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第05話 100万人突破とスカウト

 チャンネル登録者数が、初配信から3日で100万人を突破した。

 15歳男子高校生による作詩・作曲・演奏・歌唱の話がバズり過ぎて、登録者数が跳ね上がったらしい。

 ツチノコが現れたに等しい出来事なので、無理からぬ話ではある。


「今の勢いだと、1週間以内には200万人に届きそうかな」


 前世では、大手事務所に所属する新人配信者が、初配信から2週間で100万人を達成した記録がある。

 彼女は珍しい「お嬢様キャラ」という希少性で注目を集めた。

 それに近しい行動をしており、男女比1対3万という環境要因の分だけ、俺が有利なのだろう。

 SNSを開くと、俺の歌唱と演奏の切り抜き動画が、各国で拡散されていた。


『男子の歌声、美しい!』

『本当に現実なの? こんな響き、聞いたことない』


 翻訳をクリックすると、そのようなコメントが載せられていた。

 男性が弾き語りをする自体が、世界にも衝撃を与えているらしい。そのコメントに対して、作詩と作曲もしている15歳だと説明している人も居る。


 ――音楽だけの短い動画だから、世界中に通用するか。


 この世界では、日本に限らず男性の歌声をリアルで聴ける機会は殆ど無い。

 日本は30年前、人工授精への移行を成功させて、人口を保てた。

 それは厳密な戸籍管理、高度な医療技術、世界屈指の経済力によって、国民に対価と引き替えの献精を求めることで、実現した。

 だが日本ほど上手くいかなかった世界各国では、子供を持てない女性が増えて、男性の危険が増した。

 対価を払っての協力要請ではなく、義務や強制になり、回数も増えた。また銃を用いた男性の誘拐も頻発している。

 そのため音楽活動をする若い男性は、海外では日本以上に有り得ない存在だ。

 海外勢が加わると、登録者はさらに伸びる。


『男子って、こんな風に歌うんだね』

『感動して泣いた』


 女性たちにとって、男性の恋愛ソングは未知のものだった。

 それが、優しく、情感を込めた歌唱となれば、胸を打たれるのも当然だろう。

 ここまで上手く軌道に乗ったことは、素直に喜ぶべきだろう。

 だが、今後の展開をどうするかが問題だ。


 俺の目的は、国会で法律化された『20歳まで未婚の男性は、22歳までに国でマッチングした5名と重婚する』という悪法でボインボイン軍団と結婚させられることを回避すべく、自分で理想のちっぱいを探すことだ。

