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第73話 ツチノコ快進撃

 配信のゴールデンタイムである夜9時。

 事前に告知をしていた俺は、配信を開始した。


「こんばんは、森木悠です。今夜は、ご報告をしたくて配信しました」


 コメント欄には、『こん』と『ゆう』スタンプが大量に流れている。

 俺のチャンネル登録者数は、今日で1900万人になった。

 90円のメンバーシップギフトが投げられまくった結果、3割くらいメンバーになっており、スタンプは絨毯爆撃と化している。


「まずは、ご報告の理由をご説明します。私は音楽家として楽曲提供しています。鈴菜の『白の誓い』や、咲月の『歩んだ道』のことですが、今後も楽曲提供するかもしれません」


 そこで一度言葉を切ると、コメント欄に『うんうん』と手打ちのコメントが打ち込まれていった。

 そのスタンプも作ろうかと思いながら、話を再開させる。


「そのためクリエイターとして、信頼性を客観的に示す必要があると考えました。それが、ご報告させて頂く理由になります」


 俺は一呼吸置いて、視聴者数を確認した。

 平日の夜だが、同接は160万人を超えている。

 先月から、日曜日の夜9時にドラマ『セカンドフレア』が放送されているため、この時間は視聴者が俺に時間を割き易い。

 もちろん大人数になっているのは、SNSでも事前告知した結果だが。


『信頼性を示すって、何をするんですか?』


 視聴者の疑問に答えて、俺は本題に入る。


「先日、知能検査を受けました。音楽的才能と知的能力には、相関関係があると学術的に知られています。今回、私のIQテストの結果を公表したいと思います」

『えええええっ!?』


 その発言で、コメント欄が爆発的に加速した。

 俺は配信画面に、使用検査の名称と対象年齢を載せながら、検査を説明する。


「検査は、東京認知発達研究所で実施しました。用いられた検査は、16歳までが対象のWISC-Vと、16歳以上が対象のWAIS-IVです。これは私の年齢が16歳0ヵ月で、二つの検査の境界年齢にあたるためでした」


 WISC-Vは16歳まで、WAIS-IVは16歳以上を対象とした検査だ。

 両方を使うことで、より正確な測定が可能になる。

 また、上限を超える能力を測定するため、Stanford-Binet L-M検査の要素も補助的に使用されたことも付け加えた。


『本格的すぎ!』

『結果が気になります』

『お誕生日おめでとう。言ってよーっ!』


 補足している間にも視聴者数は伸び続けており、ついには200万人に達した。

 なお誕生日の件は、三十路の男性の感覚として、どうでも良かったりする。

 誕生日を祝うコメントには触れず、話を進める。


「概要欄には、東京認知発達研究所の公式ホームページへのリンクを貼りました。問い合わせでご迷惑をお掛けしそうなので、公式にも結果を掲載して頂きました。ですから、直接の問い合わせはお控え下さい。それでは読み上げます」


