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第66話 部活動紹介

「まずは国際交流部に行きましょう」


 教村の案内で、廊下を歩いて行く。

 撮影スタッフのカメラマンと助手が後に続き、足音が廊下に響いていった。

 校内は夏休みとはいえ、文化祭の準備で登校している生徒達の声が、所々の教室から聞こえてくる。

 もしかすると、補習などもしているのかもしれない。


「国際交流部は、どこにあるんですか」

「本校舎の3階よ。少しだけ高価な機材もあるからね」

「確かにパソコンとかは、実習棟よりも本校舎のほうが良さそうですね」


 撫子高校は、メディア企業が設立した高校だけあって、施設が充実している。

 フロアに足を踏み入れると、音楽室もあった。そちらにも、高価な楽器が置いてあるのだろう。


 しばらく進んだ教村は、廊下の奥で立ち止まった。

 ドアの上部にかけられたプレートには『国際交流部』と書かれている。

 教室の中に入ると、予想以上に国際的だった。

 壁一面には世界地図が貼られ、各国の国旗が飾られている。

 机には大型のモニターがいくつも設置されており、ノートパソコンからHDMIケーブルで映像が出力されている。

 ヘッドセットやWebカメラも完備されていた。

 そして部屋には、緑上優理が待っていた。


「やっほー」


 優理が手を振ってきたので、俺は頷き返した。


「それじゃあ、早速始めて頂戴。森木君には、隣に座ってもらうわ」

「分かりました」


 優理はパソコンの前に座り、慣れた手つきでビデオチャットアプリを起動した。

 そしてランダムではなく、相手を選んで選択する。


「写真撮影ですから、知っている人に繋げますね」


 優理がそう言うと、画面に接続中のメッセージが表示された。

 数秒後、画面が切り替わり、ブラウンの髪をした女性が映し出される。

 大学生くらいの年齢で、明るい笑顔を浮かべている。


Hi, Yuri! How are you doing today?

(こんにちは、ユリ! 今日は元気?)

Hi, Sarah! I'm doing great. Actually, I'm at school today for a special photoshoot.

(こんにちは、サラ!元気よ。実は今日は学校で特別な写真撮影をしているの)


 相手の女性が英語で話しかけてきて、優理が英語で返答した。

 写真撮影と聞いたところで、俺はカメラに映る位置に移動した。


A photoshoot? That sounds interesting. What kind of……

(写真撮影?それは面白そうね。どんな種類の……)


 サラと呼ばれた相手女性が俺を見て、目を見開いて驚いた。


Wait, is that a boy? A real boy sitting next to you?

(待って、それって男の子?本当の男の子があなたの隣に座ってるの?)


 男女比が三毛猫になったのは、日本に限らない。

 俺の存在に対する反応は、予想通りだった。


Yes, this is Yuu. He's actually a student at our school.

(そうよ、この子はユウ。実際に私たちの学校の生徒なの)


 優理が俺を紹介したので、俺は軽く挨拶する。


Nice to meet you, Sarah.

(はじめまして、サラ)


 俺が英語で挨拶すると、サラはさらに驚いたような表情を見せた。


We're taking photos for our school brochure today. Would it be okay if we include this conversation in the shoot?

(今日は学校案内のパンフレット用の写真を撮っているの。この会話を撮影に含めても大丈夫?)


 優理がパンフレット撮影の説明をして、撮影への協力を求めた。


Of course! I'd be honored to be part of it. But I have to ask something. How is it possible that he's actually attending school? In America, boys don't go to school.

(もちろん!参加させてもらえて光栄よ。でも聞かなきゃいけないことがあるの。彼が実際に学校に通えるなんてどうして可能なの?アメリカでは、男の子は学校に通わないのよ)


 サラが興味深そうに質問してきた。


It's a very special situation. Our school has a performing arts program, and Yuu is involved in entertainment industry.

(とても特別な状況なの。私たちの学校には芸能コースがあって、ユウは芸能界に関わっているの)

You're so lucky to have him in your class!

(クラスに彼がいるなんて、あなたはとても幸運よ!)


 優理が簡潔に説明すると、サラが羨ましそうな声を発した。


I know, right? It's really rare to have a male classmate.

(そうでしょう?男子のクラスメイトがいるなんて本当に珍しいことよ)


 優理も同意しながら、俺を見た。

 背後では、時折カメラマンがシャッターを切る音が響いている。


Can I ask him something directly?

