アクト団
「え〜っと、ここでいいんだよな」
真新しい制服を着た男子生徒は始業式を終えると手元にある地図を頼りにある建物にたどり着いた。
木造のアパートなのだが、その……なんというか風情がある。
「すいませ〜ん、誰かいませんか〜」
玄関は鍵がかかっておらず、迎え入れてくれる人が誰もいないので仕方なく中を歩き回ってみると一つだけ広い場所があった。
このボロ……風情のあるアパートには似合わない大きなテレビとソファ。それに食卓までもある。
「今は誰もいないよ〜」
気の抜けた声を上げたのはソファでくつろぎながら羽織っているコートと同じ黒色の携帯ゲーム機を操っている男だった。
「いや、いるじゃないっすか!目の前にいるのにそんなこと言うなんて居留守よりたちが悪いっすよ」
居留守も駄目なのだがこれはもっと駄目だ。その……イライラするというより、腹が立つ。
「ごめん、ごめん。でもさこのゲームつい最近出たばっかりでさ、つい夢中になって他のことはどっでもよくなるなんて良くあることだろ?今の僕みたいにさ」
ようやくこちらを向いてくれた男は僕は悪くないとばかりに両手を広げて主張してきて、それには少しだけ納得できた。
俺も良く新しいゲームを買うとそれに夢中になっていつの間にか夜になっているなんてこともあった。
「それでも今のはないでしょ。無視とかのレベルじゃなかったでしょ」
むしろ拒絶に近く、問答無用だった。
「でも、このゲームは奥が深いんだよ。まあ、簡単に言うと奇妙な所に閉じ込められてそこから出る為に殺し合いが始まるんだけどこれが傑作なんだよ。だってお前が犯人だって追い詰めるとキャラが急変するからね。人間の本性がよく表されているよ。人は無意識に、嘘をついて隠しているからね。それかバレたらどうなるか? ……とても興味深い作品だよ」
ちょうど画面は人が血まみれになって倒れているシーンが映し出せれていた。
「あ〜、推理ものっすか。俺はそういうのあんまやんないっすね……ってそうじゃないんですよ! 俺はゲームの話をする為にここに来たわけじゃないんですよ!」
「え〜、それじゃあなんなのさ。もしかして自分探し?」
「絶対しないし、あんたには俺が悩んでるように見えたってことですか?」
自分探しなんて青臭い真似なんてしたくもないし、今後絶対にしないであろう行動ナンバースリーだ。
「冗談、冗談だって。博士の息子さんで斑鳩 慎太くんだろ。話は聞いてるよ。まずはご入学おめでとう」
「あ、どうもです」
そう、俺は今日から花の男子高校生だ。中学では想像できないぐらい楽しいことが起きるはずだとウキウキだったのだがこんなところに来たのには意味がある。
「親父から聞いたんですけどここに住まわせてもらえるんですよね?」
一人暮らし。彼の夢が叶うか否かは返答次第で変わってくる。
「そうだよ。でも手伝いとかはしてもらうつもりだから。流石にタダというわけにもいかないでしょ」
それもそうだ。逆に何もしなくていいと言われたら何かが取り憑いているのではと不安になってしまう。
「いいっすよ。で、具体的にはどんな手伝いすればいいんですか?」
まだ昼までは一時間弱ある。簡単なことなら今のうちにやっておいたい。慎太はショートケーキの上に乗っているイチゴは最初に食べる派なのだ。
「それについてだけど、君には戦闘員になってもらう」
「は、はい?」
あまりにも意味不明で肩にかけた鞄を落としてしまった。
「ほら、黒いタイツみたいなの履いて右斜め上に手を上げて奇声を発するやつがいるでしょ。あれだよ」
「いや、戦闘員が何か分からなかったんじゃなくて何で俺が戦闘員をしなくちゃいけないんですか! しかも誰と戦うんですか?」
「あれ?君の親父さんからこの街のこととか僕たちのこと聞いてない?」
「俺はただここに行ってこいと言われただけでそれ以外は何も……」
「そう……。ならどうしようかな〜。僕たちの仕事を見る? どうせ依頼が来てるんだから」
ぴらぴらと封筒を見せびらかし、携帯ゲームの電源を切った。
「それなら、ゲームなんしてしないで仕事してればいいじゃないですか?」
そうすればいい大人が昼間っからゲームなんて見たくもない光景を見なくて済んだ。
「君を待ってたんだよ。急ぎの仕事じゃないから明日でも明後日でもいいんだけど思い立ったが吉日ってやつだね。さあ、行こうすぐ行こうさっさと行こう」
携帯ゲームをソファに置くと空いた手で慎太を引き、外に出ようと催促してくるがまだ確かめてないことがある。
「ちょ、待ってください。まだあんたの名前聞いてないんだけど」
「おっと、そうだった。僕は神崎 争也。何にでもなり、何でもする何でも屋、アクト団の団長だ」
彼からは威厳の代わりに妙なめのを感じられた。それが狂気なのか何なのかまだ出会ったばかりの慎太には分からないがとりあえず、誘導に従いある所まで行った。