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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第五章 教会編

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第25話 1周目 【十三使徒】

 「転移(テレポート)」でセトの正面に移動する。


 うわ、空中じゃないか。


 頼りになる能力管制担当(左手のグローブ)が即座に「浮遊(レビテーション)」を発動してくれて事なきを得る。

 落ちて大怪我とか間抜けすぎるし、助かった。


 闘技場のほぼ中央、地面から10メートルくらいの所にセトは浮いている。

 自分から空中戦を挑むという事は、「浮遊(レビテーション)」だけではなく「飛翔(フライ)」も使いこなせるのだろう。


 まともな魔法遣いがほとんど存在しない今のこの世界(ラ・ヴァルカナン)において、極少数の「本物」を一手にまとめているのは、どうやらジアス教会のようだ。

 その中でも突出した魔法遣いに与えられる「十三使徒」の称号を持ち、その第三席というからにはセトが相当な実力者である事は間違いない。


 さっき俺が撃とうとした「獅子吼(レオン・ルギトゥス)」の前では早々に抵抗を諦めていたが、実際の戦闘、魔法遣いとしての駆け引きを学ぶ相手としては俺にとってもありがたい相手だ。


 第三席というある意味ランキングが存在するという事は、少なくとも「十三使徒」の中でランキング戦とも言うべき模擬戦闘は行われているとみていいだろう。

 セトが俺との模擬戦――魔法指南とか言っていたが――を望んだのも、そういう戦闘に慣れているからだろうか。


 おそらくはこの模擬戦に負ける、セトの言葉に従えば指南を受ける、という立場になれば、セトが識っていることを話してもジアス教においては御咎めなしになるのだろう。


 あくまでも建前は、という事ではあるだろうけれど。


「俺が飛んで、たかが数秒で捕捉できるのか。しかもちゃんと俺の正面、同じ位置に飛んでくるとか、どんな精度で魔力追えるんだよ。もとから勝てるとは思っちゃいないけど、手加減ちゃんとしてくれよ。信じてるからな、ツカサにーちゃん」


 感心してくれているところ悪いが、それは能力管制担当(左手のグローブ)と「義眼」の手柄なんだ。

 まあそれも含めて俺の「力」だという事も確かなんだが。


 (`・ω・´)


 うん頼りにしてるよ。

 いっそお前、喋れるようになったらどうだ。

 俺の「義眼」にだけ見えるアバター作るとかさ。


 (///∇//)


 まんざらでもないのか。


 俺にしか見えない美少女とか、やばそうだな。主に俺の言動が。

 自重してもらったほうが良いかもしれない。


 しかし俺が手加減を間違える、いや悪意を持ってそうする可能性だってあるだろうに、「信じてるからな」でいいのか、セト。

 そのくせ自分は殺す気で全力出すとか、ある意味気が狂ってる。


 どっかの野菜の人たちみたいな思考なのか。


「わかってるよ、セト。とりあえず俺は攻撃一切しないから、好きなだけ魔法撃ってきな」


 俺が手加減して、セトは全力を出し切るっていう条件を満たすのであればそれが一番いい。


 正直「手加減」なんて言う高等技術、魔法を使えるようになってまだ二日目の俺が出来るとはとても思えない。

 さっきみたいに最少に絞った威力で倒せる相手であればまだ何とかなるだろうが、「十三使徒」であるセト相手となればそうもいかない。

 強力な魔法障壁を抜いて、なおかつ本人にはほとんどダメージを与えないとか、どんな曲芸だよって話だ。

 能力管制担当(左手のグローブ)に任せればそれもできそうだが、万が一が怖い。


 セトの集中が切れて、着弾直前に魔法障壁が消えるとか無いとは言い切れないしな。


「いやツカサにーちゃん、そりゃいくらなんでも手を抜きすぎじゃねえ? もっとはっきり言えば俺を舐めすぎじゃねえ? 詠唱と魔力充填に好きなだけ時間かけていいんなら、俺だってそれなりの大魔法撃てるぜ?」


 なるほどそういうものなのか。

 「大魔法」というのはいわゆる()()が必要なものなのだろう。

 さっきの司教たちも、「火球(ファイアー・ボール)」一発撃つのに、かなり長いことなんか唱えていたなそういえば。

 その際にじりじり魔力が減って行っていたのが、魔力充填だろう。

 本来は前衛がその()()の間、魔法遣いの邪魔をさせないように奮戦するのが定石というわけだ。


 一対一での戦闘で、「大魔法」は現実的ではないというのはよくわかる。

 俺みたいに無詠唱かつ、即時発動可能というのが例外なんだな。


「大丈夫だよ、多分。それよりセトの詠唱がどんなカッコいいものなのか、そっちに興味あるな」


「余裕か。くっそ腹立つなあ! 言っとくけど俺が考えた呪文って訳じゃねえからな! 笑ったら一生根に持つからな! くそうツカサにーちゃんの無詠唱はマジで羨ましい」


 ああ、恥ずかしいという自覚はあるのか。


 さっきの二人はノリノリに見えたから、そういうものだと思っていたけど。

 それに一応、定められたものがあって、「魔法遣い」一人一人のオリジナルというわけではないらしい。

 流派の違いで、詠唱が違うとかあるのかもな。


「まあいいや、間者(スパイ)含みの観客もそろそろ来るだろうし、人に見られる前に俺の「禁呪」を試させてもらうよ。結構やばいやつだから、うっかり死なないでよ?」


 まだ子供なのに、間者(スパイ)の存在をちゃんと想定できているんだな。

 誰彼かまわず、「十三使徒」の魔法戦闘を見せていいわけじゃない事を理解している。

 立場がそうさせるのか、サラにしてもセトにしても俺よりよほどしっかりしているな。

 