(彼に直接何か聞いてもいい?)

Sure, go ahead.

(もちろん、どうぞ)

I don't speak Japanese, but do you speak English? Are there any other languages you can speak?

(私は日本語を話せないのだけれど、あなたは英語を話せるかしら。ほかに話せる言語はある?)

I can speak English. I'm also fine with German and Chinese.

(英語は話せます。ほかには、ドイツ語と中国語も大丈夫ですよ)

That's wonderful!

(それは素晴らしいわ!)


 俺が伝えると、隣の優理は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。

 ちなみに習ったのは、前世である。


Yuu, what's it like being probably the only boy in your school? It must be quite an experience.

(ユウ、学校でおそらく唯一の男子でいるってどんな感じ?とても貴重な体験でしょうね)


 サラの質問に、俺は少し考えてから答えた。


It's definitely unique. but everyone has been very welcoming.

(確かにユニークな体験ですが、みんなとても親切にしてくれています)

That's wonderful. It's impossible in America.

(それは素晴らしいわ。アメリカは不可能ね)


 その後も、優理とサラは俺の学校生活について会話を続けた。

 サラは、俺が実際に授業を受けていることについて、強い興味を示した。

 そしてカメラマンは、俺達の様子を様々な角度から撮影している。

 時には俺達の表情をアップで撮り、時には部屋全体を俯瞰で撮影していた。

 照明の当たり方も計算されており、プロの仕事ぶりが伺えた。


Well, I should let you get back to your photoshoot. It was really nice meeting you, Yuu. Take care!

(それじゃあ、写真撮影に戻ってもらわなきゃね。ユウ、お会いできて本当に良かったわ。気をつけて!)

Nice meeting you too, Sarah. Have a great day.

(私もお会いできて良かったです、サラ。良い一日を)


 最後の挨拶を交わして、ビデオチャットが終了した。

 画面が暗くなると、教室内に静寂が戻る。


「オーケーです」


 カメラマンが撮影成功を告げた。

 画像を確認しながら、納得の表情を浮かべている。


「いい写真が撮れたわね。それじゃあ、山岳部に移りましょうか」

「分かりました」


 教村に促された俺達は、国際交流部の部室を後にした。

 廊下を歩きながら、咲月が小声で呟く。


「悠さん、英語が話せるんですね」

「いえ、高校生レベルです。相手は、簡単な単語をゆっくり話してくれました」


 番組などに出ようものなら、簡単にボロが出る。

 目力で、絶対に出ないという意思を伝えながら、山岳部の部室に入った。


「おひさー」


 部室から、見覚えのある声が響いた。

 ゆるふわウェーブの髪を二つに結んだ千尋が、満面の笑みで手を振っていた。

 千尋とは、夏休みに入ってからは初めて会った。


「確かに久しぶりだな」


 日数的には、3週間振りくらいになるだろうか。

 クラスメイトと会わないのは普通だが、千尋はドラマで俺と夫婦になり、子供を生んだことになっている。

 同じく夫婦になった優理は、無人島サバイバルで共演したので、千尋だけ疎遠だと言われれば、そうなのかもしれない。


 そんな千尋が所属している部室の壁には、山の写真が沢山貼られていた。

 富士山と北アルプスくらいしか判別できなかったが、いずれも良い写真だ。

 写真の下には、登山日と参加メンバーの名前が書かれたラベルが貼ってある。


「本当に登っているんだな」

「それは山岳部だからね」


 千尋が誇らしげに胸を張った。

 外見は女子らしくて可愛いのに、残念である。


「今日は、装備のメンテナンスをする写真を撮るよ」

「了解した」


 作業台の上には、登山靴やトレッキングポールなどの道具が並んでいる。

 あいにくと登山には詳しくないが、写真を撮ることくらいはできる。

 金属製のカラビナを手に取った千尋が、親指でパチンと開閉音を確認しているのを眺めている間に写真が撮られていった。


「まったく分からない」

「男の子は、登山なんてできないからね」


 前世であれば不本意な言われようだが、今世では男性が一人で山登りをすると、遭遇した女性グループに山小屋へ連れ込まれかねない。


 俺は神妙そうな顔つきをして、道具を眺める写真を撮られた。

 それから弓道部と写真部にも寄って、実弓と共に弓の弦を引く姿と、瞳子と共にドローンを操作する姿を撮って、部活紹介の撮影を終えた。

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