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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第五章 教会編

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第23話 1周目 【今の魔法遣い】

 現存する、今の魔法遣い。


 その二人渾身の「火球(ファイアー・ボール)」が発動し、俺に向かってくる。


 先刻の最低限まで出力を落とし、誰の目にも見えないように発動させた俺の「雷撃(サンダー・ボルト)」に比べれば、かなり派手だ。


 拳大の火の玉が、その高温のために周りの景色を歪めている。

 

 「謁見の間」で魔法を発動させるという愚挙に、居並ぶ武官も文官もさすがに動揺を抑えきれていない。

 俺が「雷龍(トニトルス・ドラク)」をアイテムボックスから取り出した時よりは小さいが、悲鳴なんかも上がっているな。


 あるいはジアス教会のいう「魔法遣い」は全て眉唾であり、「本物」がいるとは思っていなかったのかもしれない。


 完全なハッタリだけではなかったのは、良かったのか悪かったのか。

 ヴェインという大国を任されている大司教本人すら「魔法遣い」ではなく、十一もある教区の責任者である司教の中でも二人しか「魔法遣い」が居ないという事実。

 今のこの世界(ラ・ヴァルカナン)では、本当に「魔法遣い」はレアな存在なんだな。


 そのせっかくの魔法遣いも、間違った知識の下では正しく成長できていない。

 十数年も魔力回復の祈りを続ける根気があるのなら、それにあわせて毎日魔力が尽きるまで魔法ぶっ放しておけば、相当強化されていたはずだ。

 それを魔物(モンスター)狩りにでも使っていれば、本人のレベルも上昇していただろうし。

 

 だが目の前で「火球(ファイアー・ボール)」を打ち出して勝利を確信しているこの司教たちが、生涯でまだ二桁程度しか「魔法」を発動していないことは、俺の「義眼」がはっきりと表示している。


 おそらくは「神に選ばれた魔法遣い」がみだりに魔法を使う事を、ジアス教の教義が良しとしていないとか、そんなあたりだろう。

 何度か発動させれば魔力が尽きることも経験はしているだろうから、それを恐れている側面もあって、そんな風に歪んでしまったのか。

 「魔力上限」と「繰り返し使用による成長」いう概念が無いから、魔力が回復してしまって以降は無駄でしかない祈りを毎日繰り返しながらも、魔法を実際に行使することはめったにない。


 これではせっかく「魔法遣い」であっても成長する事が出来ない。

 その結果として、俺の義眼に映る二人の「魔法遣い」レベルは一桁だ。


 「火球(ファイアー・ボール)」もそれに応じて弱々しく、速度も遅い。

 当たればそれなりの破壊力を持っているのだろうけれど、この速度であれば「雷龍(トニトルス・ドラク)」はもちろん、「砕狼(アトミスガルフ)」にもまずあたるまい。


 いやそこらの獣どころか、訓練を積んだ人間にとっても避けることはそう難しくないだろう。


 戦場で敵が密集しているところへ撃ちこむという運用なら一定の戦果はあげることが可能かもしれないが、少人数の乱戦では使い物にならない。


 魔法を見慣れていない人々にとっては、まさに「神の奇跡」に映るだろうが、俺の本気の「雷撃(サンダー・ボルト)」を見たことのあるサラやセシルさん、王様やカイン近衛騎士団長にとってはかなり頼りなく見えるんじゃないかな。


 王様が出逢った時言っていた、「ここにいない戦力」っていうのがこの程度なら、大国が抱える虎の子も知れたものかも知れないな。

 

 少なくとも、間違いなく「雷龍(トニトルス・ドラク)」級の魔物(モンスター)を使役できる敵の能力の方が脅威だ。

 だからと言って王様を襲った勢力の容疑対象から、「ジアス教会」を除外するのは早計だが。


 ジアス教の司教二人曰く、「必殺の火焔魔法」が二発、やっと俺に着弾する。


 轟音も爆炎も発生しない。

 何事もなかったように、二発の「火球(ファイアー・ボール)」は、俺にあたる直前でかき消えている。

 能力管制担当(左手のグローブ)が俺の外套(マント)に展開させた最少の防御魔法陣によって、完全に魔力へ還元された結果だ。


 理解が追い付かないのだろう、絶望というよりもきょとんとした顔で、杖を構えた司教二人が俺の方を見ている。

 

