鍵と熱血男
「……朝か」
目を覚ますとベッドの上だった。
気絶した後、争也さんあたりが運んでくれたのだろう。天井はあそこと同じだ。
まだ身体中が痛い。特に背中が。
「あ、起きたんだ。知り合いの闇医者にみてもらったんだけどあと三日安静にしてれば治るらしいからそのままジッとしててよ」
闇医者とか物騒な単語は出てきたがそれは無視するとして……。
「なにしてるんすか」
少し体を起こしてガサゴソしている背中を疑いの眼差しを向ける。
「何って昨日届いた荷物の中をあさってるんだよ。もちろん君の荷物だけどね」
だと思った。鞄は見たことのある地味な色合いのものでよく見るとイニシャルであるIが刻まれている。
「人の荷物を勝手にあさっって開き直らないでくださいよ!」
携帯を勝手に見られるのが嫌のように鞄の中というプライベートなところを覗かれるのは気分が悪い。
「そんな怒んないでよ。慎太くんをここまで運んだのは僕なんだから逆に感謝してほしいもんだよ」
「ありがとうございます。そしてさっさと出て行ってください」
「片言! どうして慎太くんは僕を嫌ってるんだい?そういうのは差別と同じなんだよ」
自分を悪党と名乗る人に差別がどうかとかと言われても説得力がない。
「差別とかじゃないです。ただ単に生理的に受け付けないだけなので」
「それはそれでショックだね。まあでもいつか僕の良さが分かってくるよ。それまでは暖かい目で見守ってね~」
散々鞄やらを荒らしておとなしく出て行ってくれた。
「はあ~、疲れる人だな。もうひと眠りでもするか」
痛みを我慢しながら再び布団の中へ潜った。
「団長ありましたか?」
リビングで待っていた零夏が迎え入れてくれた。あの目つきの悪い高校生なんかより優しい。
「まあね♪ でも心配だね僕が鞄の中から盗み出したのに気づきもしなかったよ。ちゃんと分かるように鞄をあさってるところを見せたのにだよ。ありえない。鈍感というか危険だね」
流石になんか嫌われちゃいましたなんて上に立つものとして言えないのでいつも通りに振る舞う。
「寝ぼけていたからじゃないのか?一昨日はあんなに頑張っていたからな。それか彼には団長が遊んでいるように見えたのかもしれないな」
ぶっちゃけ欲しいものは手に入れたので半ば遊び半分だったがそれでも納得いかない。
「どっちでもいいよ。最初から慎太くんを連れて行く気ははなかったからね。これでいいんだよ」
「そうですね。しかし、彼がこちら側の人間になったには変わりないんですから」
例の写真をネットにアップした時に今回活躍した悪党として倒れている彼の写真もアップしてしまっているしアクト団の一員になっている。
アクト団については抜ければいいのだが、ネットに上がったものはどうにもならない。経験したものもいるのではないだろうか?まあ、慎太は後戻りできないところまできてしまったということだ。
「じゃあ、こっちは準備でも進めていこうか」
「そうですね。でも博士の息子は凄いですね」
「博士が何かしたんじゃないの?でなきゃあんな風に育たないよ。それに零夏ちゃんも気づいてるでしょ」
「彼にも力があるということですか?」
本格的に力がつかえていないからか、一目でそうだと断言できないがあんな勢いで吹き飛んでクッションも何もなしであの程度の怪我で済んだいるのが決定的な証拠になった。
「それも悪の方のね。僕が手招きしなくたっていつかはこっちの仲間入りしてたんだから気にしなくたっていいよ」
「?私が気にしてるといつ言いました」
「零夏ちゃんは優しいからね、いちいちそういうとこ気にしちゃうんだよね」
それなりの時間を過ごしてきた仲なのでそれぐらいは分かっている。
「すいませんね。悪党に向いてなくて」
あ、ちょっと怒ってる。どうやら馬鹿にされたと勘違いしたらしい。
「でもそこが零夏ちゃんのいいところだよ。優しい人が悪党だとダメなんていう憲法なんてないんだからさ」
「……団長はズルいですね。そういうところがイライラします」
明らかに不機嫌なのだがそれでも争也は考えを変えない。
「まあまあ、それよりもこれは零夏ちゃんに渡しとくよ」
