第一話 夢幻の妄想
1話 プロローグ
………
…かくして勇者アキラは仲間と共に魔王を封印し、世界を平和に導いたのでした。
と。
「ふぁあ、遂に終わった!」
自室で1人ガッツポーズする私の名は伊東 茉莉、ペンネームは癒々珠 鞠…ファンタジー小説作家なのだ。
処女作である勇者アキラの大冒険は出版当初よりじわじわと人気を獲得し、遂にシリーズ12作目の最終巻をたった今打ち終えたところ。
「後は久野さん(担当)と会議して手直しかな~。
今回は超自信作だから大丈夫…なはず!最終巻って言っても、ずっと前に物語は完成してるんだけどね…」
うむ、小学生の頃からの妄想が、小説になって本屋に並んだときは笑ったなぁ。
そのあと熱いなにかが胸にこみ上げてきて号泣したけど。
さて、と。
一息ついて、部屋の隅に置いた金庫を開ける。
801315
…この数字の並びは気にしたらいけない。
入っているのは一冊の赤い本。
タイトル《魔導書・グラン=マルーシェ》
「こちらも完成させますか…。くっ、くふ、くふふ、もう少し、もう少しで私の夢が実現するわ」
この本はとある魔法使いから奪っ、頂いた《世界を創る本》である。
は?魔法使い?なに言ってんのって思われるかもしれないが、魔法使いが実在する。
もっとも日本では《魔法使い》ではなく《陰陽師》や《巫女》とかそんな感じの存在らしいが私にとっては同じようなもの。
7年前…私がまだ21歳の頃の話だ。
当時の私はまだファンタジー小説作家として駆け出しのアマチュア…妄想力だけは誰にも負ける気はしなかったが、実際に文章にしようと思うとなかなか筆が進まなかった。
そんな時、気まぐれで一枚だけ買った宝くじで2億当たった。
どんな贅沢品を買おうかなとか、あれ?これもしかして働く必要なくない?とか迷っていたが、結局
小説のネタ探しにイギリスの魔術結社に忍び込む計画を立てたのだ。
現地で言葉や習慣を学びつつ、小説を書きながら魔術結社の事を探っていく日々。
そして二年後ついに1人の魔法使い、クリス君と出会う。
私は自分がファンタジー作家だと打ち明け、魔法についてアドバイスをもらったりしていた。
魔法使いと二人で酒を飲みながら話していると、酔った彼は私にとんでもない機密情報を暴露してきた。
話によると、彼の魔術結社では《世界を創る魔法》という超一大プロジェクトを行っているらしい。
それは一冊の本、勿論ただの本なんかじゃない。
一枚一枚に、その魔術結社の魔法使いを総動員して最大魔力を注ぎ込んだ魔導書だ。
そしてつい先日、まだ白紙の状態の魔導書が完成したという。
費やした年月は666年…そんな昔から続けていたのかと感嘆すると同時に、話を聞いただけで、その本にとんでもなく、どうしようもなく魅了されてしまった。
ーーー欲しい。
その魔導書、超欲しい。
その後彼の後を追跡し魔導結社に侵入。
女性の魔法使いを背後から手刀を叩き込んで沈めて魔法使いのローブを剥ぎ取る。
フードを深く被り、首領の部屋へ行くと、魔導書らしき物に何かを書き込もうとしている瞬間だった。
「首領!魔導書から手を離して下さい!」
危なかったなあ、あの時少しでも遅れていたら、全て台無しだった。
魔導書は最初に書き込んだ人間を主とし、次からはその人間にしか世界創造は出来なくなるのだ。
「な、なんだね君は…?魔導書がどうかしたのか?」
「はい、その魔導書には書き込んだ人間に発動する罠が仕掛けてある可能性が高いのです」
「な、なんだと!?誰がそんな事を!?」
「おそらく、クリストファー=アッカーソンの仕業かと。彼は他社のスパイだったのです!」
すまん、クリス君。
「なんて事だ!あぁ、どうしたらいいんだ。この魔導書には666年分の魔力が…」
「首領、大丈夫です。私がクリス君から解除魔法を聞き出しましたから」
「なんと!でかしたぞ…ではこれを頼む」
くっくっ、ちょろかったわー
あんなのでよく首領なんで務まるものね。
「ええ、ではお借りします。…専用の魔導具が必要なので研究室に持っていきますがよろしいですね?なにぶん、首領の命の危機でしたので急いでいて持ってこれなかったのです」
こうして無事持ち出し許可を得て、その足で日本へ帰国したのでした。
こんにちはー
拙い駄文ですが楽しんで頂けたら幸いです