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第12話 1周目 【冒険者ギルド】

 俺の義眼はやはり相当に便利だ。


 当然初めて訪れた王都ファランダインだが、かなり詳細な地図がすでに展開されている。

 俺の転移に合わせて、義眼にリンクした衛星をいくつかこの世界(ラ・ヴァルカナン)に飛ばしているんじゃなかろうかと疑うレベルだ。


 今俺の視界に表示されている地図が、どう見ても衛星からの画像にしか見えない。


 まあ今は黒猫だが、珠にとってはこれくらい軽いものなのかもしれない。

 ただの、というにはちょっと特殊ではあるにせよ一応は人間である俺を、「超人」と言っていい存在に変えてしまえるだけの能力(チート)を付与できる存在なんだよな。

 その上で人一人を、実際に異世界(なのか実は他の星なのかは確かめる術がないが)へすっ飛ばせるのだから大したものだ。

 

 「創造主とその使徒(ショ○カー)」というのはどうやら本当らしい。

 少なくとも、そうだと思わせるだけの力を持っているのは確かだ。


 それでもどうにもならなかった、俺の「死に戻り」の能力っていったいなんなんだろうな。

 まあ今そんなことを考えても仕方がないか。


 大国の王都だけあり、ファランダインには大きな市場や娯楽施設だけでなく、各産業の中心を担う施設も一通りそろっている。

 かなりの規模で「夜が最もにぎわう」一角もあり、正直なところ興味が引かれる。


だが今は「冒険者ギルド」への登録を最優先とする。


 そんなに時間がある訳でもないし、王都に着いて早々色町巡りをしていたなどとどこから知られたらばつが悪いなんてものじゃない。

 ただでさえサラに、セシルさんとの一件を説明しなければならない俺にとって、致命傷になりかねない。

 間違いなくセシルさんも敵に回ってしまうだろうし。

 昨日の今日、いや今朝の夕方で色町へ足を運ぶのはさすがにフォローの余地がないだろう。


 たとえ行ったところでどうすればいいかわからないし、現時点では手持ちの現金はゼロなので、一昨日きやがれと叩き出されるのが関の山だろうが。


 まあ金については、「冒険者ギルド」で「砕狼(アトミスガルフ)」を売り払えばある程度の金額にはなるだろう。

 ボスが一匹いるし、白いのが一匹だけ混ざっていた。

 毛色の違うやつは、高値が付くかもしれないしな。


 「冒険者ギルド」の建物は歓楽街の奥、色町――俺の知識から表示されている地図ではそうなっているし、ほかに思い浮かぶ言葉は遊郭とか廓とかだが、この世界(ラ・ヴァルカナン)ではなんて呼ぶのだろう――との境目あたりにあった。


 そんなに大きい建物でもないし、いわゆる()()()()でもない。

 まだ日が落ちていない今頃の時間は閑散としているし、治安がいい一角とはとても言えないだろう。

 とはいえさすがは大国の王都だけあって、一定の区画ごとに警備兵や屯所が設置されており、いわゆるスラム街のような空気ではない。

 国に公認されているという意味では、遊郭というのが正鵠を射ているのかもしれない。

 もっとも周りに壁などはないのだが。


 正直、本来の俺からすれば相当に気後れする雰囲気を醸し出しているのだが、ここまで来て尻込みしていても始まらない。


 意外と大きくて立派な扉を開け、「冒険者ギルド」へ足を踏み入れる。


 目の前に巨大な依頼板(クエスト・ボード)がどんとあり、そこへ羊皮紙みたいなものがびっしりと貼り付けられている。

 あれら一つ一つが依頼(クエスト)なのだろう。

 右手はカウンター付の食堂のようになっていて、幾人かのおそらくは「冒険者」がたむろしている。


 おお、獣人(セリアンスロープ)だ。

 亜人(デミ・ヒューマン)も居る。

 

