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悪党アクト   作者: 和銅修一
1/9

善と悪

「子供ってさあ〜、ヒーローとか好きだよね。戦隊ものだとかそういうの」

 そんなことを言い出したのは目の前でヒーローショーが繰り広げられ、それを見ている子供たちがはしゃいでいるからだ。

「そうだな」

 しかし、話しかけられた赤髪の男は全く興味がないのでタバコを吸おうと思ったが場所が場所なので途中で手を止めた。

「も〜う、(かず)くん。全然話聞いてないね〜。君だって昔はあんな感じだったじゃないですか」

 この二人の関係は簡単に言うと幼馴染だ。と言っても男同士なので何も嬉しくはない。

「覚えてねーな。そんなこと」

「そう? でも僕は鮮明に覚えているよ。例えば爆竹パンチ。ほら、怪人ってよく爆発するからそれを再現したいとかで拳に爆竹くくり付けて殴ってきた事とか」

 良い子は真似しないでくださいね。普通に怪我しますから。

「あ〜、そういえばあったな。別に再現したかったとかじゃなくてお前を殴りたかっただけだど」

「それはそれで酷いね〜。でも僕はヒーローものとかを見てるといっつも思うんだよね。悪役が可哀想だって」

 ショーでは赤色の奴が戦闘員らしき奴に蹴りを入れた。

「可哀想ね〜。お前らしいが仕方ないんだろ。所詮やられ役なんだしよ」

 悪役が勝ってハイ終わりだなんて子供達が泣いてクレームが殺到するだろう。

「それでも僕は可哀想だと思うんだよ。だってさ、その悪役が改心して正義の方の味方になっても結局は死んじゃうパターンが多いよね」

「言われてみればそうかもな」

 敵が味方になる。

 良くある話だがそういったキャラはいい終わり方をしていない。生き残ることもあるが大抵は裏切り者として始末されてしまうのがオチだ。

「だからこそ悪役って可哀想なんだよ。悪になったら二度と元には戻れない。まるで僕のようにね」

 何やら意味深なことを言うが幼馴染である彼にはその真意を知っている。

「ケッ! お前は進んで悪党になったんだろーが。今更何を言ってやがる」

「和くんは冷たいな〜。幼馴染なんだからもうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃない?」

 長い付き合いだというのにまるで借金の取り立て役と借金をした駄目男みたいな感じだ。

「俺は昔っからお前のことが嫌いなんだ。顔見るだけでイライラするんだ。そんなお前と仲良くする気はねーんだよ」

 それだけは今も昔も変わらない。

「和くんは相変わらずだね〜。でも元気そうで良かったよ。君がいなかったら僕たちの存在意義はないからね」

 まだショーの途中だがこれを見るのが目的ではなく話をしたかっただけで言いたいことを言うとその男はベンチから立ち上がって屋上に唯一ある扉の方へと向かって歩いて行く。

「オイ待てよ。まさか俺がこのまま黙ってお前を逃がすとでも思ったか?ここで会ったが百年目ってやつだ。面倒だから今ここで終わらせてもらうぞ」

 赤髪の方は自分の拳と拳をぶつけてやる気満々なのだが先に立ち上がった彼はその気はなく、態度や目の色に変化はない。

「正確には百三日振りだよ。でもさ、僕はここで終わるわけにはいかないんだ。今日だって無事かどうか確かめに来ただけなんだ。君も最近は忙しいみたいだからね」

「お前が何かしたせいだからなんだろ? こういう事は大体お前が絡んでいやがるからな。おかげで寝不足なんだよ」

 彼がイライラしている原因の一つでもあるが、一番はやはり目の前に大っ嫌いな奴がいるからだ。

「それは僕じゃないよ。総理大臣に誓ったっていいよ」

「微妙だな。普通そこは神とかだろ。ま〜、どっちでもいいがよ〜。それなら何か証拠とかあるのかよ」

 流石に決めつけは良くないので手を出して何かないかと問いただしたがそれは首を横に振られた。

「残念ながらそんなものはないんだよ。僕としても出して上げたいのは山々なんだけど無いものは出せないからね〜」

「ふざけてんのか? 俺がお前なんかの言葉だけで信じるとでも?」

