第五話 力の片鱗
第5話 魔獣と騎士と
マギ=エンシア帝国
モロク=ライエリソン侯爵領、ムスリム草原にて
黒服の男女が寝っ転がっていた。
「おえっ」
隣で青い顔をしているクリス君を横目に、辺りを見渡す。
うん、誰にも見られてない。
此処は北のマギ大陸と西のクド大陸の中間地点の島。
目的地はクド大陸亜人の国アムルタート王国。
《完全変化》で小型の翼竜に変身し、クリス君を背に乗せて海を渡ってきたのだ。
「う、転移魔法とか、そういうのないのか…」
「アーティファクトでそういう効果の物は造ってあるんだけどね…海を渡って他の大陸へ、なんてのはオリジナルのギフトじゃないと無理なの」
ふぅ、私も少し疲れた。
ギフトを使うと魔法スキルなどと同じように、魔力を消費するのだ。
アーティファクトの場合は、既にそのギフトの使い手だった古代種の魔力が圧縮されて込められているので、古代呪文を唱えるだけで使うことができる。
もっとも、込められた魔力が切れたら使えなくなるのだが。
メイリエッタ皇家の家紋が描かれた、金の懐中時計を見ると20時32分だった。
どうやら今日はこの島、ライエリソン領で一泊する事になりそうだ。
「ねぇクリス君、もう少し歩いたら町に着くから今日はそこで宿を見つけよっか」
「おーけー。腹が減って死にそうだ。
…が、その前に面倒なことになりそうなんだが」
「へ?」
クリス君の指差した方へ目をやると、黒い狼の集団が急接近してきているのが見えた。
「あちゃあ、ガルムさん達の縄張りだったみたいね」
「あぁ、囲まれたな」
一匹、二匹、三匹…計15匹の魔獣、ガルムに囲まれていた。
「きゃー絶体絶命のピンチねー(棒読み)」
「ふはは、総合レベル2295の俺様に勝てると思っているのか?」
総合レベルというのは各ジョブレベルの合計値の事だ。
ちなみに私の総合レベルは2855。
クリス君は戦闘系のジョブが多いけど私は細工師とか鍛冶師のジョブが多かったりするのだけど、魔導士とかも持ってるので問題ない。
「ガルムは一匹レベル30ってとこかしらね。でも15匹いるから群で襲われたら普通の人は死ねる」
「んで、俺達は普通の人か?」
「ふふ、まさか~…
我は凍てつく氷雪の系譜…血は魔となり、魔は氷槍となりて敵を貫き散らせ…《霧氷散槍》!」
右手の小指に嵌めた指輪が淡く輝いた瞬間、まるで芸術品の様に美しい一本の氷の槍が、近くにいたガルム3匹を貫いた。
「おー、魔法ってやつか?」
「いーや、アーティファクト。とりあえず使ってみたかったの」
氷の槍に貫かれた瞬間、ガルムは凍って、細かい霧となって散った。
霧は風に飛ばされ後には何も残らない。
ちなみに本来のギフトは《霧氷散葬》といって更に強力だし、その使い手なら恥ずかしい呪文も唱えず魔力消費だけで発動出来る。
アーティファクト=魔力消費なし、呪文必要、威力激減、使用回数あり
ギフト=魔力消費、呪文不要、高威力、魔力が尽きるまで発動可能
簡単に纏めると大体こんな感じになるだろうか。
使ってみたかったとはいえ、使い捨てのアーティファクトを連発するのは勿体無い。
指輪を見ると、サファイアの宝石の中の赤い数字が3から2に変わっていた。
次からは自力で殺そうかな。
「んじゃ、俺ボチボチも楽しませてもらおうかな…!」
そう言ってクリス君は無銘を抜いた。
天下無双の剣聖騎士…見物だなぁ。
「うぉおおお!!おりゃおりゃおりゃー!!、ふんっ!とーぅ!ゼイ、ハァアア!!!」
あぁあぁ、知的な魔法使いのイメージは跡形もなく崩れ去った。
そこにいるのは最早、三○無双の呂布でしかない。
素で強すぎるのでギフトを使うまでもないのだ。
無銘は次々とガルムの命を刈り取ってゆく。
「って、もう全滅しちゃってるし。
私もいろいろ試したかったのに~」
辺り一面血の海…
「スマン、ついはしゃぎすぎた。
いやぁそれにしても凄い。身体をどう動かせば最高の効率で剣を扱えるか理解できている」
クリス君は無銘を一振りするだけで血糊を完璧に払い落とし鞘に収めた。
今気づいたけど身体には一滴も返り血が付いていない。
「クリス君、自分ばっか楽しんで狡いぞー」
「いんや、次のお客さんのお出ましだぜ」
どうやら先程の倍くらいの数のガルムが接近しているようだ。
うん丁度いい距離。
素材は…この石ころで上等かな。
「アレは私に任せて。
《万物創造》
うりゃーーー!」
万物創造で改変した元石ころをガルム集団に投げつけ、私は耳を塞ぐ。
元石ころは弧を描いて飛んでいき、ガルム集団の真ん中辺りに着地した、その瞬間…大爆発。
「きゃ」
「うおぉおおお!?」
ものすごい爆音を上げて大地が揺れる。
ガルム達がいた場所は焦土となり、周囲は肉片やらが飛び散る大惨事。
「お、おま、そういうのは、やる前に一言告げてからにしろよ、まじで。あぁ、びっくりした。」
「ふふ、あーすっきりした!さあ町に行こうかー。
って、今度はなによ」
本当に今日は千客万来のようだ。
いや、私たちがお客さんか。
ミ★ミ★ミ★
「私は魔印騎士団第一部隊五班、班長アレッシオだ!先程の爆発は諸君らが起こしたもので間違いないか?」
私たちのもとへやってきたのは、魔印騎士団のようだった。
ちなみに魔印騎士団は1班10人、1部隊12班で全15部隊存在する。
そして今、目の前には6人の騎士達がいる。
アレッシオさんが一歩前で話してて後ろの5人はきれいに整列している。
「そうだよ。で?君たちは私たちになんか用?」
「この草原はモロク=ライエリソン卿様の領地であるぞ!
