法遣いを蹴散らしたり、教会屈指の魔法遣いである「十三使徒」の一人を公衆の面前で撃破して弟子にしたりしたけど、まあ誤差の範囲だ。
誤差の範囲だ。
「いや、師匠。そりゃちっと無理あるんじゃねえかなあと、弟子としては思うわけだが」
うるさい黙れ。
大事な事だから二回言ったのに、弟子のくせに師匠の言葉を否定するな。
いや、それ以前にまだお前は弟子じゃない。
誤差の範囲なんだよ。
ずいぶんと大事になってしまった「謁見」からの流れを受けて、本来謁見後に予定されていた「晩餐会」は明晩に延期となった。
今はとりあえず俺があてがわれた部屋に、サラ、セシルさん、セトと一緒に戻ってきたところだ。
サラとセシルさんは解るが、セトが何で来るんだって話だが、
「弟子ってもんは師匠と行動を共にするもんだろ? なんか別の指示がありゃそれに従うけどさ」
と言われたので、とりあえず認めるしかなかったのだ。
まだ正式に弟子にしたつもりもないのだが、セトに聞きたい事があるのは確かなので願ったりともいえる。
俺とセトの「魔法戦闘」の情報は、その結果と共に今頃ものすごい速さで各国各地に伝えられているところだろう。
セシルさんの話では、明日の「晩餐会」に急遽出席を望む各国の大使たちからの連絡で、王宮の外務関連部署は今ひっくり返っているそうだ。
それに俺がアイテムボックスから放り出した「雷龍」は現在オークションにかけられているらしい。
王様がヴェイン王国として三体を買い上げ、残りの五体はオークションにかけると宣言したからだ。
そして競り落とされた金額は、そっくりそのまま俺へ渡すとも明言した。
落札者が誰であったかは当然伝える、とも。
サラに言わせれば高額で落札し、俺に恩を売って個人的な誼を通じたい大貴族や各国大使が、相場度外視で奪い合いになるだろうとのことだった。
ヴェイン王国として拙くないのかとか聞けば、ここまで騒ぎが大きくなってしまってはヴェイン王国王家だけで独占するほうが害が大きいと、王様が判断したのだろうと言っていた。
国家運営って大変なんだな。
「いやまあ師匠がそう言うんなら、それでいいけどさ。弟子は師匠に従うもんだし」
他人事みたいに言いやがって。
まあ他人事なんだろうけれど。
「ちょっとまてセト、まだ弟子にすると決まった訳じゃないだろう? お前が提供する情報次第って言っただろ」
そうだ、無条件で弟子にするつもりはない。
セトが有用な情報を持っていなければ、お断りすることもできるのだ。
実際の師匠らしい事は、能力管制担当がなんとかしてくれそうなのでそこまで忌避感もないのだが。
「それでもいいけど、あれだけの人数の前で俺、弟子にしてくれって宣言したしなあ」
子供らしからぬにやにや笑いを浮かべてセトが言う。
「え? それってなんか拙いのか? サラ?」
あまり深く考えてなかったけど、人前で宣言されたら受けるのが常識なんだろうか。
いや魔法遣いがほとんど現存しない今、そんなルールがもしあったとしても周知されているとは思えないのだが。
「十三使徒の第三席をあっさり撃破するような魔法遣い。それがヴェイン王国に在籍しているという事実が広がることについては、功罪どちらもありますが必要な事でもあるので仕方がありません。……やり過ぎな感はありますが」
ご、誤差の範囲だ。
……だめか。
そこについてはきちんと反省しよう。
意識を取り戻したカザン大司教ですら、王とサラに平身低頭していたくらいだからな。
それ以上にセトになつかれている俺に、いろいろと言い訳を重ねていたが。
もっと決定的に敵対する態度を取るかと思ったが、自分の権限範囲を超えた判断になるからなのか、そうではなかった。
セトを撃破し、セト自らが俺への弟子入りを宣言していることが大きい気がする。
それを聞いて思いっきりびっくりしていたしな、カザン大司教以下、司教の皆さん。
「ですが「十三使徒」の一人をいきなり弟子にするというのは本来悪手です。ヴェイン王国が強力になりすぎますし、「魔法遣い勢力」を拡大していく方針に映るからです」
俺という「古の魔法遣い」を核として、魔法遣いの一大勢力をつくろうとしている様にとられかねないという事か。
「十三使徒」の一角が弟子入りを自ら望むところを見せられたら、その予測が妄想とは言い切れなくなるんだろうな。
そういう事なら気兼ねなく。
残念だ、美少年の弟子を持つという事に、憧れが無いわけじゃなかったんだが。
「そっか、それじゃあしょうがないな。セト、すまんが弟子の件は無しで」