 ただてさえ信じるに値しないのに証拠品もないとなると彼を逃がす訳にはいかない。

「だから用意はして来たよ。逃走経路は」

 両手を広げて服の袖から白い玉を落とすとそれが破裂して周辺に煙を巻き上げた。

「くそっ!」

 不意をつかれて煙を吸ってしまったが毒という類ではないので咳き込む程度ですんだが目の前にいた男は姿を消していた。

「逃がしてたまるかよ」

 例え奴でもここには扉が一つしかないのでそこから逃げたとしか考えられない。

 すぐさま扉を開けて階段を駆け下る。

「うぉぉぉぉーーーーーーーーー!」

 鬼のような形相に彼の行く先にいた人たちは続々と避けていき、赤ん坊を抱えていた奥さんがよけた後にはその赤ん坊が泣く声が背中越しに聞こえた。

 強引過ぎたと反省したが、そんな考えはすぐに消え失せた。

 逃げたあいつが視界に入ったからだ。

「見つけたぞ糞野郎! 今ぶん殴ってやるから逃げるんじゃねーぞ」

 既に出口手前にいた糞野郎を逃がさないように階段の上から大声で叫ぶとそいつは驚いたようにこちらを見上げてきた。

「思ったより早かったね。怒りのエネルギーとか?ちょっと驚きだけど予測の範囲内だよ。じゃあ、僕はお先に」

 待てと言われて待つものがいないように彼も待ちはしない。すぐにこのデパートから出て行った。

「おい待て!」

 すかさず彼を追うために階段から飛んだ。着地時に足に猛烈な衝撃が走ったが二秒で引いた。

「ぜっっってぇ逃がさねぇ」

 足の痛みは既になく、あるのはあの男への殺気と憎悪のみで彼を追いかける為に外に出た。




「オラァ! 見つけたぞ」

「おぉ〜、危ない危ない。容赦ないね〜和くんは」

 怒りに任せて振るわれた拳は難なくかわされ、すぐそばにあったゴミバケツに当たり爆発した。

 中の物が飛び出たことを比喩したわけではなく、文字通り爆発したのだ。

「お前に容赦なんてしけーよ。髪の毛一本も残さず消してやるから覚悟しやがれ」

 その後も彼らの戦いは続いたが、赤髪の方が優先というか生意気な黒髪の方が逃げに徹して拳を避け続けるというつまらないことの繰り返しがされて遂には行き止まりにまで追い詰めた。

「テメェ。やる気がないんなら俺の拳に一回でもいいから当たってくんねーかな」

 息切れはしていないが、疲れれが見えてきた赤髪は冗談でそんな提案をするが今度は意外にも首は縦に振られた。

「いいよ。だけど君の相手は僕じゃない。彼だ」

 指が示す後ろには見覚えのない男が立っていた。それも一度会っただけではすぐに忘れてしまいそうで口だけヤンキーキャラみたいに目つきの悪い男。

 しかし、そんな目つきの悪い男の目は真っ直ぐとこちらを見据えている。その目はふざけたあいつの目とは違う覚悟をした者の目だ。

「見たことないやつだな。新しい仲間か?」

「仲間じゃなくて部下だよ。君を倒すために雇ったんだ。相手をしてやってくれないか」

「いや、お前を先にやる。その方が早くスッキリするからな」

 笑みを浮かべて拳を鳴らし、こちらに近づく彼を見てやれやれと溜息を吐くと上からケースが落ちてきた。

 人の身長よりも少し大きなケース。何かの楽器が入ってそうなケースだが赤髪の男にはその中に何が入っているかを知っている。

「直ったのかよ」

 厄介なものが出てきたとケースを苦々しそうに睨む。

「ああ、これは大事なものだならね。早々に直させたさ。どうだい? いくら和くんでも気は変わっただろ。まあ、でも僕はここで使う気はないんだ。今回ないわば抑止力。核みたいなもんさ」

「チッ! 仕方ねー。お前が自信満々に出してきた新入りも気になるし、俺は寝不足なんだ。面倒はごめんだ」

 なので選択肢は後ろの方を相手にするだ。

 ケースの中身がどれだけのものか理解している彼だからこそこの結論に至り、ここまでは黒髪男の計画通り。

「さあ、頑張ってくれよ。戦闘員くん」

 さて、こうなったのはまず部下と呼ばれた目つきの悪い男と生意気な黒髪男との出会いから始まった。

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