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第5話 灼熱の第二階層で、炎の王と対面する件


第一階層の湯殿で体の芯まで温まり、美味しいデザートでリフレッシュした俺は、アクアリアから塔の秘密が最上階にあること、そして最上階への鍵は各階層の主が持っていることを聞き出した。このまま呑気に風呂と飯を楽しんでいても、外からの討伐隊に塔が破壊されるか、最上階にたどり着けずに世界の秘密も俺の正体も分からずじまいだ。


よし、仕方ない。快適なスローライフのためにも、まずは状況を打開する必要がある。そのためには、最上階を目指すしかない。そして、そのためには…他の階層のボスたちから鍵をゲットする必要がある。


「行くぞ。次の階層へ!」


俺の号令(?)に、リリスとヴァルティナ、そしてアクアリアが応じた。


「御意!」


「では、まずは第二階層へ…バルグロスの領域へ向かいましょう」


アクアリアが先導するように歩き始めた。リリスとヴァルティナも、戦闘の緊張感と新たな目標への期待が混じったような顔で(表情が見える二人だけだが)、俺の後についてくる。


第一階層から『主の回廊』を上る。美しい湖畔の景色が遠ざかり、クリスタルの壁から石造りの壁へと変わっていく。そして、第三階層に近づくにつれて、あの耐え難い寒さが戻ってきた。


「うぅ…さむっ!」


思わず震え上がる。せっかく風呂であったまったのに、また体が冷えてきた!


「主、大丈夫でございますか…?」


リリスが心配そうに尋ねてくる。背中の羽も、寒さで縮こまっているように見える。


「大丈夫じゃない! 早く通り抜けよう!」


第三階層の氷の領域は、相変わらず全てが凍てついていた。壁も床も、キラキラと光る氷の結晶に覆われているが、全く綺麗だと思えない。とにかく寒い!


「マリアは、主にお会いすることを望んでいないやもしれません…彼女の心は、あまりに凍てついておりますので…」


アクアリアが小さく囁いた。なんか、他のボスたち、結構問題児揃いっぽいな。リリスが情緒不安定、ヴァルティナが体の一部が鎧、バルグロスが感情に任せて暴走、マリアが心凍結…俺、本当にこんな連中を「王」として統治してたのか? 絶対無理だろ!


第三階層を駆け足で通り抜け、第四階層へ。今度はあの不気味な空気が戻ってきた。通路の奥から、幽かな呻き声のようなものが聞こえてくる。ヴァルティナが警戒するように斧を構え直した。


「ゼフィロスも、主の目覚めを喜んでいるとは限りません…彼は、世界の終焉こそが救済と考えておりますので…」


アクアリアがまた恐ろしいことをサラッと言った。世界の終焉が救済って、完全にラスボス候補じゃねーか! こんな奴に鍵を渡してもらえるのか!?


なんとか第四階層も無事に(?)通り抜け、ようやく第二階層への入り口が見えてきた。


「あ…あつっ…!」


入り口に近づくにつれて、まるでサウナのような熱気が押し寄せてくる。空気が乾燥していて、息をするのも苦しい。


「ここが、バルグロスの領域…第二階層でございます」


リリスが汗だくになりながら言った。ヴァルティナも、全身鎧の中で茹で上がってるんじゃないかと思うくらい熱そうだ。アクアリアだけは、水の力のおかげか、いくらか涼しげに見える。


第二階層へ足を踏み入れた瞬間、熱波が全身を包み込んだ。壁や床は赤く、所々から炎が吹き上がっている。天井も高く、燃え盛るマグマのようなものが渦巻いているのが見える。


「うわあああ! あついいいいい!」


汗が滝のように流れ落ちる。服が張り付いて気持ち悪い! これじゃあ、せっかく風呂に入った意味がないじゃないか!


広間の中央に、バルグロスはいた。


巨大な体躯は炎を纏い、鋭い爪と牙が剥き出しになっている。顔は獣のようだが、どこか知性を感じさせる目つきだ。全身から発せられる熱は、周囲の空気を歪ませている。まさに、「焔獣王」という名にふさわしい威圧感だ。


「…ふぅむ。ようやく、我が『主』が目覚めたか」


バルグロスが低く唸った。その声だけで、広間全体が揺れたように感じる。


「五百年…長かったぞ、主。この力が燻り続ける日々は、我にとって拷問に等しかった」


バルグロスがニヤリと笑った。その口元から、マグマのような涎が垂れる。


「お前が、バルグロスか」


俺が尋ねると、バルグロスは眉をひそめた。


「呼び捨てか…五百年も眠っていたというのに、随分と図々しくなったものだ。あるいは…封印の際に、記憶と共に畏敬の念まで失われたか?」


ヤベェ、いきなり機嫌損ねてるっぽい!


