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いずれ不敗の魔法遣い ~アカシックレコード・オーバーライト~  作者: Sin Guilty
第四章 錬金術編

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第19話 1周目 【不思議なお店】

 予想外に、冒険者ギルドで時間を取られた。


 言われている「謁見」の時間まではまだかなりの時間はあるが、これ以上王都を見て回るには少し余裕がたりないか。

 せっかく現金が手に入ったのに使えないというのは、少々残念だが仕方が無い。

 充分に時間を確保できる時に、ゆっくりとすればいい。

 お金の心配をしなくていい買い物は、さぞや楽しいものだろう。

 向こうでは百万円以上が財布に入った状態で、好きに買い物できる経験など当然したことは無い。

 そんなものはセレブと呼ばれる方々が、ニュースや創作の中でやっているものだ。


 後ろ髪をひかれつつ、部屋へ転移(テレポート)しようとして、ふと義眼に表示されるある情報が気になって一旦中止した。


 ――「隷属契約斡旋所」


 なんだこれは。

 義眼の地図上では王都のほぼ中心部にも関わらず、妙に四方を他の建物に囲まれている中心に存在している。

 どうやって行くんだ、この場所?


 いやそんなことよりも……


 俺がこの世界(ラ・ヴァルカナン)を転移する候補として選んだ時、いわゆる「奴隷制度」が存在していない世界だという事を確認している。

 過去には存在していたらしいが、この世界最大の宗教であり、三大強国全ての国教でもあるジアス教が禁じたことにより、すでに百年以上前に消滅しているはずだ。

 未だ人種差別や貧富の差による蔑みは残っているが、人が人を売買する「奴隷」という制度は、教会にも国家にも否定されて久しいと、珠は言っていた。


 何も俺は奴隷制度が許せないから、それが存在しない世界を選んだわけではない。


 特定環境下における奴隷制度の必要性、その是非を語るほどの知識も思いも特に持たないが、なんとなくいやだなという程度である。

 そのくせ創作としてのそれや、自分が奴隷を所持するという妄想に関してはどちらかと言えば好物なのだから、ヲタクという生き物は本当に度し難い。


 いや、ヲタクというカテゴリに責任転嫁していい問題ではないな。

 度し難いのは俺自身だ。


 だからこそ避けたわけだが。


 奴隷などというものは創作の中にしか存在せず、自分が現実でその問題と向き合うことがありえない日本で暮らしていたからこそ許せない、あるいは好物だのなんだの言っていられるのだ。


 実際に相対する場合はそうは行かないだろう。


 しかも俺はもとより持っていた死に戻りの異能の他に、強力な能力(チート)をもって異世界へ流されることが確定していた。

 つまりどちらの方向にせよ、おそらく「奴隷制度」に介入できるだけの力を持つという事が予想された。

 それは初っ端から王族を助け、片手間のように狩った魔物(モンスター)を売っただけで云千万単位の金を入手できていることからも、あながち外れていないだろう。


 その力はおそらく、奴隷を買ってそれに耽ることも、奴隷制度を正しく理解することもせず、感情の赴くままに「奴隷解放」などと行動してしまう事も可能ならしめる。

 正直に言えばそれが、どっちに振れてもそういう自分になるのが、なんとなく空恐ろしかった。


 だから「奴隷制度」が存在しない世界を選んだはずなんだが……

 「隷属契約斡旋所」ってなんなんだ?

 言葉を弄っただけの、奴隷商じゃないのかと思える。


 ここで考えていても埒が明かない。

 幸い俺には「魔法」がある。


 転移(テレポート)で直接行ってみればどんな店? なのかはすぐわかるだろう。


 

 相変わらずコマ落としのように、視界が切り替わる。


 四方を建物の壁に囲まれた結構広い空間の真ん中に、ぽつんと教会のように見える建物が建っている。

 間違いなくあれが「隷属契約斡旋所」だ。

 周りは一目で丹念に手入れされているとわかる、美しい芝生と木々。

 こちらに面している壁に、窓が一つも無いのが気にはなる。 


 そんなことよりも、転移(テレポート)で視界が切り替わった瞬間に、俺は硬直していた。

 教会のような建物の扉の左右に、巨大な魔物(モンスター)が二体、寝そべっていたからだ。


 ――王都のど真ん中に、魔物(モンスター)!?


