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悪党アクト   作者: 和銅修一
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風VS秘密兵器

「ガーディアングリーンはこの街を拠点にして活動しているヒーローで今回の仕事は僕たちの同業者つまりは悪はあいつにコテンパンにやられてね。その恨みを晴らしてくれって言うものさ」

 悪とは前に説明された力をもっていたり、慎太のように何らかの方法でそれを知って協力してくれる人たちの通称で争也の幼馴染である和斗はヒーロー側で善と呼ばれている。

 そのままじゃんと言いたい方も多いでしょうが、ご了承ください。彼らのリーダーはネーミングセンスがないのだ。

「それで俺にどうしろって言うんですか? もしかしてですけどそのなんたらグリーンと戦ってこいだなんていいませんよね」

「そのまさかだよ」

 言うと思ったよ。ていうか、絶賛待ち伏せ中だ。この男か何もしないわけがない。

「でもそれはあくまで最終手段だよ。恨みを晴らす方法なんていくらでもあるよ。たとえばこれで弱みを握るとかね」

 やたら高そうなカメラを持っていたのはそういことか。

 もっと別のことにお金を使ってほしいものだが零夏さんは乗り気らしく、デジカメをこっそりポケットに入れている。

「まあ、俺としてはその方が楽でいいですね」

 戦わなくていいならそれに越したことはない。

「お、出て来たぞ」

 何処からか手に入れた情報でグリーンの家を特定してその近くにある電柱の影に隠せれて十分。

 やっと目的の人が出て来たらしい。

 どれどれと俺も二人の後ろから顔を出してどんな顔をしているか拝んでやろうしたらそこにいたのは眼鏡をかけた美青年だった。

 顔が整っており、クール系で髪型は天然パーマなのか良くわからない髪でまるで風がなびいているような形だ。

「争也さん。俺も手伝いだいます。絶手ェ〜あいつには負けたくない」

「ん? 良くわかんないけどやる気になってくれたんなら嬉しいな。じゃあ、早速だけど周りの確認お願いしてもいいかな?警察とかに見つかりたくないからさ」

 確かにこの状況を見られたら補導されるのは目に見えている。

「分かりました。任せといてください」

 いつもだったら面倒ごとには巻き込まれたくないのだが今回は別だ。

 復讐? いい言い訳ができた。これでイケメン潰しを堂々とできる。

 目つきが悪いのに加えて何かを企んでいる笑みでいつもよりダークな雰囲気を纏わせ、追跡を開始した。




「その……なんというか普通ですね」

 それが追跡をして本心から出た感想だった。

「仕方ないだろ。今のあいつはガーディアングリーンじゃなくて大学生の伏見(ふしみ) 緑馬(りょくま)なんですから」

 表向きは普通の大学生で通しているのでヒーローらしい行動など一切せず図書館で勉強をしている。

「でもどうします? ここだと人目があるから戦えないじゃないですか」

「相手が移動するのを待つしかないだろうね。人目を気にする悪役もどうかと思うけど」

 しかし騒ぎになったら困るのはこちらだ。警察は正義の味方であるガーディアングリーンを援護してくるのは間違いないので出来るだけ人の少ないところで戦いたい。

「そうですね」

「待つのも悪役にとってはよくあることだ」

 初めて参加する俺を励ますように零夏さんは声をかけてくれたが、それだとテレビに出てくる怪人たちも本当はヒーローが来た頃合いを見計らって行動しているのかと思うと少し笑えてくる。




