第07話 蹂躙
辺境に海嘯の如く湧き出た魔物を、魔法遣い達が魔法で薙ぎ払う。
魔法遣い達それぞれが持つ最大の「魔法」を魔力消費を気にすることなく連射しているので、これは防衛戦とはいうものの一方的な蹂躙だ。
立場を入れ替えて考えれば、悪夢のようなものだろう。
無尽蔵の魔力を背景に、強力な魔法を釣瓶打ちされる。
しかも射手は撃破した魔物の数に従い、より強力な魔法を放つ様になっていくのだ。
本能はあれど知性無き魔物であるからこその止まらない侵攻。
知性を有する魔獣であれば、間違いなく一旦引いているのは間違いない。
それほどまでに、現時点での彼我の兵力差は圧倒的だ。
――圧倒的じゃないか、我が組織は。
いかん、負け旗かコレ。
しかしこの一連の戦闘で、十三使途をはじめとした「魔法遣い」たちのレベルは飛躍的に上昇するのは間違いない。
近接戦闘しかできない「冒険者」たちは無駄な犠牲者を出さないように控えてもらっている。
現状は、浮遊島から遠距離攻撃で一方的にタコ殴りできる魔法遣いの独壇場だ。
全体の経験値効率を考えれば、俺はあまりでしゃばらないほうがいい。
もはや俺のレベルは数万の敵を倒したところでほとんど上昇しない域に達している。
古のPS○エピソード2の終盤のようなものだ。
まあ持っている武器は赤武器ではなく強力な魔法なのだが。
ファ○・クロー、ネモ爺様作ってくれないかな。
作ってくれたら右手に装備するんだけどな。
俺の銀の義眼に表示される魔物の数が厚い場所を常に掌握し、数で押し切られるようならそこをフォローすればいい。
現在俺たちは前線近くに出てきてはいるものの、実際の戦闘には参加していない。
リリンを連れている状態だし、今の状態のまま実戦につれていくのもいろんな意味で不安が付きまとう。
だからと言って置いていくわけにもいかないしな。
「すごい……」
リリンが思わずという様子で感嘆の声をもらした。
今俺たちの居る浮遊島からも、前線で撃ちまくられている魔法のエフェクトは遠い花火のように見えている。
たしかに綺麗だ。
だがリリンが言っているのはそれの事ではないだろう。
ここからでも二か所ほど確認できる、八大竜王が担当している地域の爆炎と言おうか、爆発といおうか、とにかく派手なエフェクトに見とれているのだろう。
まあ確かに初見であれば、あの爺様たちの攻撃はとてつもなく派手だ。
俺たちはもう見慣れているので、いちいち驚いたりはしないが。
「八大竜王達の担当区域には、魔法遣い達を近づけないようにしないとなあ……」
「竜王達に一緒に焼き払われちゃいますものね」
今や竜王達をよく知るクリスティーナがくすくすと笑う。
いやそこの笑ってる貴女、その竜王達を一撃八把一絡げで斬り墜としたでしょ。
知っていますか、俺たち夫婦が王都でどういう風に言われているか。
――夫婦喧嘩で世界が滅ぶ、いちゃいちゃしてくれてりゃ平和。
王都ファランダインでこの流行歌聴いたときは、膝から下の力が抜けた。
俺に聴かれたことに気づいた歌い手の表情が面白かったからよしとするが。
ただし間違ってもクリスティーナには聞かせてくれるなよ。
えらいことになるから。
――なぜか俺が。
とはいえ俺やクリスティーナ、ジャンやネイが出ている前線の方が、味方にとって危険だと認識されているというのもどうかと思う。
間違いなく真実なので何も言えることなどないのだが。
まあそんな状況なので、魔法遣い達も行けと言われても八大竜王の周りには近づきもしないだろう。
爺様達の戦闘領域に平気で突撃できるのは、最近竜化獲得を目指して絶賛勝負中のセトくらいだ。
「しかし爺様方ノリノリだけどいいのかね? 八大竜王って魔獣達の王、つまりは魔物たちにとっても親玉みたいなもんなんだろ?」
それが人類のために魔物を薙ぎ払っているってのはどうなんだ。
八大竜王を味方に付けた俺が言う事じゃないのかもしれないけれど。
「伝承ではそうなっていますわね。……とてもそうは見えませんけれど」
何とか立ち直ったアリアさんは、もはや何か達観した表情だ。