机の上に置かれたのは何処にでもありそうな銀色の鍵。それが次の仕事のカギとなる。
「あれ? 慎太くん何その恰好。もしかしてコスプレかなにか?そんなに目つき悪いんだから入れる学校なんてないもんね」
朝の七時半ごろ、制服を着て朝ごはんでも食べようかとリビングに入ったらいきなり失礼な洗礼を受けた。
「残念ながらあるんです。だからこの制服を着てこれから学校に行くんですよ朝から暇そうな団長さん」
もう朝ごはんを済ましたらしく食器が片づけられて初めて会った時と同じ形で今度はテレビゲームに没頭しているだらしない大人に嫌みたらしく返したがこちらを見ようともしない。
「……あの、聞いてます?」
「慎太くんは格ゲーとかする?格闘ゲーム」
とか言い出したのは朝っぱらからやっているゲームが格闘ゲームだからだ。ムカつくことに結構上手い。
「ボチボチですかね。たしなむ程度ですよ」
「そう。でも少しでも知ってるならさ~分かると思うんだけどさ~、これってどうやって画面の端に追い詰めるかが大切だと思うんだよ。コンボをいかにつなげるかも重要だけどそれを決める為の布石が必要なんだよ。全部防がれたら意味ないもんね」
「そうですね。じゃあ時間なんで行ってきます」
熱弁している間に朝食を食べてそそくさとアパートを飛び出した。
「ちょ……、はぁ~最近の子は話を聞かないな~。まあ元気だからいいか。あのこもあれぐらい元気なら心配しなくてもいいのにな~」
そこでコントローラーを投げ捨てて携帯を取り出した。
「もしもし、僕だけど慎太くんは問題なく学校にいったよ。怪我はもういいみたいだね。無理してる感じもなかったし大丈夫だよ。零夏ちゃんは計画通りに行動して僕もすぐ行くからさ」
最低限のことだけを伝えるとアパートを飛び出してあるところへ向かった。
「斑鳩 慎太です。ちょった変わった名前ですがどうぞよろしくお願いします!」
拍手が鳴り響くのを聞きながら確信する。
上手くいった…と。
前なんかは目つきが悪いせいもあってこんな自己紹介にならなかった、完璧にヤンキー扱いされてしまった。
だが今回は違う。冷たい視線とかはないし、怖がっている女子もいない。
その初めてのことを喜んでいると自己紹介は終わっていた。
「あ、しまったな」
俺の悪い癖だ。親父のせいで妙な実験に付き合わされることもない普通の日常が嬉しくてたまらない。
その時の自分の顔は誰にも見られたくないが窓側にいて視線は逆方向に集まっているので心配はいらなかった。
後は教科書をもらったり授業の説明を聞いて終わった。
「さてこれからどうしようかな? どうせ帰ってもあのゲーマーがいそうだし、腹も減ってねーしな」
まだ昼前なのだが学校から解放されたのでぶらぶらしているのだが迷子にならいように小道に入らず普通の道を行くがあまり面白そうなものはない。お金もないしはっきり言って何もすることがないのでどうしたものかと悩みつつも喉の渇きを解決させるために百円を自動販売機に入れようとしたが手から滑り落ちてコロコロと転がっていき溝に吸い込まれてしまった。
「うわ、最悪」
どうにかして取り出そうと試みたが鉄でできた格子に阻まれて不可能だ。
「諦めるのか? だとしたらお前は負けたぞ!」
聞き覚えのない声に振り向いてみるとそこには仁王立ちをして汚れのない白い歯を見せびらかしてくる筋肉質の男がいた。アメリカ臭の漂う彼はその渋い声で耳が痛くなるほどの大声を上げた。
「え~っと、どちら様ですか?」
親しく接してくるがこんなおじさんなんて見たことがない。こんな目立つやつなんて擦れ違っただけでも脳に記憶されるだろう。
「私か? 私は全てを愛し、悪を蹴散らすガーディアンレッドだ!」
全てを愛してるんじゃないのかよ! 悪はどうした。デザートは別腹って感じか?
と思いつつそのふざけた名前はどこかで聞いたことがある。何だったけ………
「あ!」
少し考えたことで思い出せた。それもそのはずだ。つい最近の出来事だったのだから。
「ん? どうした少年」
このおじさんは俺が倒したクール系イケメンの仲間だ。




