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第13話 地下神殿、俺はそんなに強くないってば


地下神殿の薄暗い通路を歩きながら、エレボスは肩をすくめた。


「ふう、正直言って、俺そんなに強くないと思うんだよな。皆が勝手に過大評価してるだけで」


真剣な顔で魔法陣を解読しているリリィがちらりとこちらを見て、目を細める。


「エレボス様がそう思っているなら、むしろ安心です。過信は禁物ですから」


ミルヴァン隊長は険しい表情のまま、足を止めて言った。


「しかし、敵は確実に強くなっています。我々の命はエレボス様にかかっていますよ。」


エレボスはぼんやりと上を見上げた。


「いや、ホント、俺なんか雑魚だよ。昨日もザコ魔物にちょっとひるんだし」


隊員たちは一瞬戸惑った。そんな謙遜を言いながらも、彼の動きはいつも瞬間的で圧倒的な力を示しているのだ。


通路の先から低いうなり声が聞こえ、仲間たちが緊張を高める。


「くっ、来たな……」


エレボスは大きく深呼吸し、こっそりと袖で口元を拭った。


「ま、まあね……ちょっと怖いけど、できるだけ頑張るよ……多分。」


敵が突進してくるのを前に、リリィが叫んだ。


「みんな、構えろ!」


だがエレボスはふわりと身をかわしながら、「うわっ、こいつ速い!」と焦り気味に叫ぶ。


その一瞬、敵の鋭い爪が空を切った。


「はぁ……はぁ……あれ? 今の俺、倒したのか?」


仲間たちは目を丸くしたまま、動きを止めて見守る。


ミルヴァン隊長は困惑気味に言った。


「エレボス様、さすがです……!」


エレボスは首をかしげて肩をすくめた。


「いやあ、偶然だよ。ラッキーラッキー。」


隊員の一人が小声で呟く。


「俺たち、なんでこんなに真剣なんだ……」


リリィがピリリと怒りの表情で一喝。


「命がけだからよ!」


エレボスは苦笑しながらぽつりと呟いた。


「こんなに周りが緊張してるのに、俺だけヘラヘラしててすまん……でもホント、自分の実力はこんなもんだってば。」


地下神殿の奥深く、緊張とギャップの入り混じる空気が続いていく。

地下神殿の壁に刻まれた古代の紋章がぼんやりと光る中、エレボスは仲間たちの視線を浴びながら、ひそかに背伸びをしていた。


「さて、次はどんな厄介なトラップかな……」

彼は小声で呟くも、その表情はどこかのんびりしている。


「エレボス様、油断は禁物です!この神殿は一歩間違えれば即死級の罠が待っています!」

リリィの声が厳しく響く。彼女はもう何度も地下神殿の攻略に挑んできたが、エレボスのヘラヘラぶりにはいつも振り回されていた。


エレボスは肩をすくめ、へらりと笑った。

「いや、そんな怖い罠、俺はまだ引っかかってないし。まあ、たぶん。」


「たぶん、じゃダメなんです!」

ミルヴァン隊長がピシャリと言い放つ。


「はいはい、すみません……」

エレボスはちょっと申し訳なさそうに頭を掻きながらも、心の中はこう思っていた。


(正直言うと、こんな狭い通路で俺が大暴れしたら逆に皆が困るだろ……でも無様には見せられないし……)


その時、突然壁から鋭い刃が飛び出し、エレボスのすぐ前でスパッと床に突き刺さった。


「うおっ!」

エレボスはすばやく後ろに飛び退き、額に汗を浮かべる。


「だ、大丈夫。危なかったけど、俺が居るから平気平気」

言いながらも、自分の動きに少し驚いている様子。


リリィは冷静に呆れ顔。

「もう、何回あなたのそんな適当な自信に救われたか分かりません……」


隊員の一人が小声で呟く。

「むしろ、エレボス様の適当さが奇跡を呼んでる気がするんだが……」


その言葉にエレボスは笑顔で応えた。

「俺もそう思う!でもね、実力なんて気合と運の掛け算だよ!」


ミルヴァン隊長が真顔で言う。

「それはお前だけだ……」


こうして、地下神殿の奥へ進む一行は、真剣そのものの隊員たちと、どこかのんびり屋のエレボスという、アンバランスな組み合わせで進み続けるのだった。


地下神殿の奥深く、湿った空気に混じってかすかに古びた香木の匂いが漂う。石造りの廊下は長く伸び、ところどころに苔が生えて滑りやすい。エレボスは歩きながら、ふと足元を見て軽くつまずきかけた。