 砦の兵達も全員普通の人間で、王都に着いてからも大通りなどで見かけるのは普通の人間ばかりだったので期待していたが、やはり「冒険者ギルド」には居た。

 種として人より戦闘力に長けている獣人(セリアンスロープ)亜人(デミ・ヒューマン)は、冒険者や傭兵として身を立てているものが多いのだろうか。


 異世界転移をしたからには、獣人(セリアンスロープ)亜人(デミ・ヒューマン)と接点を持ってみたいと思うのはしょうがない所だろう。

 できれば猫耳獣人(セリアンスロープ)とか、褐色で耳の長い亜人(デミ・ヒューマン)とお近付きになりたいものだ。

 言うまでもないが女性だ、男だと罰ゲームにしかならん。


 いかん、思わずガン見してしまった。


「何ガン付けてんだよ、新入り!」


 などというお約束をちょっと期待したが、誰も俺に興味など持っていないようだ。

 残念だが、結構肝が太い連中なのだろう「冒険者」というものは。


 テンプレを外して少ししょんぼりしたが、当初の目的を果たすことにする。


 左手に複数ある受付窓口で、ギルド職員が暇そうにしている。

 ヴェイン王国の冒険者ギルドは、受付嬢を美人で()()()という拘りはないようだ。

 それどころか男の受け付けもいる始末。


 ――わかってないなあ、これじゃ物語が始まりにくいじゃないか。


 美人受付嬢に憧れる駆け出し冒険者とか、S級 (そんなものがあるかはまだわからないが)冒険者に惚れる新人受付嬢とか鉄板だろうに。

 例えば、新顔のはずなのにS級 (そんな以下略)でも倒せない筈の魔物(モンスター)を倒して持ってきた、謎の男にドキドキするとかさ。


 まあ異世界(ラ・ヴァルカナン)とはいえ、現実はこんなものなのだろう。

 揃えられていないというだけで、ちゃんと可愛い娘もいるのが救いだ。


 馬鹿な事を考えていても仕方がない、そのなかでも結構かわいい女の子の受付窓口を選んで声をかける。


 肩より少し伸びたちょっと癖のある赤髪と、大きな目が愛嬌のある小柄な女性。

 この世界(ラ・ヴァルカナン)ではいくつ位から働くのが普通なのかは知らないが、少なくとも二十歳を過ぎていることはないだろう。


 義眼で確認するまでもなく、猫系の獣人(セリアンスロープ)だ。

 なぜなら猫耳が生えている。

 あっちのコスプレイベントに出せば、相当な数のカメ小を集める事が出来るだろう完成度だ。

 本物だから当たり前だが。


 そうだよなあ、最初にサラ王女という別格と、そういった別格を除けば相当な美女であるセシルさんを見たせいで、分も弁えずに目が肥えてしまったんだな俺は。

 おそらくは心にまで影を落としていたであろう古傷が治ったせいか、表情が柔らかくなったセシルさんは五割増しで綺麗、というか可愛らしくなった気がするし。


 今さらりと「結構かわいい女の子」と俺が評した娘でも、向こうでは俺のことなど歯牙にもかけないだろうし、俺がそう評したと知ったら棒読みで「ソレハドウモー」とか言われそうだ。


「すいません、魔物(モンスター)の買い取りをお願いしたいのですが」


 無視された。


 さぼっている訳ではなく、帳面にてきぱきと何か記入して行っている。

 丁寧に手入れされた爪と指が綺麗な娘だ。

 書き込むリズムに合わせて、猫耳がピコピコしている。

 

 あたりまえだが、本当に本物なんだな。

 

 人間なら耳のあるべき部分はいったいどうなっているのだろう。

 頼んだら見せてくれたりするんだろうか。


 さほど大きな声を出した訳ではないし、相当集中しているようなので聞こえなかったのかな。

 今も受付窓口の前に立っている俺が目に入っていないようだし。


「あ、あのー」


 無視とかされると突然弱気になる。

 情けないとは思うがこれはもう性分だな。


 再び完全に無視。

 いくらなんでもこれはおかしくないか?

 今の話しかけ方なら、どれだけ集中していてもさすがに気付く――


 ――あ。


 「隠行(オクルト)」解除するのを忘れていた!

