プロローグ
──私、ただのスライムフェチだったはずなのに。
「ティアナ・ルクレール、公爵家嫡女としての品位を欠き、この場をもって婚約を破棄するとともに──辺境への追放を命じる!」
……うん。うすうす、こうなるとは思ってたよ。
だってこのシナリオ、前世でやりこんだ乙女ゲームとまっったく同じ流れだったしね!
問題は私が“悪役令嬢”に転生していたってことで──しかも、ストーリーはすでに第3章断罪ルート突入済み!
わーい!終わったー!バッドエンド確定ー!(泣)
◆ ◆ ◆
追放されたのは辺境の森。馬車もない、従者もいない、護衛も当然ナシ。
あるのはボロいワゴンと、道中で拾ったカビ臭いお弁当と、ガッツだけ。
「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……。前世の私、なんでスライムにだけあんなに愛を注いでたの?」
そう。私はスライムマニアだった。
異世界RPGでも、スライム育成ゲームでも、モンスター図鑑の1ページ目を飾る“あのぷるぷる”が好きで好きでたまらなかった。
そんな私が転生して、しかも悪役令嬢で、婚約破棄で追放で──
「あれ? 人生の詰みコンボ、フルコースですか?」
でもね? この時点で私はまだ知らなかったの。
この森の奥で、運命の“あの子”と出会ってしまうことを──。
◆ ◆ ◆
「……ヌル。」
「……え、なにこの感触」
足元から、ぷるん、と何かが跳ねた。
振り返ると、いた。スライム。淡い青に透けた体。やわらかそうなフォルム。ちょっとだけ光ってる──
「でたあああああああああ! スライムだぁぁぁぁぁぁぁ!」
もはや理性とか消し飛んだ。
飛びついた。抱きついた。スライム、捕まえた!(完全に変質者)
「こ、これが本物のぷるぷる……! やば、尊い……! もちもち……最高……!」
その時だった。
『……失礼、いきなり抱きつくのはどうかと思いますが』
「しゃべったあああああああああああ!?」
いやちょっと待って!? スライムって喋るの!?
どういうこと!? えっ、CV誰!?(※内心の叫び)
スライムは落ち着いた口調で言った。
『私はスリィ。変異種の知性持ちスライムです。人間にこんなテンションで抱きつかれたのは初めてです』
「あっ、ごめん……取り乱して……でも無理だった……尊すぎて……」
『気持ちは伝わりました。……で、貴女、こんな辺境で何をしているのですか?』
「うん、追放された悪役令嬢で、でも実はスライムが大好きで、今この森で野垂れ死に寸前なんだけど、いまスライム見つけて全回復した!」
『……要するに、住む場所がないのですね?』
「そう!」
『では、私の巣に来ますか? 一応、寝床と水くらいは確保できますよ』
「神スライム降臨……!」
こうして──追放された元・悪役令嬢ティアナ・ルクレールと、変異スライム・スリィの、
ちょっとおかしな、でも世界を変える大冒険が、ここから始まったのだった。