第六話 宿屋にて
第6話 辺境の町ミッシア
22時11分
ライエリソン領、辺境の町ミッシア-睫毛の英雄亭にて
「…で、この人ったらガルムの集団を一人でバッサバッサ斬り捨ててね、お前は呂布か!って言いたくなったよ私は」
「おぉ、私には呂布殿が誰かは存じませぬが、あのガルムの群れをお一人で相手にするとは…流石は我らが団長閣下ですな」
「そうでしょ?私は怖くて岩影からこっそり応援してる事しか出来なかったんだけどね…
それにしてもここのお酒は美味しいね」
「いえいえ、それが当たり前なのです。むしろ団長閣下が異常なのです。
それに万が一、殿下がお怪我をするような事があったら一大事ですから」
「そうですよ殿下。我々もあのガルム集団の討伐を任務として此処に滞在しているのですが、もう一斑増やしてほしい位だと思っていたところでして…」
和気藹々と談笑する茉莉と騎士六人。
あぁ、どこから突っ込めばいいのやら分からん!
とりあえず、この場所だ。
店内の雰囲気はなかなかの料亭って感じだが、店の名前どうなってんだよ!
なんだ、睫毛の英雄亭って…どんな凄い睫毛なんだ!
それと、茉莉!
なーにが怖くて岩影でこっそりと、だ。氷で串刺しにする、石ころ爆弾で爆殺する。
殺した数、明らかお前のが多いからな!?
「クリストファー団長?
何か考え事でしょうか?この町で知りたい事があったら何でも私に聞いてくださいね?」
そう言って、やたら馴れ馴れしい女騎士がグラスにワインのような液体をついでくる。
「あ、あぁ、そうだな…
茉莉、なんだその目は」
あぁ怒ってる、今絶対怒ってる。だって目が怖いし、なんか殺気のようなものを感じる。
茉莉は昔から俺が女と仲良くしてると、何故か拗ねるのだった。
「べっつにー?クリス君はその子とイチャイチャしてればいいじゃん。
いーーーだ!」
小学生か。
「おいおい、あんま飲むと酔うぞ?
それだから毎回俺がベッドまで運ぶはめになるんだ。
まあお前は軽いから平気だが…」
ベッドに運んでからが大変なのだ、こいつは。
俺の服からなかなか手を離さないし、やたら甘えた声で「ねー、クリス君、一緒に寝よ?」とか言ってきやがる。
いつ理性が本能に負けるか分かったもんじゃない。
ほら、やっぱりもう顔が赤くなってきている。
宿の場所だけ教えてもらって早めに切り上げるか…。
「おい、アレッシオ。この町で一番安全な宿を教えてくれ」
部下と飲み比べをしていたアレッシオに声をかける。
「宿でしたら、我々の駐屯所の向かい側にあります。騎士団の近くで悪さをするような者はいないかと。場所は…」
アレッシオから場所を聞き出し、宿に向かう事にする。
此処から五分程度の場所にあるようだ。
「おい、茉莉。そろそろ行くぞ。歩けるか?」
「うー…ん、むりー」
ったく、だから飲み過ぎるなって言ったんだよ。
仕方ない、抱えていくか。
「ほら、行くぞ」
「お姫さま抱っこね」
「うるせー」
腰に付けてある革袋から金貨を一枚出し、アレッシオに投げる。
「んじゃ、お先に失礼するぜ。それ飯代な。払っといてくれ」
「へっ?…って団長!これ帝国金貨ですよ!?
それに、お二人からお金を頂く訳には…」
どれが何zか覚えてねーよ。
「まあ、気にすんな。宿の場所教えてもらったしな。お前の班の装備品やら消耗品でも買っとけ」
しかし…とウダウダ言ってるアレッシオを黙らせ、外に出ると夜風が気持ち良かった。
静かだなぁ…なにより星が向こうとは大違いだ。
★彡★彡★彡
「いらっしやいませー!
ようこそ、破壊神ロメスリンサー宿屋へ。
お二人様でしょうか?」
破壊神!?
この町は絶対に何かがおかしい。
「あぁ、二人で一泊する。
一番いい部屋に案内してくれ」
「…お風呂付きの超スウィートねー」
「畏まりました。ええと、お一人様18000zになりますね」
む、これは結構高いんじゃなかろうか。
「おい茉莉、どれが何zか分からん」
「…んー…、はい、こんなけ」
そう言って金貨3枚と銀貨2枚を差し出してきたので、そのまま渡す。
素材と絵柄で金額が変わってくる仕組みだったが、どれがいくらかよく覚えていない。
おそらく、この金貨が一万z、二種類の銀貨が5000z、と1000zだと思われる。
銅貨には単純に100とか500と書いてあるので分かりやすいのだが。
「はい、丁度ですね。ありがとうございま~す。
ではお部屋は三階の右奥になりますね。こちらが鍵です」
鍵を受け取り、階段は少し大変だったが、部屋に到着。
茉莉をベッドに寝かし、一服する。
これは向こうから持ってきた物だが、この世界にも普通に売っているらしい。
「茉莉、先風呂に入ってこいよ」
「はーい。あ、クリス君、一緒に入る?」
茉莉が風呂場に入っていくのを見届けてから、
テーブルの上に袋の中の硬貨をぶちまけてみる。
銅貨五種類、銀貨三種類、銀貨二種類、金貨二種類で、
大きめ銀貨二種はたぶん帝国銀貨、アレッシオが言ってた金貨は帝国金貨…と。
とりあえず銅貨は数字が掘ってあるから分かりやすい。
1z、10z、50z、100z、500zと順番に並べてみる。
銀貨からは全て家紋っぽいのが描かれている。
あ、この大きめの銀貨アッカーソンの家紋だ。
茉莉んとこのエンシアの家紋もあるな。
って事はマステマ大公の家紋もあるはずだ。
ふぅ、剣と軽鎧は外して壁際に置いとくか。
ニッカポッカとTシャツになった。
あれ鎧にしては動きやすい部類なんだろうが…やはり多少重量があるので、普段着に比べると動きにくいのは否めない。
それに比べて茉莉の服は楽そうで羨ましい。
俺もあれに変えてもらおうかな。
前衛とはいえそこらの魔獣の攻撃なんぞ、今の俺には掠りもしないだろうし。
「きゃああーーー!!」
風呂場から悲鳴が!?
