第4章:元婚約者の弟、村でバイト始めました
──その日、村の入口で奇声が響いた。
「姉さまぁあああああああああっ!!」
「ちょっと待って!? 私に弟いたっけ!? えっ記憶喪失!?」
『ティアナ様、逃げたほうがよいのでは?』
「正解っ!!」
全力で後ずさる私の前に、金髪の美少年が現れた。
大きな瞳に光る涙。長いまつ毛。背中にはなぜか旅装と手作りのスライムぬいぐるみ。
──待って、地雷臭しかしない。
「お会いしたかったッス! 兄上が本当に、本当にクズでごめんなさいッス!!」
「その呼び方やめろ!? まずお姉ちゃんじゃないし、その“ッス”やめなさい!?」
『ティアナ様、逃走に失敗しました。捕捉されました』
「実況しないの!!」
◆ ◆ ◆
彼の名前はノエル・ヴァンシュタイン。
なんと、私を追放した元婚約者──王子ユリウスの実の弟である。
曰く、
「兄上のせいで王族全体の評判が地に落ちたんスよ!
でも噂では“辺境でスライムと結婚した美人がいる”って聞いて、もしかして姉さ……いや、ティアナさんかと!」
「誰と誰が結婚したって!?」
『事実誤認の極みですね』
しかもこのノエル少年、やたら人懐っこくて素直で家事万能、ついでにスライムに好かれる体質だった。
「お姉さん、バイトでいいからここで雇ってほしいッス! 俺、スライム洗えます!」
「そのスキルいる!? いや……いるな!? 意外と重要だぞそれ……」
『今、採用判定が下りました』
──こうして、ノエルはスライム工房の“雑用担当(ぬるぬる係)”として加入した。
◆ ◆ ◆
……にしても、何この状況。
【登場人物】
・元悪役令嬢(自称・正気)
・インテリ眼鏡(結婚願望強め)
・無口鍛冶屋(徐々にデレてきた)
・スライム(擬似恋人ポジション)
・王子の弟(家事万能年下属性)
「──これ、ギャルゲーか何か?」
『ティアナ様は全方位からモテています』
「認めたくない現実きたー!!」
しかも村の女の子たち(5~8歳)からも、「ティアナお姉ちゃんすきー!」と膝によじ登られ、
何だか最近、人権が回復どころか爆上がりしている気がする。
「これはもう、モテ期通り越してモテ事故だよね……」
『スライムの立場、ないですね』
「いや、君の立場は最初から“ぷるぷる担当”でしょ!?」
◆ ◆ ◆
とはいえ、ノエルの加入によって作業効率は倍増。
スライム保湿ジェル・スライムクッション・スライム水枕など、次々と試作品が完成。
村の中でも噂が広まり、周辺集落からも「スライム製品を扱いたい」と注文が入り始める。
「ふふっ……ようやく、商会っぽくなってきたわね」
『やはり、私が最高素材ですから』
「そこは謙虚にして!! せめて素材である自覚は持って!!」
──ティアナのスライム事業、ついに正式なスタートを切る!
が、その陰では──王都で、彼女の急成長に危機感を抱いた「ある人物」が動き出していた……!
⸻
【次回予告】
ティアナの成功を快く思わぬ“王都の貴族商会”、ついに牙を剥く!?
契約妨害、商品の模倣、メガネの過労──そしてスリィの反乱!?
次回、「スライム商会 VS 貴族連合 ~ぷるぷる戦争、勃発!~」
お楽しみに☆