「はい次」


 あと二発くらいは撃てる魔力が残っているし、この際納得いくまでやらせたほうが良いだろう。

 そう思ったのだが、ついさっきまで「己の魔法で人を焼き殺す」という事に高揚していた二人の顔から完全に表情が抜け落ち、あっという間に真っ青になる。

 ああ、彼らにしてみれば「魔法」がかき消えることなど常識の埒外なんだな。

 躱されたり、あるいは耐えられたり、相手の魔法で相殺されることまでは理解できても、何事もなかったように消されるのは理解が追い付かないのか。


「あ、ぎゃふ!」


「こ、ぐば!」


 なんか喧しく喚きだしそうだったので、とりあえず意識を奪った。

 というかなんなのだろうな、冗談事で「雷龍(トニトルス・ドラク)」を八体も狩れるはずもないのだから、自分達が勝てるわけがないとは思わなかったのだろうか。

 自分の魔法で、「雷龍(トニトルス・ドラク)」を狩れるかどうかを考えればいいのに。


「というわけで、ジアス教の教えに従えば、神は俺をよしとしているという事になりますが?」


 俺の言葉に、こちらも表情が抜け落ちているカザン大司教が、救いを求めるように王様やサラにおろおろとした視線を向ける。


 ああ、確かにな。

 王様とサラに謝って二人が許せば、俺が切れてる理由はなくなるから正解かもしれない。


「ア、アルトリウス三世王陛下、謁見の間でこのような騒ぎは……」

 

 そっちかよ!

 確かに喧嘩売ったのは俺だが、お前らそれにのっただろうが。

 自分も手下に魔法ぶっ放させておいて、勝ち目無いと思ったら王様に縋るのか。

 というかまず謝ろうって考えはないのか。


「よい。恥ずかしながら我がヴェインの戦力では、本気で怒ったツカサ殿を止める事は不可能なのでな。我々はツカサ殿と友好的に接する事が出来ていたように思う。だがそれを認めなかったのは、カザン大司教、貴方だ。貴方が責任を持って決着をつけるべきだろう」


 さすがに王様も怒っているし、理論武装ができていればカザン大司教個人に言いたい事をいう事は出来る。

 ヴェイン王国は神を否定するのでも、逆らうのでもない。

 ジアス教の正しい教えに従い、神に愛されている強く正しいものに礼を取ると言っているだけだ。


「そ、それは……」


 今までさんざん自分が弄してきた詭弁を逆手に取られては何も言い返せまい。

 相手がやり返してこないことを前提に「神に愛されたものは強い、だから強いものは正しい、強いものに逆らうのは神に逆らう事だ」と嘯いてきたのだ。

 

 今ここで自分の正しさを証明するには、俺に勝つしかない。


「いいですか、カザン大司教。俺は今から、俺の最大の魔法をあなたに撃ちこみます」


 もはや声を出すこともできず、金魚みたいに口をパクパクさせている。

 

「同じ魔法でも、ありがたい言葉でも、慈悲深い微笑でも、魅力的な提案でもなんでもかまわない。どんな形を取ったとしても、「力」の本質は変わらない。あなたがさんざん言っていたように、あなたが「神の地上代行者」だというなら……」


 俺の背後に、巨大な多重魔法陣が展開される。

 左目の義眼と、能力管制担当(左手のグローブ)から魔力が吹き上がり、多重魔法陣がそれを吸い上げて「魔法」を構築してゆく。


 これが今現在、ほとんど経験を積めていない俺が撃てる最大の攻撃魔法、「獅子吼(レオン・ルギトゥス)」だ。


「……こいつを止めて見せろ」


 叫び声を上げるのも忘れて、カザン大司教の背後、射線に重なる人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

 