「軽いな、師匠!」
あっさり弟子の件を反故にする俺に、セトがかみつく。
「ふははは、もう師匠ではない。俺はヴェインの、サラの害になることはできないのだ。悪く思わないでくれたまえ」
俺の冗談めかした言葉に、セトはしてやったりという表情を浮かべ、サラは九歳とは思えない苦み走った表情を浮かべて天を仰ぐ。
あれ、俺なんかやっちまったか。
「詰んだぜ、師匠」
「は?」
セトは満面の笑みだ。
しかし、こいつほんとに男なのかな。
サラと二人で並んでいると、お似合いのカップルというよりは美少女二人に見えるんだが。
髪のばしたらそうとしか見えない気がする。
「ツカサ様。確かに本来は悪手なのですが、「十三使徒第三席」であるセト様が、公衆の面前とまではいきませんけれど、あれだけの人数の前ではっきりと弟子入りを望まれたのです。それを断るという事はセト様を、ひいては「十三使徒」を、最終的には「教会」を軽く見た、といわれる恐れがあるのです」
もちろん俺はそんなことは思っていないし、教会やそれを言い出す側も本気で思っている訳ではないだろう。
そういう難癖の付け方ができる余地がある、という事が問題なのだ。
実際にサラが危惧しているのは教会そのものよりも、教会の威を借る他国だろう。
どれだけ本音が透けて見えても、建前として破綻していなければ教会もある程度それに合わせる必要が出てくる。
国家であろうが、教会であろうが、あるいは冒険者であろうがそこは共通だ。
「なめられたら終わり」なのだ。
――そういう事か。
「謀ったなシャ○!」
「○ャアって誰だよ師匠。しかしまあ謀られる方が悪いよな、俺ら魔法遣いの考え方としちゃさ。サラ王女殿下の不利益になることは絶対できない敬愛する師匠殿。今後とも末永くよろしく」
小憎たらしいな、この野郎。
しょうがない、こうなったら腹くくるか。
セトも俺から覚えたいことを全て覚えれば必要以上に付きまとったりはしないだろう。
確かどうしても勝ちたい奴がいるんだっけ。
「十三使徒」の第一席か第二席ってあたりかな。
「妨害」にえらく喰いついてたし、とりあえずそれから教えれば多少は師匠っぽくはなるか。
その際はお願いします、真の師匠。
(`・ω・´)ゞ
……。
「わかったよ、とりあえずよろしくな弟子」
「うん!」
笑顔全開だ。
ほんとにこいつ男(以下略
サラはちょっと浮かない顔をしている。
セシルさんは自分が仕える王女と、教会のかなり上位に位置するセトと同席して緊張している感じだ。
俺から見たらセトって人懐こい美少年って感じなんだが、サラやセシルさんみたいな立場であっても「十三使徒の第三席」というのは扱いあぐねる存在なんだな。
「よし、それじゃあ状況まとめよう。さっきは謁見まで時間が無かったから、サラとセシルさん驚かせて終わったけど、とりあえず俺の方の説明をする。その上でセトに俺やサラの疑問点を質問するから、知ってる範囲で答えてくれ。いいかな?」
三人が三様に首肯する。
俺は掻い摘んで冒険者ギルドでの出来事と、その後見つけた「錬金術師」の店、「隷属契約斡旋所」の事を説明した。
ギルドで魔物を一斉に売り払ったことを説明した時は、サラはもうちょっと詳しく説明しておくべきでしたと落ち込み、セシルさんにフォローされていた。
セトの野郎は大爆笑。
なんとなく気付いてはいたが、やはりかなり常識はずれの行動だったようだ。
「錬金術師」の店の話についてはセトがものすごく喰いついた。
曰く教会の総本部である「教皇庁」では「錬金術師は異端」とみなし、かなりの手間をかけて情報収集をしているにもかかわらず、ほとんど尻尾がつかめない集団という認識だそうだ。
「十三使徒」を含む魔法遣いを投入してもそれは変わらないらしく、そんな組織の支部ともいえるものが、自分の管理担当地区であるヴェイン王国、しかも王都のど真ん中にしれっと存在していたことが悔しいらしい。
念のため、敵対すんなよというと、師匠の味方にゃかみつかねえよと言われた。
案外こいつ可愛いな。
だったら明日時間あるし連れて行ってやると言うと、子供のように目を輝かせていた。
俺が説明しながら、アイテムボックスから取り出した各種マジックアイテムに酷く興味を持っていたしな。
セトの奥の手である「我が魔導の書」は、見た時も思ったが「錬金術師」的な発想だ。
ネモ爺様と話し出したら止まらないかもしれないな。
一方でサラとセシルさんの女性陣は少し引き気味だった。
「白の獣」と「黒の獣」にはびっくりする程度で済んだのだが、「銀」が拙かった。