 チャンスが訪れたのはあれから二時間が経ち、図書館から出てから十分程度追跡した時だ。

「うん、いい条件だ。さて、ここでたが君には二つの選択肢がある。一つは君があのガーディアングリーンに挑むこと」

 いや〜流石にそれはちょっと〜。まだ未熟者の俺にそんなことができるとは思えませんし〜、と思いながら借りた本を歩きながら読んでいる背中を見つめる。

「二つ目は男を捨てて零夏ちゃんにお願いしてここで見学する」

 そこでハッと息を飲んだ。

 俺は何を迷っていたんだ。アクト団の一員だというのにこんな事でへこたれてどうする! ここで引いたら零夏さんに嫌われるかもしれない。

「勿論、一ですよ。俺は男ですからね」

「大丈夫なんですか? 団長はああ言っていますがここで引いても誰もお前をせめたりはしない」

「ありがとうございます。でも、男には負けると分かっていても戦わなくてはいけない時があるんです」

 あ、ちょっとカッコいいとか自分で思っちゃったけどこれ完全に死亡フラグと気づきつつもあんな台詞を言ってしまった後では戻るに戻れない。

「ちょっと待って。これだけでも持っていきなよ。流石に丸腰で挑むのはマズイでしょ」

「これは……?」

「君の親父さんがつくった兵器だよ。わざわざ僕のところに届けてきたんだ。博士の愛情が伝わってくるよ」

 受け取ったそれと争也の顔を交互に見つめて気づいた。

 この人は俺の親父に似ている、と。




「ま、待って!」

 俺は一本道のど真ん中で目の前を歩いているクール系イケメンに向かって怒声を上げた。背中に荷物を抱えてだ。

 周りには誰もいない。ここら辺には特に何とないからだ。使うとしたら近道をしようとする人ぐらいだろうが今は誰も来ないでくれよと願うばかりだ。

 これではカツアゲという言い訳もきかない。

「誰?」

 まあ、当然の反応だ。大荷物を持った知らない男に話しかけられたらそうなるわ。そんな顔になっても仕方ない。

「お、俺はアクト団の斑鳩 慎太だ!同業者がお世話になったそうだな。その借りを返しに来てやったぜ」

 後ろの角の影で見守っている争也が「うわ~、あの台詞いかにもって感じだね~」というの聞き流す。

「アクト団…。なるほど、随分と仕事が早いんだね。でも君は幹部じゃないね。雰囲気だけでわかるよ」

「う、うっせーーー!」

 図星ですよ。どうせ新人のピーピーだよ!だが、そんな俺にも意地がある。任されたのだから成し遂げてやる。途中で諦めてしまうのはもっとかっこ悪い。

「やっぱりそうですか。それならよしたほうがいい。どうせ君が言う同業者と同じ目に合うだけだよ」

「そんなのやってみなくちゃ分かんねーだろ」

 たとえヒーローだとしてもこんな優男に負ける気などしない。

「君もこの街にある力のことは知ってるでしょ。善と悪のこと」

「まあな」

 完全に信じたわけではないのだが零夏さんの雰囲気やこの男が知っていることから嘘ではないことが確認できた。

「僕もそれが使えるんだよ。自慢するわけじゃないんだけど君一人程度なら簡単に帰りうちにできるよ」

 地面に転がっている小石をヒョイと拾い上げて親指だはじくと風が吹いた。

 その風は小石を一直線に飛ばして慎太の腹部に直撃した。

「かっはっ……」

 目にも止まらぬ速さのそれを避けることはできず、激痛が走った。気絶しなかっただけでもましだ。

「これでわかっただろ。勝ち目のない勝負をするのは馬鹿かマゾぐらいです。ここは引いてくれませんか?僕はこれでも忙しい身なんですよ。大学の課題が難しいんですよ」

 勝ち誇ったように眼鏡を押し上げる。

 くっ! 絶対嘘だ。あれは昔の友達から遊ぼうと誘われたけど面倒なので適当な理由をつけて断った人と同じ目をしている。

「そんなつれないこと言うなよ。こっから本気出してやるからよ」

 腹痛に耐えながら背中の風呂敷を広げて争也から受け取ったそれを装着する。

「……ふざけているのかそれは」

 緑馬でなくても今の慎太の姿を見たらそう言ってしまうだろう。

 なんといっても両手に装着した秘密兵器。扇風機を持ち運べるようにグローブにしている感じでかなりの大きさがあり、相手から見ると体の大半はそれの影に隠れている。

「俺に言うな。これをつくった張本人に言え」

 ま、俺の親父なんですけどね。

「律儀にこの秘密兵器の説明とかしねーから覚悟しろよ」

 扇風機の羽が見える方を向けて足を横に開く。

「ジェットストリームアターック!」

 べ、別に言いたくて言ってるんじゃないんだからね。この秘密兵器?を起動させるためには俺の声でこの単語を言わなくちゃいけないだけなんだから勘違いしなでよね。

 と心の中で必死に否定しながら扇風機らしきそれは音を立てて稼働した。

「これは…風」

 理屈は簡単だ。扇風機をでかくして風の勢いを増しているだけだ。それでも台風並みの強さで緑馬に襲い掛かる。

 腕をクロスして楯にするも風はそれをもろともせずその体を後方へと吹き飛ばした。

 しかし、この巨大扇風機には欠点がある。慣性の法則で使った本人も後ろに吹き飛ぶのだ。

 気に食わないのはこちらが壁に直撃したのにあちらは電柱の隣に置かれていたゴミ袋をクッションにしていたからだ。おかげでこちらより軽症で済んだらしいが必死に立ち上がろうとしながら途中で断念している様子からしてどうやら動けないらしい。

「は~い、笑って笑って~」

 どこのカメラマンだよと言いたくなるほどシャッターを押しまくっている。

「はあ、終わったかな」

 全身の痛みも達成感に変わっているのを感じながら目を閉じた。




「な、なんだこれは!」

 タオルで流れる汗を拭きとりながらパソコンにアップされている画像を見つけて目を丸くした。

 なぜなら自分の仲間がゴミ袋の上で倒れていたからだ。コメントは荒れに荒れ、ほとんどが悪口になっている。実はこの中には悪の人たちが多くいる。

「誰がこんなことを」

 コメントに何か情報はないかとさがしてみると聞いたことのある名前があった。

「アクト団。許さんぞ!許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 怒りの雄たけびは彼のいる周辺に広がり、注意のために警察が現れることのになるのはそう長くはなかった。

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