第14話 1周目 【ギルド登録】
「それでクロエさん。魔物の買い取りなんだけど……」
「――え? あ、そ、そうでしたね。え、えっと特にギルドメンバーでなくても買い取りは出来ますけど、メンバー登録してからの方がランクポイントが付きますから、そっちの方がいい? と、思うんですけど……」
冒険者登録する前に魔物を狩ってくるような奴は今までいなかったのだろう、クロエさんが戸惑っている。
というかやっぱりランクあるんだな。
よっし、いいぞ。
こつこつと実績を積み上げてランクを上げていくというのは結構好きだ。
ゲームと現実は違うという事は重々承知だが、冒険者ギルドの仕組みは依頼をこなし魔物を狩れば可視的に積み上げられる分、俺の性に合っている。
人間関係やそれを土台にした部活動は得意じゃなかったが、勉強のように自分がやった分がテストの点数という可視的な評価につながるのは嫌いじゃなかった。
何より一人で出来るという点がすばらしい。
今の所、単独で狩りすることも十分可能そうだしな。
――他人の足を引っ張るのも、他人に足を引っ張られるのも嫌だったのだ。
いや、怖かったといった方が正解に近い気がする。
要らん回想で、要らんダメージを受けた気がするがまあいい。
……他人じゃなければ、それも変わるのだろうか。
考え方や趣味が合う「友人」ともちょっと違う、同じ目的を持ち、責任を共有できる「仲間」であれば。
迷惑をかけたり、かけられたりを笑い飛ばして、ひとつ貸しだからな? なんて冗談を交わしながら、個人じゃなくて集団の名声が上がっていくことを喜びに出来るんだろうか。
それも魔物と対峙する、命がけの場において。
どうにも自分には似合わないと思いはするが、正直憧れもする。
せっかく異世界くんだりまで流されてきたことだし、この冒険者ギルドでそうなれればいいな。
高校デビューは失敗以前にする気にもならなかったが、異世界デビューは狙ってもみても罰は当たるまい。
期せずして、今の所上手く行っているような気もするし。
なによりこっちでは、過去バレする可能性が皆無な点がすばらしい。
「じゃあ登録を先にします。どうすればいいですか?」
即座に用意された書類に、必要事項を書き込む。
名前、年齢、性別、得意スタイル、あるのであればパーティー名。
書き込む必要があったのはそれ位。
……わざわざパーティー名を書き込む欄があるくらいだ、普通は何人かでパーティー組んで申し込むものなのだろうか。
……。
いや、まだ挽回可能なはずだ。
ソロボッチ魔法遣いが確定したわけじゃない、まだ慌てる時間じゃない。
あとは必要書類として身元保証とか、聞いた事もないようなものをいろいろと要求されたが、持っているはずもない。
この辺はよくある、文明レベルからかっ跳んだ技術のギルドカードというわけではないようだ。
血を一滴垂らせば登録完了するようなやつ。
ものによっては、登録さえすれば犯罪歴から魔物の討伐歴まで記録される優れものもあるので、そうだったら便利だったのに。
そう思うと同時に、俺の義眼がこっちへ来てから俺が倒した魔物のリストと数を表示する。
うん、お前は凄いよ能力管制担当。
というか俺の義眼はお前の一部みたいなものなんだな。
(・`ω´・)
顔文字で威張るの止めなさい。
あとハーレムリストとか妙なカテゴリ造るのもよしなさい。
(´・ω・`)
……。
うん、本格的に名前を付けてやるべきかもしれないな。
ともあれ必要な書類が揃わなければ如何ともし難い。
今のタイミングでの冒険者登録は断念するべきかと思ったところで、ザックの紹介状を思い出した。
「こ、これは……」
紹介状を渡すと、封を開ける前からクロエさんの目が驚きで見開かれる。
立派な封筒にされた蝋封の家紋を知っていたようで、それに反応したようだ。
ザックの野郎、やっぱり謙遜してやがったな。
「え、ええと、ツカサ様。この紹介状で、他の書類は結構です。実力は先程見せていただきましたが、ルールですので最低ランクであるブロンズからの開始になりますが、ご了承ください」
持つべきものは人脈だなあ。
どこの誰だかわからない馬の骨をギルドに登録するのに、紹介状一枚で出来るんだもんな。