 それにしても……


「……禁呪」


 笑っちゃいけないと思いつつ、思わず笑う。

 

「だから笑うなってば! 俺がそう名付けたわけじゃないよ。というかさっきまでは俺もカッコいいとか錯覚してたんだ、ツカサにーちゃんがあっさり無詠唱ノータイムで「大魔法」ぶち込めるの見るまではさ。ほんとにいたたまれないから勘弁してください」


 顔を真っ赤にしてセトが怒った。

 美少年は得だな。

 どんな表情をしても基本的に崩れない。


 おのれ。


「悪い。いや俺も好きなんだけどな、そういうノリ。よし、いつでもこい」


 世界で十三人しかいない「魔法遣い」だと祭り上げられ、呪文詠唱も「そういうもの」だと認識していたら、そうもなるよな。

 大仰な呪文の文言も、それを詠唱可能だという時点で、自分が「選ばれた存在」だと自覚させてくれる、自慢すべきものとなる訳だ。


 だけど無詠唱でぶちかます相手を知ってしまうと、気恥ずかしくなるというのもわかる。


「うわあ、一気に値打ち無くなってるよなあ「禁呪」。ツカサにーちゃんにとっちゃ「禁呪(笑)」か。本当は枢機卿以上の許可なきゃ撃っちゃいけない代物なんだけどな……とりあえずいきまーす」


 セトもこんなローテンションで「禁呪詠唱」に入ったのは初めてなんだろうな。

 なんかしょんぼりしているが、両手を自分の杖に添えて「禁呪詠唱」に入るようだ。


 なんかもうしわけない。


 セトの碧色の両眼から魔力が吹き上がり、背後に巨大な魔法陣が現出する。

 多重ではないが、セトを中心に半径5メートルくらいはある巨大なものだ。


 目を閉じ、集中した表情で「詠唱」を開始するセト。


「我は太陽神と天空神の加護を得るものなり。神々の御霊はその意志を果たさんがため地上に来たり給えり。されば我が魔力を喰らいて我が意志を形と成せ。我が敵を滅ぼす神威を果たすべく来たらしめよ。天空に太陽はありて、その光は全てを育て、全てを干上がらせしめる……」


 思ったよりもずっと本格的だ。

 

 詠唱と杖の動きに従い、セトの魔力が背後の魔法陣へ注がれてゆく。

 さっきの「火球(ファイアー・ボール)」の数十倍の魔力が「魔力充填」されていっているのが「義眼」でも確認できる。


 それでもセトの総魔力の五分の一くらいだが。

 いや一発の魔法で総魔力の二割を消費するというのは、さすが「禁呪」というべきなのか。


 笑って悪かったかな。


 詠唱に進むに従って、背後の魔法陣が次々と変化を起こし「禁呪」が形成されていっているのがわかる。

 本来ここまで時間がかかるものなんだな、強力な魔法というものは。

 

「……天空より墜ちて焼き尽くせ、『紅焔墜下プロミネンス・フォール』!」


 やばい、ぼーっと見てたら「禁呪」が発動してしまう。

 したならしたで防ぐ手段もあるけれど、初手はこれと決めている。


 セトが詠唱完了する直前に、多少慌て気味に「妨害(インタラプト)」を実行する。


 魔力が充填され構築された魔法を、再び魔力に分解・還元するのが「妨害(インタラプト)」の仕組みだ。

 対象の魔法以上の魔力が無ければ成功しないが、逆に圧倒的な魔力差があれば、あらゆる相手の魔法を発動前に無効化出来る。


 本来であれば、こちらも詠唱と魔力充填が必要なんだろうけど、俺には関係ないしな。


「……あれ?」


 発動するはずの「禁呪」が、注ぎ込んだ自分の魔力ごと消滅していることにきょとんとするセト。

 「どういうこと?」という表情で俺を見つめてくる。

 

「はいもう一回」


 無慈悲に次を促す。

 すまんなセト、君が膨大な魔力とすばらしい詠唱を注ぎ込んだ「紅焔墜下プロミネンス・フォール」は消え去った。


 もう一度最初から唱えられる!


「……うわ! さっき俺の「転移(テレポート)」を封じた奴か。「禁呪」にも使えるんだ? こりゃお話にならねえぞ。というか今この瞬間に俺の「浮遊(レビテーション)」封じられたら、俺、高所落下で死ぬってことか。こわあ、「古の魔法遣い」っていうより「魔法遣い殺し」の方がしっくりくるんじゃねえの? ツカサにーちゃん」


 一度自身が喰らっているだけに、何をされたかにはすぐ気付いたな。

 しかもそれが「魔法遣い」にとって、いかに致命的かを的確に理解している。


 まあ一回それで死にかけているんだし、当然か。


「まあこういう事できるって知らなきゃ、空中戦挑んだ時点で負け決定ではあるよな。あとその厨二心くすぐる二つ名は遠慮しとく。邪悪すぎる」


 どう聞いても悪役じゃないかそれ。

 

「厨二心?」


 知らないだろうが、君たちジアス教が定めた「呪文詠唱」はおそらくその力に満ち満ちている。

 今後登場するであろう、新魔法たちにも期待している。


「戯言だ、忘れてくれ。――で、どうする? ちゃんと撃った「禁呪」を止めて見せたほうが良いか?」


 発動さえすれば通用したのに、なんて事を言いだすほど馬鹿には見えないが、本人が納得するまでやらせたほうが良いとは思う。


 このまま降参とするには、騙し討ち食らったような気分をぬぐいきれないだろうしな。

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