最初は俺が錬金術師から「女の人」を買ったと思われて凄い目で見られたし、誤解を解くために必死で「銀」が「自動人形」であることを説明しても、あまり俺を見る目は変化しなかったような気がする。
何故だ。
サラとセシルさんの指示には従う様に「銀」に命令したら、途中で部屋の隅に行って何やら確認していたようだ。
その後いっそう空気が悪くなったのはなぜなんだろうか。
「銀」はにこにこと指示に従ってくれているから、後で聞こう。
アイテムボックスの中がどうなっているのかも興味あるしな。
アイテムボックスといえば、この能力はかなり便利な使い方が可能で、俺の魔力で刻印をすればそこから中身を外に出すことが可能だった。
念のためサラとセシルさんの背中に、刻印をさせてもらう。
ネモ爺様がおまけでくれた「白の獣」はサラ専用、「黒の獣」はセシルさん専用の護衛使い魔として設定し、危険と判断すれば自動的にアイテムボックスから出て二人を守るように設定した。
これでやっと二人の機嫌が直った。
二人とも「アルブス」、「アテル」と呼んで可愛がっている。
二体も決まったご主人様になついているようだ。
俺の左肩で基本寝ている「タマ」とはえらい違いだ。
二人が呼んでも出てくるので便利だろうが、お前らに魔力やってるのは俺だという事を忘れるなよ、アルブス、アテル。
回復量の方が多いから、実害はないんだけどな。
俺の方の説明を終えるだけでも結構時間をつかってしまった。
いったん休憩して、飯でも食いながらセトへの質問をしないかと提案したら、満場一致で可決した。
みんなバタバタしてけっこう疲れているのは事実だしな。
俺がサラやセシルさんと会ってから、まだ二日もたっていない。
短い時間でいろいろあり過ぎだ。
「じゃあ風呂でも入って、その後ご飯食べながらにするか」
「はい、ツカサ様は王族用の浴場を使っていただいて構いません。料理の方は部屋に運ばせますのでお任せください」
さすがサラとセシルさんにとっては勝手知ったる自分達の王宮だ。
頼りになる。
しかし王族用となるとかなり期待できるな。
何しろ浴室ではなく浴場だ。
でしたらお背中をお流しします、と言い出した「銀」がサラとセシルさん二人から説教を喰らっている。
いやそういう事は二人がいない時に言ってくれ、「銀」。
セシルさんと違ってそういうところは空気読めないんだな、まだ。
この後成長していくんだろうけど。
「……そうでした。ツカサ様にはセシルとのこともお聞きしなければならないのでした」
こちらを見ないまま、サラがぽつりとつぶやく。
あ。
セシルさんが一気に真っ赤になって俯く。
「先にお風呂でセシルからも聞いておきますね、ツカサ様?」
振り返ってとびっきりの笑顔で微笑まれた。
ええ、はい、うん。
ちゃんとお話しします。
セシルさんが主人であるサラに嘘を付けるとも思えないしな。
「なんか大変そうだな、師匠」
うるさい。
お前もその大変なうちの一要素だ。
「まあいいや、こっちもさっさと風呂入ろうぜセト。王族用の浴場なんて、そうそう経験できるもんでもないしな」
俺のその一言で、場が凍りつく。
「ツ、ツカサ様?」
サラがえらい動揺している。
俺そんな変な事言ったか? サラやセシルさんを風呂に誘ったわけじゃないぞ。
セシルさんもびっくりしたような顔をして俺を見ている。
あれ?
「…………」
何かとぽんぽん言い返してくるセトも、下を向いて真っ赤になっている。
「……セト?」
恐る恐る声をかけてみる。
「ひゃっ? ――い、いやじゃない。いやじゃないぜ? 師匠。違うんだ、で、弟子になったんだから師匠のいう事は絶対だし、魔法遣いの師匠と弟子なんだからまあいずれそういう事もあるのかなとかは思ってたけど……その……い、いきなり?」
湯気が出そうなほど真っ赤な顔で、応える声はひっくり返って上擦っている。
知り合って時間はそんなに経っていないが、まったくもってセトらしくない。
悪い予感しかしない。
これはよくあるあれじゃないのか。
美少年だと思っていた相手が実は……
サラとセシルさんの視線が痛い。
嘘だろおい、セト。
お前本当にそうなのか!?
次話 1周目【三聖女】
11/1 21:00頃投稿予定です。
現在、短編である「異世界娼館の支配人」を一時間ごとに連続投稿しております。
お時間許せば、そちらも読んでみていただければ幸いです。
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