 物凄い魔力が渦巻いているけど、大丈夫だよな? これ。


 撃ったことないからよくわからんが、炎と闇属性の直線範囲系魔法らしい。

 発生しつつある黒い炎の視覚効果(エフェクト)は相当派手だ。

 本当に撃ったら、たぶん王宮を突き破ると思う。

 頼りの能力管制担当(左手のグローブ)が謁見の間の人々に防御魔法を展開しているから人的被害は出ないけど、さすがに王宮半壊させたら王様もサラも怒るよなあ。


 さてどうするカザン大司教。

 俺もここまで芝居がかったことをした以上、落としどころの提示が無ければ本気でぶっ放すぞ。


「セ……」


 セ? なんだそりゃ。


「セト! セト!! いますぐ来なさい、汝の全ての力を行使することを大司教の名の元に許可します!」


「マジか、カザンのおっさん! ほんとに俺が全力出してもいいのか? 何が起こってんだ?」


 ほんとにすぐ来た。


 おお、「転移(テレポート)」使えるやつもいるのか。

 カザン大司教の叫びに即応して、ほんとうにカザン大司教の横にポンと現れた。

 傍から見ているとあんな風に見えるんだな、「転移(テレポート)」って。

 そりゃ奇跡だと思うわ、あんなもん見せられたら。


 なるほどこいつが「ジアス教会」の切り札って訳か。

 自分たちのハッタリだけで乗り切れなくなった時用に、教皇庁あたりから大教区単位くらいで派遣されているのかな?

 カザン大司教に対する口のきき方からして、位階は同等か上なのだろうが、その力の行使判断は大司教に委ねられているってあたりか。

 

 パッと見は子供にしか見えない。

 「義眼」で確認しても年齢は十二歳でしかなかった。


 癖の強い少しくすんだ金髪と、意志の強そうな大きな碧の瞳。

 細いが病的ではないバランスのいい肢体は、子供らしい生命力にあふれている。

 白銀色の祭服に、白地に金糸で刺繍を施されたストラをかけた、いかにも教会の人間といういでたちだが、半ズボンでも履いた方がよほど似合いそうな男の子だ。


 なんとなく悔しいが、サラと並ぶと似合いの二人と言って反論するものは皆無だろう。

 少なくとも俺と並んでいるよりはよほどお似合いだ。


 しかし表示されているステータスは、この世界(ラ・ヴァルカナン)で見た中で最強と言えるもの。

 さっきの二人とは、魔法遣いとしてのレベルも、魔力総量も比べ物にならない。

 

 これが本物の、「今の魔法遣い」ってやつか。


 自分の力を全開できることがよほどうれしいのか、セト少年からすれば右側にいる俺にまるで気付いていない。


 ぷるぷると俺の方を指さすカザン大司教に合わせてこちらを向き、はじめて俺の存在に気付いたようだ。

 魔力を感知するとかできないのかな。


 さてどういう行動に出るのか……

 無効化くらいはやってくるのかな。

 

「おい、おっさん! たまに呼び出したと思ったら無茶振りか! あんなもん俺にだってどうにか出来るわけねーだろが、はやくも呆けたのかおっさん! なんだあの出鱈目な魔力量。でかすぎて逆に感知できなかったわ! いつの間に神罰直接喰らうほどの馬鹿やったんだ?」


 予想に反して、惚けたようなカザン大司教の首根っこを摑まえてがくがくやっている。


 え? 


 なんか思わせぶりに登場したのに、無理なんですか。

 

「とにかく助かりたけりゃ教皇庁の聖女様か、ここの姫巫女様にでも頼むんだな。もう間に合わねえけど。俺はまだ死にたくないから逃げる! じゃあな!」


 そう言うと再び「転移(テレポート)」を発動させ、目の前から消える。

 

 えええええええ?


 って、マジで逃げるつもりなの?

 止めてくれると思って、発動キャンセルしてないんだけど、これもう止まらないんじゃない?


