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第1話 目覚め

目を覚ましたら、なんだかやたらと仰々しい場所にいた俺。水の音とか、冷たい床とか、土と金属の匂いとか、いちいち詩的な表現でごまかされてたけど、要するにジメジメした暗い牢屋みたいなところだった。


「……ようやく、目を覚まされたのですね。我が主」


とか言ってきた銀髪赤目の美少女(背中に羽つき)。いやいや、主って誰だよ? 俺はただのしがないゲームオタクだ。昨日は新作RPGの発売日で、徹夜でレベル上げしてたはずなんだが? まさか、寝落ちした拍子に異世界転生とかいうやつか? だとしたら、もうちょっとこう、ハーレム的な展開とか期待してたんだけど!


「申し遅れました。私は『堕天のリリス』。この『終焉の塔』第六階層を統べる者。そしてあなたは、この塔の創造主にして、全階層の主たるお方……我らが『王』にございます」


リリスとかいう厨二病全開の名前の少女は、真顔でそう言ってきた。創造主? 王? いやいや、俺が作ったのはエクセルで管理してたゲームの攻略データくらいなもんだよ? 第一、王様っぽいオーラなんて微塵も感じない自信がある。むしろ、コンビニで買った一番くじで微妙なフィギュアを引き当てる程度のオーラならあるかもしれない。


しかも、視界の端にチラチラ見える光の文字列。「最下層の主」「塔の原初」「封印されし王」「眠りし災厄」って、どんだけ肩書盛ってんだよ! 完全にオンラインゲームのログインボーナス画面じゃんか! こんなの信じるやついるのかよ?


「主が眠っていたこの五百年、塔は静かに時を重ねておりました。第一階層の『水龍姫アクアリア』、第二階層の『焔獣王バルグロス』、第三階層の『氷棘のマリア』、第四階層の『幽王ゼフィロス』……皆があなたの帰還を待ち望んでいたのです」


リリスが流暢にボスキャラの名前を連呼するたびに、部屋が微妙に揺れた。いや、それただの地震の前触れじゃないだろうな? まさかこの塔、耐震構造がザルとかいうオチじゃないだろうな?


「ですが、主の目覚めは『世界』にとって災厄。人類はまた、あなたを『魔王』として封印しようとするでしょう。彼らの目には、あなたは『終焉の象徴』としか映らないのですから」


その時、天井の魔法陣がパチパチと光り出し、空中にホログラムみたいな映像が映し出された。遠くの街で、兵士たちがワラワラと集まって、こっちに向かってくるっぽい。


『最下層の反応を確認! 討伐準備、急げ! 今度こそ、あの災厄を完全に消し去る!』


拡声器みたいな音で、やたらと物騒なセリフが聞こえてきた。おいおい、災厄って俺のことかよ? まだ何もしてないんですけど! 寝起きドッキリにしてはスケールがデカすぎるだろ!


「……俺が、そんな存在だと……?」


俺が困惑MAXで呟くと、リリスは首をブンブン振った。


「違います! あなたは『魔王』なんかじゃありません! あなたは……えっと……その……世界を、まあ、あれです! すごい力で、こう、バーン! って創った、すごい人なんです!」


なんか説明が雑になってないか、リリス? 「バーン!」って擬音で済ませるなよ! もっと詳しく!


そんな俺のツッコミを華麗にスルーして、奥の扉がギギィィィ……と音を立てて開いた。そこには、全身真っ黒い鎧を着た、いかにも強そうな女騎士が仁王立ちしていた。顔は見えないけど、明らかに目が据わっている。手に持ってる巨大な戦斧が、やたらと威圧感あるし!


『第五階層ボス:断罪のヴァルティナ』


また出たよ、ゲームみたいな肩書! 断罪って、俺何か悪いことしたっけ? せいぜい、コンビニで期間限定のポテトチップスを二袋買ったくらいなんだが?


そのヴァルティナとかいう女騎士は、俺の目の前でいきなり膝をついた。


「五百年の封印より、ようやく戻られましたね……我が主。長らくお待たせいたしました。あなたの……その……お目覚めを、心待ちにしておりました」


なんか、言葉の端々が微妙に棒読みな気がするんだけど、気のせいかな? もしかして、この人、寝起きが悪くて機嫌が悪いとか?


俺はゆっくりと立ち上がった。身体が軽いのは良いんだけど、なんかフワフワしてて地に足がついてない感じだ。まるで、昨日飲みすぎた朝みたいだ。


自分が何者なのか、マジでさっぱりわからない。記憶も曖昧だし、この状況も意味不明すぎる。でも、一つだけ確信できることがある。


——この塔の連中は、全員ネジが数本抜けている。


——そして、世界は俺の目覚めを「災厄」とか言って、マジで恐れているっぽい。


まあ、とりあえず、この状況を楽しんでみるか。どうせなら、この際、中二病設定を最大限に活かして、ハーレムエンドを目指してやろうじゃんか!


「リリス、ヴァルティナ」


俺が低い声で(←ここ重要)呼びかけると、二人はピクッと反応した。


「まずは、腹が減った。何か食べるものはないのか? あと、風呂。風呂はデカいのがいいな。露天風呂とかあったりする?」


俺の第一声がそれだったせいで、リリスとヴァルティナは盛大にズッコケた。二人の背中の羽と鎧が、床にゴツンと音を立てたのは言うまでもない。


世界が俺の覚醒をどれほど恐れていようと、そんなことはどうでもいい。


なぜなら今、この塔の最下層から始まる物語は、盛大な飯テロと、ぬるま湯に浸かりながらのんびりしたスローライフを目指す、全く新しい英雄譚(?)になる予感がするからだ!


こうして、世界の命運を握る(かもしれない)男の、脱力系異世界生活が幕を開けたのである。先行き不安しかないけど、まあ、なんとかなるだろう! たぶん!

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