 俺はスキャン画像を画面に載せて、下から引っ張るように上げていく。

 専門知能検査結果報告書と題された用紙がアップで載り、被験者である俺の氏名と年齢、検査実施日、使用検査、検査者名が出た。

 次いで、総合結果概要が見えてきた。


「全検査IQ160。つまり私のIQは、160でした」


 その瞬間、コメント欄が混沌とした。

 スタンプは『凄』『怖』『驚』『祝』『天才』などが乱れ飛び、手打ちの『!』『?』が大量に打たれた。

 もちろん文字でも、驚きのコメントが乱打されている。


『160ですかぁああ!?』

『嘘でしょ。天才すぎる!』


 褒めてくれているが、それで俺は思い出した。

 俺の視聴者は、高校に進学しただけで偉いと褒めてくれた人達だ。

 どれくらい凄いのか、あまり分かっていないかもしれない。

 急遽、補足を入れる。


「東大生が、平均127。IQ160は、3万人に1人。男性も、3万人に1人。IQ160の男性は、9億人に1人のようです」


 具体的な数字を出したところ、コメント欄に『天才』スタンプが乱舞した。

 目がチカチカとするが、どうやら伝わったらしいと確信できた。

 そして一部のコメントには、鋭い指摘も混ざっていた。


『男性の高校進学率は女性の4分の1以下だから、36億人に1人かも?』


 その指摘は、合っているかもしれない。

 オンライン授業の男性には、学習効率の低下と、社会性発達の阻害がある。

 前世でも、教育格差が大きい地域では、高IQ者の出現率が大幅に下がった。

 中卒で止める4分の3の男性からは、IQ160が現れないかもしれない。


 だが高校に行かなくてもIQの高い人間は居るので、断言はできない。

 ここで不確かなことは言いたくないので、見なかったことにして、先に進む。

 次は、IQ160の下にある指標を読み上げていった。


「言語理解指標が165、視空間処理指標が155、流動推理指標が168、作動記憶指標が170、処理速度指標が154でした。99.99パーセンタイルは、1万人中1番目以内という意味です」


 各指標の結果を読み上げるたびに、驚きのコメントが寄せられた。


「その次は、下位検査項目結果ですね。ここにある尺度得点とは……」


 WISC-Vの知能検査は、尺度得点が平均10、標準偏差3の正規分布に基づく。


 得点10で、50パーセンタイル(1000人中500番目)

 得点13で、84パーセンタイル(1000人中160番目以内)

 得点16で、97.7パーセンタイル(1000人中23番目以内)

 得点19で、99.9パーセンタイル(1000人中1番目以内)

 そのため19が満点だが、そこに+が付くと、少し意味が変わってくる。


「19に『+』が付くと、検査の測定上限を超えることになります。作動記憶は、3項目が高すぎて測り切れなかったと、特記事項に書かれました。ですから先ほどの上位項目である5指標のうち3指標にも、+が付いていますね」


 まさに、ツチノコ快進撃である。

 梨穗のライバルは、配信を見ているだろうか。

 彼女達のためにやっているので、ぜひ配信を見て、下克上を諦めてほしい。

 俺は、IQ127の男性が対抗馬にならないことを分からせるために、能力の詳細も説明する。


「次に、検査結果の解釈ですね」


 統合的認知プロフィール分析の結果を表示させて、それを読み上げた。


「被検者の認知プロフィールは、全ての領域で卓越した能力を示すと同時に、特に作動記憶と流動推理に顕著な強みが見られます」


 検査結果には、前頭前野の高度発達という指摘があった。

 そこには『幼少時より、通常では有り得ない高度な思考を働かせていた可能性があります』と書かれている。

 大人の知能を持って幼児期からやり直した場合、こういう事が起こるらしい。

 俺は理由を知っているが、検査した側は、さぞや困惑したことだろう。

 道理で、短時間でポンポンと作詞作曲ができるわけだ。


「特別所見として、『多重才能領域』を指摘されました。音楽、言語、演技など複数の領域で、極めて高い能力を持つ。学んだことは、別領域で効果的に応用できる。異なる分野を統合することも、できるそうです」


 この部分は、俺自身も読んでいて興味深かった。

 おそらく前世で、異なる分野を兼務させられたことが原因だと思う。

 子供が知能を引き継げば、複数の業種を束ねる黄川を経営できる能力を持てる。

 相手側の子供は、どうだろうか。


「それが流動推理で指摘された、学際的知識統合能力に繋がるわけですね。学際的知識統合能力とは、複数の異なる専門分野の知識や視点を組み合わせて、複雑な問題を解決する能力だそうです」

『単一分野の天才じゃなくて、多重分野の天才なんですか!』

『悠くんって、地球人だよねっ!?』


 どうやら、俺がツチノコだと気付いた連中がいるらしい。

 最後に、トドメとなる特記事項を読み上げていく。


「IQテストで報告される最高標準スコアは160であり、被検者の認知能力は、多くの項目で標準検査の天井効果を超えています。つまり正確にお伝えしますと、私はIQ160ではなく、IQ160以上になります」


 俺は数値の土台となる下位検査項目で、満点や満点以上が多かった。

 梨穗のライバル達に向かって、分かり易く補足をしておく。


「5つの指標を平均するだけでも、162.4です。そしてIQは、下位検査の素点から統計的に計算されます。満点や満点以上が沢山ありますので、160を越えるようです。いくつでしょうね。163よりは、高そうですが」