 あ、勝手に能力管制担当(左手のグローブ)がセト君の「転移(テレポート)」を妨害(インタラプト)した。


 カザン大司教の斜め上空に再び現れたセト少年が、尻餅をついているカザン大司教の上にぽとりと落下する。

 鈍い音と蛙を潰したような声がしたが、これはカザン大司教のものだろう。


「え? あ? なんで飛べてないんだ? ……あ、だめだこれ、死ぬ」


 自分が「転移(テレポート)」に失敗した理由がわからないらしい。

 本物と言っていい魔法遣いがほとんどいない状況では、互いの魔法を妨害(インタラプト)しあうような状況になった事が無いのだろう。


 もちろん俺もだが。


 その後発動直前の俺の「魔法」を前に、セト君はわりとあっさり諦めの言葉を口にする。

 もっと粘れよ。


 まあしょうがない、さすがに殺す気はないけどとりあえずぶっ放そう。

 サラと王様には後から死ぬほど謝って許してもらおう。

 王宮の修理費は頑張って稼ごう、さすがに金貨二千枚位じゃどうにもならないだろうし。


 そう思ったところで、セト君とカザン大司教の前に、サラが飛び出してきた。

 何しているんだ、危ないってサラ。

 防御魔法陣は展開済みだから怪我することはないけど、突然出てきたらびっくりするだろ。


「ツカサ様。王と私のために、いいえ、亡き母の名誉の為に怒ってくださったことには心から感謝致します。ですがここは王宮で、暴言を吐いたとはいえカザン大司教は我らの国教ジアス教の大司祭様です。我ら信徒が、大司教が害されるのを黙って看過するわけにはまいりません。それがたとえ神罰であってもです!」


 素なのか計算なのかはわからないが、ベストのタイミングであるともいえる。

 俺が唱えた「王権神授」の説得力としても、神の代行者を任ずる教会の大司教を、王族が庇い、守るという図式は望ましい。


「だから?」


 だがもう一押し欲しい所か。

 俺というイレギュラーが、ヴェイン王国、いやこの際サラ個人でもいいか。

 それにのみ従うという形にしておきたい。


「カザン大司教を赦しては貰えませんか?」


 本当であれば、その仕草と声だけで許すも許さないもないんだけどな。

 そもそも一番怒るべきサラと王様が許すと言っているのに、俺が許さないと憤るというのは道理に合わない。


「どうかな」


 サラなら俺の意図に気付くだろう。

 もともと腹黒疑惑をもたれるほどに聡い子だ。


「では……ヴェイン王国第二王女、サラ・アーヴ・ヴェインが命じます! カザン大司教の無礼は王族の名において赦します。故なき暴虐を収めなさい、王族にのみ傅く、王国の魔法遣い!」


 俺が味方だと約束したことを、信じてくれているのだろう。

 だけどこれほどの魔法が発動する直前の状態で、それを統べる当人に上からものを言うのはそりゃ緊張するだろう。

 あとで俺も謝らないとな。


「仰せのままに」


 もはや止められない「獅子吼(レオン・ルギトゥス)」はぶっ放し、魔法発生点のすぐ向こう側に魔力分解型の防御魔法陣を展開する。

 荒れ狂う黒い火焔の視覚効果(エフェクト)が、魔法陣によって魔力に分解還元され、眩い光をまき散らす。


 さすがに現時点で最大の魔法をぶっ放し、同時にそれを無効化するのは俺の魔力でも結構厳しかった。

 謁見の間にいる全ての人に、瓦礫程度じゃ怪我をしない防御陣もかけていたしな。


 まあデモンストレーションとして王宮半壊させるより、サラの言葉にしたがってその力をおさめた方が結果としてはいいものになるだろう。

 魔法の実力としては、「雷龍(トニトルス・ドラク)」の撃破と、ジアス教会所属の魔法遣いを一蹴したことで十分だしな。

 

 轟音と黒炎、光の乱舞が収まった後には、跪く俺と、その前に立つサラ王女が現れる。


 カザン大司教、これがある意味本当の「力」ってやつだよ。

 「魔法」という暴力をいくら行使可能でも、本気で嫌われたくない相手に頼み込まれりゃ、いう事を聞く。

 それを「力」と呼ばずしてなにが「力」かって話だ。


 もしもこの世界(ラ・ヴァルカナン)で俺の「魔法」が最大の暴力だというのなら、それを従え得るサラやセシルさんが最強なんだよ。


 ジアス教会の大司教、魔法遣い達を鎧袖一触にした俺を言葉で従えたサラに、周りの武官文官から称賛の声が上がっている。

 この事実は間者(スパイ)を通して大陸中に広がるだろう。


 悪くない展開だ。


「こっえー、王国の魔法遣いまじこえ―。王国は姫巫女の他にもこんなの隠してたのかよ。冗談じゃねえぞ、こんなもん教皇庁でも御しきれるもんじゃねえ」


 さっきから気になるワードをポンポン口にしているセト君にはちょっとインタビューだ。

 歳の差が結構あるのが救いだが、見れば見るほど腹立つくらいの美少年だな。


 お兄さんは男にはきつく当たっていく方針なのでよろしく。

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