 どうりでさっきガン見していても、何の反応もなかったわけだ。

 よかった、あえて無視されているんじゃなくて。


 ほっと胸をなでおろしつつ、「隠行(オクルト)」の魔法を解除する。


「すいません、魔物(モンスター)の買い取りを――」


「うにゃああああああ!!!」


 目の前の猫耳少女が、椅子から飛び上がって奇声を上げる。


 つられて俺も驚いた。


 左肩のタマ――珠が黒猫になったんだし、猫としては一般的な名前だろうしもはやそう呼ぶことに決めた――も毛を逆立て、二本の尻尾は天を向いて直立している。


 そんなに驚くか。


「あ、あなた誰なんですか? いつからそこに居たんですか? 気配も何もなかったじゃないですか!」


 左肩のタマと似たり寄ったりの様子で、受付嬢が大騒ぎだ。

 その声に他の受付窓口や、右手の食堂兼酒場でたむろしていた冒険者たちも反応する。


「えーっと今日初めてここに来た冒険者登録希望者。さっきからここに居ました。気配がなかったのはうっかり「隠行(オクルト)」解除するの忘れてたんで、すいません」


 冒険者ギルドの職員ともなれば、他人の気配を察知できて当然なのだろうか。

 それともこの受付嬢が猫系の獣人(セリアンスロープ)ゆえに、目の前に立っている俺を察知できていなかったことに驚いているのだろうか。


 判断がつかない。


「おくると? なんですそれ?」


 冒険者希望という事に一応は安心したのか、聞きなれない言葉に反応を示す受付嬢。

 今現在のこの世界(ラ・ヴァルカナン)で、魔法が「逸失技術(ロスト・テクノロジー)」となっていることをうっかり忘れていた。

 魔法の固有名詞を言われてもわかる筈ないよな。


「――いや、何でもないです。驚かせてすみませんでした」


「え、いえ、こちらこそ大袈裟に驚いてごめんなさい。突然目の前に現れたようにしか思えなかったからびっくりしちゃって」


 軽く謝罪すると、慌てて向こうもぴょこんと頭を下げる。

 ただ「おっかしいなあ、いくら仕事に集中してたといってもねえ?」などと独り言が漏れ出ている。

 この距離であれば感知出来て当たり前という事だろう。


「えーと、すいません。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 気を取り直した様子で、本来の職務を遂行しようとする猫耳受付嬢。


魔物(モンスター)の買い取りをお願いしたくて――」


 俺の不用意な発言を引きずることなく仕事に入ってくれたので、これ幸いと本来の目的を果たそうとしたところで、背後に気配を感じた。


 ほんとだ、別に特殊な技術や才能が無くても、ある程度以上近づかれたら気配を感じるものだな。


「ちょっと待ちな、小僧。テメーが冒険者ギルドに入ってから、クロエちゃんが悲鳴を上げるまで俺達もテメーの存在に気付いちゃいなかった。相当なハイディングスキルだが、盗賊が盗品売りにくる場所じゃねえぞ、冒険者ギルドは」