 ツチノコを目撃した200万人によって、ついにコメント欄はカオスと化した。

 配信者だけが見えるコメント欄では、視聴者達の絶叫が飛び交っており、コメント制限モードによって自動的にカットされていた。


 梨穗のライバル達も、おそらく砕け散っただろう。

 IQ160がラインと見せかけて、ゴールポストを動かしたのだ。

 俺がIQ160であれば、IQ170の男性を連れてくれば良いかもしれない。

 だがIQ160以上だと、どこまで上を探せば良いのか分からない。


 今世の男女比と教育環境では、日本国内から探すのは無理だ。

 すでに頑張って探した結果が、IQ127とIQ121の男性達だ。

 今から海外で探して、仮に見つけられたとしても、他国企業に自国最高のIQを持つ男性の遺伝子を譲ってくれるわけがない。

 俺が探す側だとすれば、探しても無駄だと分かるので、匙を投げる。


「この結果を公表する理由は、楽曲提供者としての信頼性向上です。客観的な能力証明によって、私から楽曲提供を受けるアーティストさんが、私を信頼して歌って頂けたら良いなと思っています」

『現役の歌手です。何でも歌いますから、楽曲提供して下さい!』

『私も歌手です。ベルゼ音楽事務所に連絡すれば良いですか!?』


 プロっぽい人達のコメントが、次々と視界の端を過ぎっていく。

 投げ銭を解禁していたら、コメント欄を赤色で埋められていたかもしれない。

 もちろん大義名分は嘘なので、それらのコメントは避けて、俺にとって都合が良いものを探して読み上げる。


「ええと『東京認知発達研究所は、有名な専門機関ですよね』ですか。はい。検査内容も世界共通ですし、検査中の映像も撮られています。行政機関が確認すれば、証明できると思いますよ。ですが個人の問い合わせは、お控え下さいね」


 同接260万人。

 SNSのトレンドに上がっているし、スクショも貼られまくっている。

 梨穗の対抗馬は、遥か後方に置き去りとなった。

 ちなみに俺は、徹底的にやるタイプだ。

 トドメを刺し切れず、相手が生きていた可能性など、微塵も残さない。


「私の音楽家としての信用が高まりますので、検査結果、配信の切り抜き、スクショなどは、誰でも自由にして下さい。収益有りもOKです。ですが検査の数値は、変えないで下さいね。それをされると、私の信用が落ちてしまいますので」


 このように公言しておけば、視聴者が画像をばらまき、まとめサイトの管理人が記事を掲載し、切り抜き職人が様々な動画を作ってくれる。

 誤情報は、チャンネル登録者1900万人が見つけて、集団で訂正してくれる。


 ――いけっ、ファン○ル達!


 コメント欄では、了解を伝える旨の返事が、濁流となって流れていた。

 俺の意志を受けた彼女達は、エネルギーを自動で回復し、仲間を増やしながら、相手陣営を無限に分からせる。

 俺はIQ160以上で、相手はIQ127。その差がどれだけの意味を持つか、相手陣営が理解するまで、多方面から語り続けるだろう。

 これで勝敗は決した。


「それでは、ご報告を終わります。おつゆうでした」


 コメント欄が『おつ』『ゆう』スタンプで埋め尽くされていった。


 この時、俺は前世の感覚で、今世を過少評価していた。

 確かに俺は「誰でも自由に」と言ったが、想定していたのは一般人だった。

 だがテレビ局、新聞社、週刊誌、研究機関、関連省庁や国会議員まで。誰もが、遠慮なく、むしろ使命感すら持って、各方面で発信しまくった。


 人工授精が主流の世の中で、男性の高校進学率が2割の中、IQ160で様々な結果も出した16歳男性の献精が、どれだけ社会に影響を与えるのか。

 献精者の平均である3万人の子供が生まれれば、相手女性がIQ100ですら、子供のうち96人がIQ161以上になる。

 ノーベル賞受賞者の平均とされるIQ145以上の子供は、1338人。

 母親のIQも高ければ、とんでもないことになる。

 それらの統計は、翌朝には全国放送されていた。


 それが、黄川の後継者争いで、行われないかもしれない。

 当初の目的であるオーバーキルは、想定外に実現することになった。

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― 新着の感想 ―
黄川との関係で献精しない場合、 法改正もまったなし、ですね。w 貧乳優先法をねじ込むんだ!(バキ
全ての国から圧力かかるだろうから、黄川は交渉において最高のワイルドカードを得たな。
いやこれ⋯ 国家主導の献精マシンにされるんじゃ? あるいは国家紛争の原因に⋯
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