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第15話 ゆるふわ作戦会議に巻き込まれる

エレボスの言葉が、地下神殿の静けさの中で神々しく響き渡る。みんなの真剣な視線に囲まれながらも、本人は内心でひたすら「重いな……」とぼやいていた。


「さて、次の進行ルートだが……」と隊長が地図を広げると、そこから一気に会議モードに突入。全員が真剣な表情で作戦の細部を詰め始めた。


「ここの通路は罠が多い。慎重に進む必要がある」剣士が剣を指しながら説明する。


「魔導障壁も警戒。俺が先陣切って解除を試みよう」魔導士が意気込む。


「狙撃ポイントを確保して、後方からカバーします」狙撃手は冷静に見えるが、目は鋭い。


エレボスはふと、自分の役割について考えた。


「俺は……まぁ、戦力的にはそこまででもないし……できるだけ邪魔にならないように、みんなの後ろで……いや、いや、できるだけ静かに動いて……」


そんなことを呟くと、魔導士がにこやかに言った。


「エレボス様、御方が後方にいることで我々は安心しております。御方の存在が戦意を奮い立たせるのですから」


「だって俺、たいしたことないし……」エレボスは恐縮しながらも顔を背ける。


「いえ、謙遜こそが真の強さ。御方がそうおっしゃるからこそ、我々は一層気を引き締められるのです」隊長が静かに断言した。


その瞬間、エレボスは「何なんだこの異次元の信頼感……」と呆れつつも、少しだけ心が軽くなるのを感じた。実力は自分でも大したことないと思っているけれど、周りがそれを全然気にしないからこそ、妙に居心地がいいのかもしれない。


「よし、では俺は……うん、できるだけみんなの邪魔にならないように、そっとついていくぜ」


そんなゆるふわ作戦会議が続く中、エレボスは「ま、これで何とかなるんじゃね?」と、緩やかな自信を持って準備を整えるのだった。

作戦会議が終わり、隊は地下神殿の奥深くへと足を踏み入れ始めた。湿気と埃の混じった空気が鼻を突き、壁に並ぶ古びた石像が薄暗い灯りの下で無言の圧力を放っている。


エレボスは慎重に歩きながらも、心の中ではいつも通りのぼんやりモード。自分の魔力や剣の腕前は正直、大したことがないと自覚している。だが、みんなが自分を「救世主」として信じ切っている様子に、どこか申し訳ないような気持ちもあった。


「……俺、こんなに信頼されてるけど、実際のところはたいしたことないんだよなあ」


と呟くと、すぐ隣にいた魔導士が笑顔で振り向いた。


「エレボス様、そのお言葉こそ御方の謙虚さの証です。御方が自分を低く見積もるからこそ、私たちは安心して御方の背中を追えるのです」


エレボスは苦笑いしながらも、「なるほど、俺の謙遜がチームの士気を上げているのか……」と妙に納得したような気になる。実際は自分の実力に不安があるだけなのだが、そんなことは言えるはずもない。


さらに奥へ進むと、突然、狭い通路の先から重厚な扉が現れた。扉には謎めいた古代文字が刻まれており、まるでここが神殿の核心であることを主張しているようだった。


「ここが……例の封印の間か」隊長が呟く。


「準備はいいか? 何が出てきても対応できるように!」剣士が剣の柄を握り直す。


「俺は……できることをやるだけだ」エレボスは肩をすくめて、控えめに応じた。


その言葉に隊の全員が深い敬意を込めて頷く。エレボスはそんな彼らの視線に押されるように、ほんの少しだけ心が熱くなった。


「正直、俺はたいしたことがないって思ってる。でも……みんなのために動くことは、何よりも大事なんだな」


そう心の中で繰り返しながら、エレボスは扉を押し開ける。


中には、巨大な祭壇が鎮座しており、その中央に不気味に輝く謎の羽根が浮かんでいた。だが、その背後から、狂信者たちの気配が迫っていることに気づく者はまだいなかった。


エレボスは静かに息を吐き出し、心の中で自分に言い聞かせた。


「俺はすごくない。だからこそ、慎重に。油断しないで、みんなを守らないと」


その決意が、かつてないほど彼の背筋を伸ばしていた。

封印の間に足を踏み入れた瞬間、エレボスは周囲を見渡した。巨大な祭壇を中心に、古代の石壁がひんやりとした冷気を放ち、異様な静寂が支配している。浮かび上がる謎の羽根がぼんやりと淡い光を放ち、まるでここだけ時間が止まっているかのようだった。


隊員たちはまさに息を呑み、神聖な場所に足を踏み入れたことを強く意識している。その緊張感は、彼らの心に深い敬意と緊迫感を刻みつけていた。だがエレボスは内心、「俺みたいな奴が来ていい場所じゃないよな……」と思っていた。


「エレボス様、これが例の羽根ですね……!」魔導士が興奮混じりに言ったが、その声も控えめで、神殿の厳かな空気に押されていた。


「……まあ、俺にできることは、何とかこの場を乗り切ることくらいだな」エレボスは、己の力量に対してやはり控えめな評価を繰り返す。しかしその声には、微かな決意の芯も感じられた。


