ある若者の話【続】
「しかし…惜しいな。あんたの首を揃えれば賞金首は皆俺達が狩り取ったことになるのに」
「どうして賞金首になるのか、知ってるか?」
「そりゃあ、危ない奴だからだよ」
すると男は馬を降り、若者のすぐ目の前まで歩いてきた。少し見上げる程度の背の高さだったが、若者にはそれ以上に感じた。
「一つ見逃してくれた礼に教えてやろう。俺の勘では、この国は後3年で滅びる。お前も、お前の部下も。その家族も」
「…冗談だろ?」
「俺もそう思いたいがね。賊や貧民達の命はあと僅かなのさ。ところが、不思議な事に皇族貴族は誰1人として死なないんだ。それどころか今よりももっと繁栄していくんだ。そんな不公正な話があってたまるか。…この国の何かがおかしいんだ。俺は仲間を集め全てを調べた、そして遂に答えを見つけたんだ。…ハァ、だが国民に真実を伝える前に統治者達は動いた。…結果俺を含め仲間も国にとっては犯罪者。お前の言う『危ない奴』なんだよ」
「……………」
知らなかった…
男の話が本当なら若者が奪ってきた命は皆哀れな者達のものだったのだ。国を思い、弱き民を救おうと行動した者達。しかし、それは皮肉にも国の裏切りにより全て無に帰せられてしまった。心の奥底から後悔にも似た気持ちと共に男が探り当てた『真実』に対して探究心が湧いてきた。それは狩りのときの獲物を探し出そうとする感情と似ていた。そんなことを考えながらふと顔を上げると男と目が合った。
(来るか?)
男の目は確かにそう言った。
「…仮に俺があんたに付いて行く事で3年後の国の未来を変えられるのか?」
「それは俺に付いてくれば分かる」
「でも部下達が…」
そこで男は後ろを指さした。指の先には、若者が襲われそうになったらいつでも撃てるように引き金に指を掛けてひっそりと構えている部下達の姿があった。
「お前なしでも十分やっていける。心配ない」
「……わかった」
腹の内は決まった。若者は次のリーダーに相応しい『右腕』を呼んだ。『右腕』はすぐに走り寄ってきた。
「お怪我は?」
近くにいる賞金首を睨みながら若者に言った。
「何ともない。急だが俺は少しの間団を抜けようと思う。留守の間はお前が俺の役をしろ」
「…は?」
「今日の支払いは俺の隠し金庫から皆に配っておいてくれ。頼んだぞ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!どちらへ行かれるんです?いつお戻りに?ってか、なんで急に!?」
「話したら長いんだよ。帰ってきた時に土産話と一緒に聞かせてやるよ。わかったな?」
全く状況が掴めない部下は動揺を隠せずにいたが、少しの間目を瞑ると首を上下に振った。
「いい子だ」
後ろを見やり他の部下達にも『さよなら』の意味を込めて大きく手を振った。若者からそんな事を1度もされた事のない部下達は…ある者は応えるようにして不思議そうに手を振り、ある者は隣の者と目を合わせながら(どういう事だ?)と呟きあっていた。
その表情がおかしくて噴いた。
「頭…」
振り向けば『右腕』は若者の愛馬を連れてきていた。どこまでも気が利く部下だ。
既に男は馬に乗り待っている。
若者は颯爽と跨ると部下に向けて軽く頭を下げた。
愛敬の意を込めて…
«ドドドッ…ドドドッ…»
«ドドドッ…ドドドッ…»
見慣れた街が霞んで見えなくなってきた。それでも2頭の馬は速度を緩めることなく突き進む。
若者には男に聞きたい事が山程あった。が、それは焦らなくてもゆっくり聞いていけばいい。すると、
男の方が先に口を開いた。
「お前、名は?」
若者も馬足音に負けない声で答えた。
「俺は」