「その上、わざわざクロエちゃん選んで驚かせるとはいい趣味してんじゃねーかコゾー」


 猫耳受付嬢はクロエちゃんというらしい。

 やはり可愛いだけあって、冒険者ギルドの人気者と言ったところか。

 そのクロエちゃんにいたずらを仕掛けた慮外者を、とっちめてやろうって事だな。


 やめてくださいとクロエちゃんが止めてくれているが、聞く気はなさそうだ。

 こう言う光景は日常茶飯事なのか、職員も他の冒険者たちも遠巻きに眺めているだけだ。


 二人とも俺からすれば巨躯としか言えなが、おそらくはクロエちゃんと同じ猫系の獣人(セリアンスロープ)だ。

 厳ついが、虎や豹のような感じではない、あくまでも猫だ。

 かわいくはないが。


 うーん、絡まれたというには俺にも非があるし、テンプレにはなり切れてはいないな。

 素直に謝っておくことにする。


「不注意で驚かせたのは申し訳ありません」


 魔法ではなく、スキルであれば気配を消す類のものは存在するらしい。

 どうやらそのスキルを高レベルで身に付けているのは、盗賊などのあまりよろしくない生業の方々の様で、要らん警戒心を与えてしまっている。


「ですが私は盗賊ではありませんし、盗品を売りさばきに来たわけでもありません。魔物(モンスター)の買い取りをお願いに来たのです」


 俺の言葉に、絡んできた二人だけではなく、クロエちゃんもきょとんとした顔をする。


魔物(モンスター)の買い取りって、オメー……」


「獣じゃなく、魔物(モンスター)?」


 そんなおかしなことを言っただろうか。

 絡んできたはずの二人の俺を見る目が胡散臭いものを見る目に変わっている。

 クロエちゃんもちょっとジト目だ。


「えっと、冒険者ギルドに登録しておかないと、魔物(モンスター)の買い取りとかはやってもらえないんですか?」


 ルール違反をしているのでは話にならないし、そうであればまず冒険者登録をするべきだろう。

 もともと冒険者としては登録するつもりだったんだし、特に問題はない。

 やはりS級とかSSS級とか目指してみたいじゃないか。


「そうじゃなくてオメー、その肝心の魔物(モンスター)はどこにあるってんだ。大体そのひょろっちいなりで獣じゃなくて魔物(モンスター)狩りましたって……」


「だいたい武器すら持ってねーじゃねーか、コゾー。魔物(モンスター)倒した夢でも見て、起き抜けにそのまま冒険者ギルドまで来ちまったのか?」


 白い方と三毛の方が交互に聞いてくるのがちょっと面白い。

 うちのタマと組んでにゃんこ戦隊でも組んでみたらどうだろう。

 紅一点にクロエちゃんが参加してくれたらいい感じだが、戦隊ものにはちょっと足りないな。


 どうやらそれなりの冒険者たちにとっても、そう簡単に狩れる獲物でもないようだ、魔物(モンスター)と言うものは。

 狩るのは主に獣であり、魔物(モンスター)は別格。


 嘲笑する言葉でありながら、節々に魔物(モンスター)に対する()()が見え隠れする。


 それをちょっと見ない真っ黒な格好をしただけの、武器すらも装備していない、まあいってもコゾーが狩ってきたと言われても信じることなど出来はしないし、どこか馬鹿にされたように感じているのだろう。


 だから徐々に嘲笑する空気になってゆく。

 行かざるを得ない。

 荒くれ者の性もあるのだろうけれど。


「ええと。一応私が狩った魔物(モンスター)……だと思うんですが、鑑定場所で見ていただいていいですか?」


 「砕狼(アトミスガルフ)」を見て貰えば一発だと思うんだが、こう言う空気になるともう遅いか。

 絡むことそのものが目的になってしまっては、何を言っても同じことだ。


「だから。そもそもその魔物(モンスター)とやらがどこにもねーじゃねーか。今から夢の中に取りに行きますってか?」


「だいたいどうやって倒したってんだよ、得物もなしで。森で捕れる甲虫(ビートル)魔物(モンスター)じゃねえぞ?」


 ああそうか。


 アイテムボックスなんて知る訳もないし、彼らから見れば武器も証拠も持たないまま魔物(モンスター)を狩ったのだと主張する、痛々しい子供って事か。


 よくもそれだけ嬉しそうにバカにできるものだとも思うが、確かに普通から考えればバカにするしかないようなことを口走っている訳だな俺は。


 ああもうめんどくさい。


「――ああ、俺は魔法遣いなんでな。魔法で狩った」


 もうこの際、本当の事をいう事にする。

 言っただけでは信じないだろうから、証拠も見せることにしよう。

 ちょっとだけむかっ腹もたったしな。


 どうせ王家と関わってしまったからには、定番の一つである力を隠してこっそり暮らすのはもう無理になっていることだし、まあ構うまい。


 投げやり気味な俺の一言に、目の前の二人が一瞬沈黙する。

 常識人からすればあまりな言葉だったのか、クロエちゃんも目を見開いて驚いている。


「だはははははは魔法遣い様だとよ、このコゾー様が!」


「でしたら杖はどうしたんでちゅか魔法遣い様! ああそうか、強力な魔法で魔物(モンスター)を焼き尽くしちゃったから獲物はないんですね。こわいッス!」


 沈黙の後、もはや頭が可哀想な人を相手にするように二人は爆笑を始めた。

 クロエちゃんもちょっと気の毒そうな目で俺を見ている。


 というか、やっぱり魔法遣いには杖のイメージなんだな。

 俺もなんかダミーに持った方がいいんだろうか。今後のためには。

 行く先々でこの展開も気疲れするしなあ、一回目だから結構楽しめてるけど。


 遠巻きに見ていた職員や他の冒険者も失笑したり仲間内で笑いものにしている感じだ。


「魔法遣いってのはあれだろ? 教会で祈りを捧げて、世界の危機には私の奇跡の力を神のために使うのです。魔物(モンスター)などにみだりに使うものではないのです! とか言ってるインチキ司祭の事だろ?」


「ばっかあの魔法遣い様はそんな偽物じゃないってよ。だって魔法で魔物(モンスター)狩ったらしいぜ? 絡んだあの二人消し炭にされちまうんじゃね?」


「こわーい」


 ようしこれ喧嘩売られてるよな?

 売られた喧嘩は、もれなく高値買取だ。

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