真面目に「聖女」をやってきた彼女にとって、つい最近までジアス教の伝承は絶対と言っていいものだったことはよくわかる。
それが東○ポの記事程度の信憑性に過ぎぬとなれば、無表情にもなる。
うちのクリスティーナは俺とのあれこれがあったからその辺はもうすでに通り過ぎた場所だが、アリアさんにとってはキツイよな。
それに、もはやだれ一人として本来の「聖女」の立ち位置にはいやしない。
クリスティーナは言うまでもないし、一見正しい「聖女」ポジションに収まっているネイは「勇者様」じゃなくて、ただ「ジャン」が好きなだけだ。
勇者が聖女に絶対服従とか、もはや意味が分からない。
ただ一人正しい聖女たらんとしたアリアさんも度重なる酷い展開の末に何かを悟ったようだし、もう「勇者と三聖女」もへったくれもない状況だ。
本来なら「四人目の聖女」の存在は驚愕の事実と疑心暗鬼を生んでいたのかもしれないが、もはや誰もそんなこと気にしちゃいないもんな。
厄介な状況と思えたが、冷静に考えれば実はそうでもないのだ。
「勇者と三聖女」はそれぞれ自分の在り方を得ている(アリアさんはまだちょっとあれだが)し、四人目の聖女の正体は割れている。
如何様にでも対処できそうだよな、この状況。
もちろん油断は禁物だが。
「というかリリンさん、ツカサさんを「勇者」だと思ってないスか?」
いや「勇者」のお前がそれを言うなよジャン。
まあ勇者じゃなくてもネイの傍に居れるようになったジャンにとって、「勇者」という立ち位置がさほど大事なものじゃないってのはわかるけど。
お前はネイの勇者であれればいいんだもんな、はいはいごちそうさま。
「まあ今更どうでもいいですわ。姫巫女はツカサ様の奥様ですし、私も今やツカサ様の寵を得ねばならぬ立場ですし。当の勇者様はたまたま聖女だった奥様に夢中というか下僕というか忠犬ですし、三聖女が四聖女になって、それがまたツカサ様に惚れたとしても何を今更……」
本来のアリアさんにあるまじき、けっとつばでも履きそうな様子だ。
いかん思ったより荒んでいる。
黒アリアさんになりかけている。
「え? ツカサ様が勇者様ではないのですか?」
「ほ ら ね」
アリアさん……
しかしリリン、「四人目の聖女」という設定なだけあって「勇者」というキーワードは覚えているというか、反応するんだな。
『我らは魔獣の王ではあるが、意志持つ存在なのでな。己の意志で従う相手は決める。魔物であろうが魔獣であろうが、敵対するのであれば容赦はせぬよ』
先の会話を聞いていたのか、黒竜が話しかけてくる。
血を取り込んでいる俺とセトとは、どこにいても会話ができるというのは便利ではある。
八大竜王の血を研究して通信システム構築したいって言ったら怒るかな。
まあその前にネモ爺様たち錬金術師が何とかしてしまいそうだけどな。
王都ファランダインの映像システムの様に、短距離一方通行であればすでにある程度形になっていることだし。
そういえばカザン大司教が最初にセトを読んだ仕組みは何だったんだろうな。
たしか普通に呼んだらセトが速攻で現れていた。
何か仕組みがあるのなら、それを流用すれば通信システム構築に役立ちそうだ。
『「大いなる災厄」がこの程度では終わるまい。本来人類に敵対する我らが味方になっておるこの状況であれば、本来我らに対応して人類を守護するものが敵に回るのではないか』
ああ、ありそうだなそれ。
「ありそうですね、それ」
俺とタマの意見が一致した場合、かなりの確率でそれは当たる。
『そういう存在がいるのか?』
『過去にはな。いつの間にやら姿を消し、人の世の伝承にはジアス一神だけが残ったが、本来は我ら八大竜王に対して、九柱神というものが存在した。――いわば喪神よな』
間違いなく来るな、それは。
そしてその予想は案の定、数秒後に現実となる。
次話 旧神顕現
近日投稿予定です。
読んでいただければ嬉しいです。
申し訳ありません、何とか更新頻度を元に戻すべく頑張ります。
長期出張の移動時間のためにラノベ持ってきたんですよ、シンセンに。
イミグレでエロ小説扱いで没収されかけました、境ホラ。
……ある意味あたってるか。