「っと……ま、こんなの序の口だよな」

と、相変わらずの軽口を叩く彼に対し、ミルヴァン隊長は眉をひそめる。


「エレボス、油断は禁物だ。ここから先は、今までとは段違いに危険度が増す。君の気まぐれな行動で、仲間を危険にさらすわけにはいかないぞ」

隊長の声は真剣そのものだった。


エレボスは小さく溜息をつきながらも、どこか無邪気な笑みを浮かべていた。

「いやー、俺自身はそんなに強くないって自覚してるんだよ?あんまり派手に暴れて、みんなに迷惑かけるのもアレだしな」

と、控えめに言ってみたが、その目はどこか好戦的な輝きを含んでいた。


「でも、何かあったら俺が何とかするからさ。みんなも頼りにしてくれてるし」

彼の口調は柔らかいが、周囲の隊員たちはその言葉を聞くたびに冷や汗をかいていた。


「そうかもしれんが……」リリィが小声で言う。「何度も言うけど、あなたは実力を過小評価し過ぎ。あの無詠唱魔法の連続、普通の兵士なら一瞬で倒されてるわよ」


「いやー、でもなぁ……やっぱり俺って大したことないんだってば。こう見えても、力を出し切るのは実は結構怖いんだぜ?」

エレボスは手をひらりと振ってみせた。


「怖いって……?」

ミルヴァン隊長の眉がさらに下がる。


「だってさ、全力出したら、あんまりにも強すぎて皆が引いちゃうじゃん?俺みたいなタイプは、適度に手を抜いてるくらいがちょうどいいんだよ。だって、疲れるだろう?」

エレボスはそう言って、ズボンのポケットからおもむろに飴玉を取り出し、ぽりぽりと噛みながらゆるく笑った。


「エレボス様……あなたは本当に適当というか……」リリィは呆れた顔を隠せない。


その時、暗がりから奇妙な音が響いた。カサカサ……と、何かが這いずり出てくる気配。


隊員たちが武器を構えた瞬間、エレボスは飴を口から放り出し、ピンと身体を張った。

「あ、来たな。まあ、これも俺が片付けてやるよ」


しかし、彼の動きは決して派手ではなかった。むしろ無駄な動きを抑え、最小限の力で相手の攻撃をかわし、簡単に敵の急所を突いていた。


仲間たちは息を飲む。

「やっぱり、エレボス様はすごい……けど、本人は気づいてないんだなあ」


敵が倒れた後、エレボスは何事もなかったかのように、くたっと腰を下ろした。

「ふぅ、今日はこれくらいで勘弁してやるか……俺、意外とクールだろ?」


ミルヴァン隊長は腕を組み、深いため息をついた。

「全く……この男の適当さがまた、神殿の呪いよりも我々を惑わせるとはな……」


その時、背後からリリィが声をかける。

「でも、エレボス様が居なければ、この先進めなかったのも事実。あなたの不思議な“力加減”が、このチームの命綱よ」


エレボスは軽く笑いながら、ふと口を開いた。

「まあ、俺ってのはな、ちょっと不器用なだけの頼れるお兄ちゃんってところだ。みんなも気楽に頼ってくれていいぜ」


だが内心は違った。

(本当は、もっともっと強くなりたい。でもそんなこと言ったら、隊長たちにまたウザがられるんだろうな……まあ、焦らずゆっくりいこう)


地下神殿はまだまだ奥深く、謎も危険も尽きることがない。

しかし、エレボスの軽いノリと、周囲の真剣な緊張感が、不思議なハーモニーを奏でていた。


廊下を抜けて広間に差し掛かった一行。壁に刻まれた古代文字が薄暗い光を反射して、まるで何かを警告しているようだ。ミルヴァン隊長は顔を引き締め、仲間たちに声をかけた。


「ここから先は、本当に気を抜くな。罠と異形の魔物が同時に襲ってくる可能性が高い。皆、集中してくれ」


一方、エレボスは腕組みしながら天井を見上げている。

「はぁ……集中集中……うん、まあ俺は大丈夫だけど、みんなは気を付けろよな〜」

完全に上の空である。


リリィが小声でつぶやく。

「本当にこの人は……」


その瞬間、広間の奥からガラガラと不気味な音が響き、壁の一部がゆっくりとスライドし始めた。中から浮遊する異形の魔物が何匹も姿を現す。


「敵襲!」と誰かが叫ぶ。


一気に隊列は緊張感を増し、エレボスもようやく腰を落として構えた。だが、その顔はどこか楽しげで、まるで「ゲームのボス戦でも始まるか」のような軽いノリだ。


魔物が飛びかかってくる。エレボスは軽く腕を振るうと、無詠唱で黒い魔力の渦を作り出し、数体の敵を吹き飛ばした。


「うん、まあこんなもんか」

彼は自分の威力にちょっとだけ驚いた顔をしたが、それでも「大したことない」とすぐに自己評価を下げる。


一方で、周囲の隊員たちは完全に息をのんでいる。魔物を一瞬で薙ぎ払うその力は、間違いなく常人の域を超えていた。


ミルヴァン隊長が冷静に言った。

「エレボス、頼もしいが無理はするな。まだまだ先は長いぞ」


「無理?俺は全然無理してないぜ。むしろ、まだ本気じゃないからこれからが楽しみだ」

エレボスの声は軽いが、ほんの少しだけ熱が混じっていた。


戦いがひと段落し、エレボスが呟く。

「これだけ強くなれたら、もうちょっとだけ自分のこと認めてやってもいいかな、って気もするけど……でもまだまだなんだよな。俺、意外と小心者だからさ」


隊員たちは唖然としつつも、心のどこかで微笑んでいた。

「エレボス様、あなたの“控えめな自信”は、まさに唯一無二の魅力ですね……」とリリィが囁いた。


エレボスはポケットからまた飴を取り出しながら言う。

「まあ、飴ちゃんでも舐めながら、ゆるく行こうぜ。地下神殿は長丁場だしな」


その言葉に、緊張感は少しだけ和らいだ。

だが、彼らの前には、まだ誰も見たことのない試練が待ち構えているのだった。


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