 義眼に表示される情報では、向かって右側の白いのが「白の獣ベスティア・ジ・アルブス」、左側の黒いのが「黒の獣ベスティア・ジ・アテル」と表示されている。

 本来ステータスが表示されるべき場所には、全て赤文字で「unknown」が並ぶ。


 俺の能力(チート)でも解析不可能なおそらくは魔物(モンスター)を、当然「脅威対象」と判断した能力管制担当(グローブ)が防御魔法陣を多重展開する。

 相当警戒しているようで、俺の正面に展開された防御魔法陣は十二層の多重結界だ。


 なんか今のおれ、動く魔法陣の塊みたいになっている。


 それだけ能力管制担当(グローブ)が、目の前の二体に警戒しているという事だ。

 その割には左肩のタマは呑気に毛繕いしているが……ほんとにこいつは。


 俄かに渦巻く魔力と発動する魔法に反応して、寝そべって目を閉じていた二体が反応する。


 ただそれは戦闘体制を取るようなものではなかった。

 俺のほうへ一瞥をくれると、二体同時に眠そうに欠伸をして、再び目を閉じる。

 つられたように俺の左肩のタマも欠伸をする。


 一気に気が抜けた。


 巨大な狐のような美しい一対の黒白は、どうやら敵ではないようだ。

 とはいえ王都のど真ん中に、こんなものが平然と存在しているなんて、サラや王様は知っているんだろうか。

 知らなければ由々しき問題じゃなかろうか。


 無害っぽいとはいえ、人間一人くらいなら一呑みに出来そうな巨躯の間を、平然と横切れるほど肝は据わっていない。

 俺が気を抜いた後も最大警戒態勢を解かない能力管制担当(グローブ)だが、それでもやはり不安だ。

 創造主による能力(チート)である「ステータスマスター」でも見抜けないというのは、この世界(ラ・ヴァルカナン)における俺の生命線が通用しないという事と同義だもんな。


 警戒するなというほうが無理だ。


 どうしたものかと思っていたら、建物の扉が開き、中から品のいい老人が出てきた。


「おや、これは珍しい。お客様ですな」

 

 落ち着いた、穏やかな声。

 ピンと背筋が伸びていて、立派な執事服をきちんと着こなしている。

 撫で付けられた白髪と、銀の片眼鏡(モノクル)、口元に穏やかな笑みを浮かべたやさしげな表情。

 一目で老人とわかる風貌であるにも関わらず、老いを感じさせないという矛盾を体現している。

 自分が年を取ったらこんな風になりたいなと自然に思わせる、なんといったらいいか――とにかく、様になっている老紳士だ。


 だけど目は笑っていない気がする。

 お客様と称した俺を値踏み――審査(ジャッジ)するように。


 その上この老紳士に対しては、ステータスマスターが返す情報は全て「unknown」だ。

 名前すらわからない。

 普通は当たり前のことではあるのだが。

 

「え、いや店? の名前が気になったので、ちょっと寄ってみたのですけど、その、ちょっとびっくりしてしまいまして」


 何か変わった、不思議なお店だと思ってきてみれば、巨大な魔物(モンスター)が一対、扉を守っているのだ。

 本来ならちょっとどころではすまない気もするが、とりあえずそう答える。


「当店の名前ですか」


 驚いた事にではなく、俺がこの店――でいいのか? の名前を知っていることに反応を示された。

 老紳士にとって二体の魔物(モンスター)は居て当然の、驚くにはあたらない存在らしい。


「隷属契約斡旋所……ですよね?」


 俺の義眼が映し出した情報は、本来秘匿されていて、知る者が限られている情報だったのか?

 さすがにそのあたりの判断は、頼りの能力管制担当(グローブ)にも判断付かないか。


 (´・ω・`)


 いや、お前が悪い訳じゃない、落ち込むな。

 それにまだ危険な事態に陥ってるわけでも無い。


「その通りでございますな。しかしそうなると、はて? 店の名前をご存知でありながら、この子らに驚くとは。もしやお客様はどなたかのご紹介ではなく、ご自分の()でこちらへ?」


「え、ええまあ一応は」


 適当に答えても、ではどちら様の紹介で? と尋ねられるのは解りきっているので正直に答える。

 自分で責任を取れる範囲内での嘘は自己責任だとも思えるが、他者の名前を勝手に出すのはそうじゃない。

 

「おお、これは本当に珍しいお客様だ。当店は「気になったからちょっと寄ってみる」とは通常行かない店なのですが、お客様は相当高位な「魔法遣い」様でいらっしゃいますな」


 老紳士が驚きの表情を浮かべて、俺の正体をあっさりと言い当てる。

 驚いたのはこっちだ。

 

 さすがに能力管制担当(グローブ)だけではなく、俺も警戒態勢に入る。


「まあそう警戒されずに、まずはこちらへ。なにこの子らはかみついたりしません、大丈夫ですよ。当店はお客様の敵でも味方でもありません。取引相手と思ってくださればよろしい。まずは店内で自己紹介、それから商品の紹介をさせていただけませんか?」


 そう言うと美しい所作で踵を返し、扉の前で俺を招くように低頭して店内を腕で指し示す。


 たぶんここで俺が逃げても追っては来ない。

 そんな態度だ。


 元よりどんな店か確かめる為にきたのだ、ここで逃げても気持ち悪さが残るだけだろう。

 もしも俺にとって害なす存在であるのなら、ここで逃げても結局は同じ事だ。


 まさか、死に戻るような事態までにはなるまい。


 俺は覚悟を決めて、不思議なお店――隷属契約斡旋所の店内へ足を踏み入れた。

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