その草原をあのように破壊するとは何事だ!」
あぁ、そういう事か。
ガルム集団の縄張りと化していた癖によく言うわ。
隣で一服しているクリス君をジト目で見る。
あんたの部下、生意気なんですけど?
「(俺のせいじゃない…)ふう、あー、アレッシオ君とやら、実はガルムの集団に襲われてな。そいつらを撃退してたんだよ。まあ周りの死体を見れば分かるだろうが。
いや、そんな事はもうどうでもいい。一番手っ取り早く、《俺の名前を言ってみろ》」
ジ○キ様!?
「は!?
………………………っ!!
ま、まさか、団長閣下、でありますか?」
どよどよ、ざわざわ
あからさまに動揺しだす騎士団達。
「いかにも。魔印騎士団団長にして帝国軍元帥のクリストファー=アッカーソン公だがなにか?」
クリス君はそう言って懐からアッカーソン家の家紋が描かれた銀の懐中時計を見せびらかす。
私は某放浪将軍を思い出した。
それにしても彼は色んな役職を押し付けられて大変だなぁ(棒読み)
嘘だろ!?
なんで団長閣下が…
あぁ、終わった
あの人がクリス様…かっこいい
一瞬で顔を青くした騎士団達。
約一名顔を赤くした女騎士は私のブラックリストに入った。
「まさか団長閣下とは、申し訳ございません!!
私はいかなる罰も受ける所存です!しかし部下達は私の命令を聞いて来ただけですので、どうか…」
おぉ、意外といいやつだったのか、アレッシオさん。
こういう、割とどうでもいいキャラ達や、普通の村人は全て名前、性格、顔、種族などの設定はほぼランダムだが、上司ーこの場合はクリス団長ーが人選した、という設定になっているので変な奴とか弱い奴が班長になってる事はないのだろうが。
「あぁ、仕事熱心なのは悪い事じゃないが相手をまず確認しないとな。で、どうする茉莉」
そこで私に振る!?
「あのぅ、失礼ですが貴女様は…」
「彼女の御名はマリー=メイリエッタ=エンシア殿下。皇帝陛下の次に偉い内親王殿下だぞ?
なぜ顔を見て気付かんのだ!貴様それでも魔印騎士団の一員か!いいや、帝国国民が彼女を知らぬとは…恥を知れい!!」
いや、言い過ぎってか調子乗りすぎだろクリス君。
青い顔を更に青くし、ガダガタブルブル震えだすアレッシオさん以下六名。
なんかプリンのカラメル、ソーダー味を見て「なんか体調悪そうなプリンだなぁ」とか思ったのを思い出した。
それにしても、閣下、陛下、殿下、か。
いろんな言い方があるみたいだ。
メルシュが陛下、私が殿下、クリス君が閣下。
うん、こんどクリス君にどんな意味か聞いてみよう。
「あ、あぁなんということでしょう…
私のようなゴミ屑が、内親王殿下に容易く声をかけたばかりか、あのような言葉を吐いて…
私は今ここで速やかに自害する所存にございます…」
いや、落ち込みすぎだよ!!
「あのねぇ、私に声かけたくらいで自殺されたら、私はどうやって生活すんのよ。
そんな事されたら私が殺したみたいになって感じ悪いわ!
もともと、メルシュと同じく引きこもり生活で国民に顔出せなかった私が悪いんだから。
うん、命令!
アレッシオさん以下六名はこれより戦場以外で死ぬことを禁ずる!
後、町中で見かけたら気軽に声かけていいんだからねっ!」
これでよし。
何故か放心状態の騎士団をなんとか現実に連れ戻し、町を案内してもらう事になった。
こんにちは~
やっと戦闘、ついでに権力発揮が書けました。
しょぼry
まぁ雑魚敵ですし。
ちなみにもっと強い最強クラスの魔獣、幻獣とか神獣が相手になると、種族的なステータス数値の桁が違ってくるので、いかに古代種であろうとも単騎では容易く屠られてしまうかも。
次回は町で騎士と絡んだり、美味しい飲食店を探したりします。
冒険者ギルド、傭兵ギルドの話も少しだけ出そうかな