「いや、悪かった。えっと、バルグロスさん?」


「さん…? ふっ…」バルグロスは鼻で笑った。「まあ良い。いずれにせよ、我はお前の下僕…主の言葉に逆らうことはできん」


下僕って…そんな言い方されたら、なんかこっちが申し訳なくなるだろう!


「で、だ。主よ。我の領域に何用だ? 五百年ぶりの目覚め祝いとでも言うつもりか?」


バルグロスは明らかに好戦的な態度だった。熱気と相まって、居心地が悪すぎる。


「いや、祝いとかじゃなくてさ。お前に会いに来たんだよ」


「我に? ふむ…」バルグロスは顎に手を当てて考え込む仕草をした。「つまり、我の力が再び必要になったということか? 良いだろう! このマグマの如き炎で、主の敵を焼き尽くしてやる!」


違う! 求めてるのはお前の炎じゃなくて、お前が持ってる最上階への鍵なんだよ!


「いや、炎じゃなくてさ、鍵なんだ。お前、最上階への鍵を持ってるんだろ?」


俺が正直に言うと、バルグロスはパチクリと目を瞬かせた後、大声で笑い始めた。


「ぐはははは! 鍵だと!? この我に、そんなちっぽけな物を求めるのか!?」


「ち、ちっぽけな物じゃない! 最上階へ行くために必要なんだ!」


「ふっ…良いだろう」バルグロスは笑いを収め、再びニヤリと笑った。「鍵は、確かに我が持っている」


おっ! 話が通じるか!?


「ただし…」バルグロスは続けた。「主が五百年の眠りで、その力をどれだけ失っていないか…あるいは、五百年前よりも強大になっているか…見せてもらわねばなるまい!」


そして、バルグロスは巨大な拳を振り上げた。周囲の炎がさらに勢いを増す。


「相手をしろ、主! このバルグロスが、直々に貴様の力を試してやるわ!」


…いきなり戦闘かよ! 俺、力の使い方なんて全く知らないんですけど! 記憶もねぇんだぞ!


リリスとヴァルティナが慌てて俺の前に立ちはだかろうとする。


「バルグロス! 主にお手を触れるな!」


「無礼者! 主の御身に傷でもつけたら、この私が…!」


「下がれ、リリス、ヴァルティナ」


俺は二人の肩に手を置いて、前に出た。いや、力が使えるわけじゃない。ただ、この状況から逃げても仕方ないと思ったからだ。それに…


視界の端の光の文字列が、またチラついている。


『『終焉の塔』創造主:封印されし王:眠りし災厄』

『潜在能力:『原初の力』』

『提案:状況打破のため、潜在能力の解放を推奨』


解放って言われても、やり方分かんねーし!


「いいぜ、バルグロス」


俺は腹を括った。


「お前の相手をしてやる。ただし…」


俺は、バルグロスの巨大な体躯を見上げた。


「俺が勝ったら、鍵を渡せ。そして…この階層に、快適に過ごせる場所を作れ。できれば、エアコン完備で、美味しいアイスがいつでも食べられる場所だ!」


バルグロスは目を丸くした後、またしても大声で笑い出した。


「ぐはははは! エアコンにアイスだと!? 面白い要求だ! 良いだろう! 貴様が我を凌駕する力を見せつけられれば、望み通りにしてやる!」


周囲の熱気がさらに高まる。バルグロスが、臨戦態勢に入ったのが分かる。リリスとヴァルティナが、心配そうに俺を見ている。アクアリアは静かに成り行きを見守っている。


どうする? どうするんだ、俺!?


力の使い方なんて全く知らない。でも、ここで引いたら、この先の塔攻略も、快適なスローライフも、全てが水の泡だ。


やるしかない。


五百年ぶりに目覚めた元ゲームオタクは、灼熱の第二階層で、炎の王バルグロスと対峙する。彼の要求は、世界の危機よりも、何よりも切実な、「エアコン完備でアイスが食べられる場所」だった。


世界の命運を握る(かもしれない)男の、エアコンとアイスをかけた戦いが、今、始まろうとしていた。


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