ザックには感謝しなければ。
聞くとランクはアルファベット形式ではないようだ。
ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナという鉱物系。
なんかクレジットカードみたいで、ちょっと笑う。
――普通では狩れない魔物がいる。狩れる人はプラチナカード。
「それで、魔物の買い取りとのことですが……」
「そうだぜ大将、あんたの実力は嫌ってほどわかったが、肝心の獲物はどこに置いてあるんだ?」
そういや絡まれる要因の一つでもあったな。
アイテムボックスの存在を知らなければ、俺は当然手ぶらにしか見えない。
「一角兎や牙鼠は生きてりゃ恐ろしいけど、仕留めりゃそこらの兎や鼠と大きさは変わらねえ。持ってこれねえほど大量に仕留めたのか?」
「ああ、そういうわけじゃない。クロエさん、鑑定場所というか、解体場所というか、保管場所みたいなのはどこかある?」
「え、ええ。左手奥が大型の獣とかを買い取る際に、値付けをする場所です」
「じゃあ、そこに移動しましょうか」
「?」
怪訝そうな顔はされるものの、さっきの件もあるのか黙って案内してくれる。
当然の様に付いてくるシロとミケに笑いそうになるが、止めることもあるまい。
別に立ち入り禁止の場所というわけでもないらしく、他の職人はともかく、他の冒険者たちもぞろぞろとついてくる。
結構広いスペースだ。
ボスを含めた「砕狼」三十匹全部出すのは何とかなるだろう。
一番でかいボスを最初に出しておいたほうが良いな。
義眼で指定した場所に、「砕狼」のボスを出そうとする。
――間違えた。
突然目の前に現れた魔物の巨体に、その場にいた全員が息を呑む。
こっちを向いた、生気の無い目と目があった数人は尻餅をついている。
「ト、雷龍の成体……」
「ああ間違えました。こっちは王家が買い取るらしいので売れないんですよ。買い取って欲しいのはこっちです」
間違って出した「雷龍」を再度アイテムボックスに収納し、本来出す予定だった「砕狼」のボスを出す。
瞬間で五メートル以上ある「雷龍」が消え、その場所に三メートル級の「砕狼」のボスが現れる。
「こ、今度は砕狼って……」
三メートル級のボスを出してもスペースに問題ないようなので、白いのも含めた他の「砕狼」もすべて取り出した。
この間俺は、他人から見れば全く動いていない。
しゃべりながら視線を移動させていただけだ。
「アイテムボックス」を知らなければ、何が起こっているのか全く理解できないだろう。
3メートル級のボス、白いやつ、普通の砕狼がずらりと並ぶ。
用意されている場所、ほぼいっぱいの状況だ。
「雷龍」は王家の予約済みとして、他の魔物もここでは出さないほうが良いと判断した。
砦の夜に試験撃ちで仕留めた魔物の中には、大きさで言えば「雷龍」よりも大きいものもいくつかいたし、カイン近衛騎士団長に確認を取ってからにした方が無難だろう。
「な、な、な、なにが……」
動揺するクロエさんの背後で、シロとミケも口を開けている。
猫系だけあって、こう言う表情なら結構かわいいといえなくもないな。
ギャラリーたちからも、囁き声というには大きすぎるざわめきが生まれている。
「ああ、これも魔法です。なんというか、見えない空間に収納していると思ってください」
「え? あ、そうなのですか。いえ目の前で見せられては信じるしかないんですけれど……それよりもその、ツカサ様? これどう見ても正規兵による討伐軍が組まれる規模の「群れ」だと思うんですけど……」
ああ、「魔法遣い」という事を信じてしまえば、便利さに寄った「不思議」は全て魔法で納得できてしまうものなのかな。
ある意味魔法が一般的に普及し、研究や分析が進んでいる状況じゃなくてよかったのかもしれない。
もしそうなら、俺の能力によるものは、「魔法ではありえない!」との指摘を受ける可能性もあった訳だし。
魔法が漠然と「すごい力」と認識されている程度だからこそ、本物となれば「アイテムボックス」くらいは、そういうモノとして受け入れられるのだろう。
これも使いようによっては魔法を凌駕する恐ろしい能力なんだけどな。
次話 1周目【力の兌換】
10/23投稿予定です。