おまえは名探偵コ○ンのお姉ちゃんか!
「なんだ!?どうした!!
って、ブフホハァッ!
全裸で出てくる奴があるか!せめてタオルを巻けよ!」
「シャンプーとリンスがないよ!」
「自分で作れるんじゃないのか!?」
「うーん、やってみる…」
結局タオルも巻かずに全裸でごそごそと鞄を漁り、回復薬の入った瓶と思わしき物を二本取り出した。
「…《万物創造》
あ、できたっぽい」
ふう、全く…風呂の設定はしてた癖にシャンプーの設定は忘れてたってか。
そういえば、茉莉がわざわざ液体の入った瓶を使ったのには理由があるのだろう。
聞いた話によると、確かに石ころだろうが埃だろうが望む物に変えれるのだが、より近い物の方が《妄想》しやすく成功率が高い上、魔力消費もかなり抑えれるらしいのだ。
茉莉の妄想力は異常ともいえる。
なんせガキの頃からの妄想を小説にし、更に現実として実現してしまうほどだ。
回復薬からシャンプー、石ころから爆弾を作るくらい朝飯前なのだろう。
茉莉が出た後に俺も茉莉製シャンプーを使ってみたが、日本で売られてる物と同レベルの出来だった事は言うまでもない。
★彡★彡★彡
「…これが1000zで、これが5000zね」
茉莉は硬貨を並べていく。
「アムルタート王家の銀貨が1000
ピュリファー王家の銀貨が5000
クド=ファーブニル王家の金貨が1万
ルナ=ジブリール王家の金貨が5万
アッカーソン公爵家の帝国銀貨が10万
グリモア大公爵家の帝国銀貨が50万
エンシア皇家の帝国金貨が100万」
「なるほど…大体1000万くらいあるって事か」
「お金の心配は全くないわ。多少魔力を使うし、なにか色々と破綻しそうだから必要の時以外はやらないけど…《万物創造》」
そう言って1z銅貨を100万帝国金貨に変えてみせてくる。
「うん、それはなかなかひどいチートだな。
確かにソレはあまりやらない方がいいだろう。
あぁ、一つお願いがあるんだがな」
「ん?私に溜まった欲望をぶちまけたいのね?いいわよ」
「ちげーよ!なんで毎回ソッチに持ってこうとするんだ!
あといい加減なんか着ろ!いつまで全裸なんだよ!少しは恥じらいを持ちやがれ!
はぁはぁ、疲れるやつだ。
んで、あの鎧なんだが、お前と同じ魔法使い風ローブに出来るか?」
「なんだ、そんな事かぁ。
《万物創造》ほい。
あとパジャマとか下着も作っちゃおう。素材はー…布があったらいいんだけどなぁ。
まぁ1z硬貨でいっか。どうせ、すぐ寝て回復するし。
《万物創造》《万物創造》《万物創造》…
ホイ、これが君のパジャマだよ」
………
「お前は、俺に、これを着てほしいのか?
この、女用スクール水着を」
ご丁寧に胸元に名前までついてやがる。
「うん、とても興味深い」
「わざわざ魔力使って下らんもん作るなよ…勿体無い」
「いやいや、こんくらいならいくらでも作れるよ?
流石に1z硬貨から城を作れとか言われたら、かなり大変だろうけど、出来ない事はないし」
城。
1zから城を作る妄想力ってどうなんだろう。
城の形をしてても中は空洞とかなら妄想できるかもしれんが…
玉座があり、それなりの部屋があり、廊下には絨毯が敷いてあってシャンデリア…普通に考えたら無理だろう。
「あのな、俺は城を作れともスクール水着を作れとも言ってない。いつものジャージでいいんだよ」
「むー分かったよー。
《万物創造》…はい」
「おぉ、バッチリまんま俺のジャージだ。サイズもぴったし」
「うん、いつも見てたから」
「そか、さんきゅーな。
んじゃ、ぼちぼち寝るか?」
懐中時計は23時56分を指している。
今日はいろいろあって疲れたし、早めに寝た方がいいだろ。
「そうねー、おやすみなさい、クリス君」
「あぁ、おやすみ、茉莉…
マテ、なんで俺のベッドに入ってくるんだ」
ベッドは二つあるだろうが!!
「いーじゃん、たまには一緒に寝ようよ」
「いくない!俺は男でお前は女だろ!」
「でも私は茉莉で、あなたはクリス君よ」
「なんだその変な理屈は」
「人肌を感じたい気分なの」
「顔が近いよ!誘ってんのか!?」
「なにを?」
「…あー、もういい、どうなっても知らんからな!勝手にしろ」
「やったあ!」
茉莉は満面の笑みで俺のベッドに入り込んでくる。
…ちょ、まじで近いって。
あー、もう、腰に手を回すな!
こんにちは~
哀れクリス君。
なんかギルドの話を入れる余裕もなく、二人の漫才で終わってしまいました。
それより今更気付いたのですが、二人の年齢が矛盾してます。
今から修正してこよ…
次回はモロク候に謝罪して、今度こそギルドへ行ってみよう