そんな彼を見つめる隊員たちは、一切の疑念を抱かず、まるで神に仕える聖職者のように揺るぎない信頼を寄せていた。


「エレボス様、どうかお命をお大事に……我々は全力で支えます」剣士が深々と頭を下げ、剣を構えた。


「俺は、俺なりにやるだけだ……たぶん、そこそこ頑張るよ」エレボスは軽い口調で応じたが、その目は真剣そのものだった。


そして、隊長が小声で「これ以上の油断は許されない。すべての注意を払え」と告げる。


その瞬間、祭壇の羽根が一層強く輝きを増し、地下神殿の壁に響くような不気味な振動が走った。


「来るぞ!」剣士が叫び、全員が構えを取る。


エレボスは冷静に剣を手にしながら、心の中で静かに繰り返した。


「俺が大したことなくても、ここで逃げたらみんなが困る。だから、やるだけ……」


その言葉が、彼の内なる弱さと誠実さを静かに繋いでいた。


周囲の隊員たちは、そんな彼の背中を見て、一層強い信念を抱いたまま、襲い来る狂信者の波に立ち向かう準備を整えた。

地下神殿の奥深く、暗がりの中で狂信者たちが低く唸りながら迫ってくる。彼らの目は異様に光り、まるで羽根の力に取り憑かれたようだった。その数は多く、まるで無数の影が一斉に襲いかかるかのような迫力があった。


しかし、エレボスはその圧倒的な数に圧倒されている様子はなかった。彼の目は冷静に一点を見据え、何度も「俺は大したことない」と自分に言い聞かせながらも、その手は迷いなく剣を振るった。


「……ああ、これならなんとかなるかもな」エレボスは呟きながらも、何度かの攻撃をかわしつつ、すっと前に出ていく。


彼のその控えめな自信のなさは、しかし周囲にはまるで「謙虚な王」のように映っていた。隊員たちはエレボスの後ろ姿を見て、胸が熱くなる思いを隠せない。


「エレボス様の剣筋、まるで神が降りているようだ……!」魔導士が感嘆の声を漏らす。


「まだまだですよ」とエレボスは小声で返しつつ、またひと振り、ひと振りと敵をなぎ倒していく。その動きは確実で、無駄がなかったが、自分のことを過大評価することは決してなかった。


「俺がこれで十分強いなんて、そんなこと絶対に思えねえ……でも、動けてるだけでマシか」そんな心の声が、彼の冷静さと謙遜さを形作っていた。


隊員たちはその姿を見て、誰もが彼を信頼して疑わなかった。だが、エレボスはそんな信頼に応えようとする一方で、いつも「自分はまだまだ」と感じているのだ。


「隊長、エレボス様が先頭に立ってくれると、心強いです!」剣士の一人が叫ぶ。


「本当にそうだ……彼がいなければ、こんな状況は耐えられない」魔導士も続けた。


その反応を聞きながらも、エレボスは心の中で苦笑した。


(俺がたいしたことないって言っても、皆にはそれが謙遜にしか聞こえないのか……まったく、やりにくい奴だな俺は)


襲い来る狂信者を次々と倒しながら、エレボスは静かに思った。


「まあ、できることをやるだけだ。過大評価されても困るけど、信頼は無下にできない……これが俺の役割なのかもしれないな」


そんな彼の葛藤と真剣な戦いは、地下神殿の奥底で確かな光を放っていた。

狂信者たちが再びエレボスに襲いかかる。彼は無造作に剣を振るい、敵を薙ぎ倒していくが、内心では「俺、別に大したことないんだけどな」と軽く思っていた。自分の力が突出しているなんて思ったことは一度もない。単純に動いているだけで、結果的に敵が倒れているだけだ。


「さっきの一撃、ちょっと雑だったな……まあ、結果オーライだけど」そう心の中でぼやきつつも、剣の動きは止まらない。


一方で、隊員たちはエレボスのひとつひとつの動きを見逃さず、まるで神を見るかのような目で彼を見つめている。


「エレボス様、その動き……まさに伝説の戦士です!」若い剣士が尊敬の念を込めて叫ぶ。


「俺? いや、俺はただのへっぽこ剣士だぜ」とエレボスは謙遜を口にするが、それが彼の実力の表れとしか隊員たちは受け取らなかった。


「エレボス様が“たいしたことない”なんて言うと、かえってありがたみが増すんだよなあ」と魔導士がぼそり。


「そうそう、謙遜するほど本物ってことだよな!」隊員たちはみな一様にうなずき、さらに信仰に近い崇拝心を募らせていた。


エレボスはそんな彼らの熱意に囲まれながら、淡々と剣を振り続ける。


「まあ、別に俺がすごいわけじゃないけど、みんなが信じてくれるなら、それはそれで悪くないか」と心のどこかで思いながら、戦闘に集中する。


剣が振り下ろされるたびに、狂信者たちは倒れていき、周囲の隊員たちの歓声が絶え間なく響き渡る。


「エレボス様の背中を見て、俺たちも強くなる!」


「はい!必ずあなたについていきます!」


エレボスはその声に軽くうなずき、ただ一言。


「なら、頼むぜ」


その言葉は淡白で、特別な覚悟がこもっているわけでもない。ただの通りすがりの剣士が放つ、いつものやり取り。しかし、隊員たちにはそれがまるで誓いの言葉のように響くのだった。


彼の実力が実際にはたいしたことなくても、仲間たちの信頼は絶大だ。本人が気にしていなくても、彼は“英雄”としての役割を自然に背負わされていた。そんなエレボスの“へっぽこ”っぷりが、彼と周囲の絶妙なバランスを作り出しているのだった。


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