 チャンネル登録者数で考えれば、すでに視聴者にも理想の相手は居るはずだ。

 あとは時間を掛けて、ガチ恋勢にしていくだけである。


 ――これは聖戦だ。ボインボインになんて、絶対に負けない。


 だが俺は、通信制の高校生でもある。

 学校の課題と配信者の両立が出来るように、配信内容には勉強の作業用配信や、気分転換のゲーム配信などを考えていた。

 しかし、ここまで注目を集めた状態で作業配信をすると、視聴者の期待と乖離するかもしれない。


「初配信で、男子高生配信者だから主に勉強の作業用配信や、ゲーム配信などをしていくつもりだと言ったんだが」


 餓えた野獣は、どれくらい獲物の話を聞いてくれるだろうか。

 5分くらい話したら、そろそろ喰わせろと言ってくるかもしれない。

 半分冗談だが、大雑把には、そういうことだ。

 試しにTwitterを開いて、視聴者に聞いてみる。


『そろそろ次の配信を考えていますが、何をしてほしいですか?』


 数秒もしないうちに、返信の嵐が発生した。

 通知が止まらず、画面がどんどん埋め尽くされていく。


『歌ってほしいです!』

『また弾き語りが聴きたいな』

『ほかの曲も弾けたりしますか?』

『新曲がほしい!』

『毎日歌配信してくれたら最高です!』


 やはりというか、圧倒的多数のリクエストが演奏や歌だった。

 当然といえば当然だろう。なにしろ特技として、それしか披露していない。

 さらに返信欄の上位に、視聴者ではないコメントが複数載った。


『金成芸能事務所と申します。芸能活動にご興味はございませんか。弊社SNSをフォローして頂き、DMでやり取りさせて下さい』

『ベルゼ音楽事務所と申します。歌手としてプロデビューされませんか。SNSをフォローして、DMで直接ご連絡を頂けましたら幸いです』


 俺は半信半疑のまま、それらのコメントをクリックしてみた。

 すると相当数のフォロワーが居るアカウントで、事務所の公式ホームページや、ネット百科事典からのリンクでも、そのアカウントに飛べた。


「うーん」


 声を掛けられる理由には、山のように心当たりがある。

 この世界には、弾き語り配信をする男性が居ない。その潜在的な需要は、フォロワー数から明らかだ。

 ドラマに出せば、貴重な男性役を得られる。

 ツチノコを出演させるようなもので、視聴率は鰻登りだろう。


 音楽活動に関しても、作詞・作曲・演奏・歌唱が出来ると思われている。

 俺が弾き語りをした『星降る海辺』は、男女比が1対1だった前世の知識と経験を基にした曲で、今世の人々では生み出せない。


「結局のところ、俺のプラスになるのかだよなぁ」


 活動が広がれば、ファンが増えるだろう。

 するとより良い相手が自分に引っ掛かるし、断られる可能性も低くなる。

 よほど人気になったら、「実は政府の悪法が嫌で、理想の相手を探しています。私の理想は……」と言って条件を出したら、立候補してくれるかもしれない。

 但し、事務所に扱き使われるのは嫌である。

 そのように考えている間に、3つ目の事務所がメッセージを載せた。


「芸能事務所、音楽事務所、マネジメント会社か」


 業界の種類は違うが、どの事務所も俺をスカウトしたいらしい。

 まだ初配信を終えて間もないのに、異様な反応速度だった。

 チャンネル登録者数の爆発的な増加は理解できる。

 だが事務所は企業なので、社内で検討して責任者が承認するプロセスが必要になるし、マネジメントの方向性をすり合わせる時間も掛かるはずだ。

 それが即座に「ぜひ所属を」と持ちかけてきたのは、提案者自身が社長なのか、俺が確実に利益を生むと確信したからだろうか。


「俺が一方的に条件を飲む必要は無いんだよな」


 俺を獲得すれば、事務所にとっては大きなメリットがある。

 ドラマや映画に出演させれば、男性キャストというだけで話題性は抜群だ。

 音楽活動をさせれば、男性が歌うだけで新規ファン層を獲得できる。

 100万人のチャンネル登録者も、事務所のビジネスに直結する資産となる。

 だが俺は、別に所属しなくても困らない。

 条件を出して断られたら、契約しなければ良い。

 俺は、音楽系の事務所にメッセージを送ってみることにした。


「現在、複数の事務所から連絡を受けています。ですが私は、大前提として次の条件が満たされない限り契約しません……」


・配信サイトは所属前からの個人活動で、事務所と収益は分配しない。

・配信サイトでの活動は完全に自由で、事務所の干渉は一切受けない。

・事務所の仕事は、自分が受けても良いと思った仕事しか受けない。

・契約は、どちらか一方からの申し出があれば、半月で終了できる。

・事務所を介した仕事の報酬は、事務所と折半とする。


 前世でこのような条件を提示すれば、よほどの大物でなければ契約は成立しなかっただろう。

 だが今世では、俺は三毛猫のオス並に希少な若い男性で、しかも作詞・作曲・演奏・歌唱を熟すツチノコ並に奇異な存在なので、所属させるだけで価値がある。

 メッセージを送ったところ、即座に返信があった。


『それらの条件をすべて受けます。ほかにも確認されたいことがございましたら、ご確認ください。その上で、一度お話しできませんでしょうか』

「……早っ!」


 先方は、何が何でも俺を捕まえたいらしい。

 ほかにも条件があるかと聞かれたので、とりあえず何か無いかと考える。


「御社のホームページを軽く拝見しましたが、所属されている方がアニメの主題歌を歌っておられましたね。それがとても面白そうだと感じました……と」


 俺のメッセージに対して、すぐに返信が来た。


『もちろん可能です。ほかにもドラマの主題歌、CMやバラエティ番組のMC、番組へのゲスト出演も可能です』


 俺の希望する音楽活動以外にも、幅広く案件を持っているらしい。

 だが、俺が出したアニメ主題歌という話から大きく外れないようにするあたり、慎重に話を運んでいるように思える。

 少し考えていると、先方がさらに追加で条件を提示してきた。


『ご自身が受けても良いと思った内容だけとのことですので、事務所への所属ではなく、仕事ごとに単発での契約でも大丈夫です』


 それは、かなりの好条件だ。

 事務所に所属すると、仕事の選択権が完全に本人にあるわけではなくなる。

 だが単発契約なら、必要な時だけ契約を交わして、終われば即解約できる。

 実質的にフリーランスとして活動しながら、事務所のバックアップを受けられるというわけだ。

 それは、俺にとって非常に都合がいい。


「興味を持ちましたので、一度お話を伺いたいです……と」


 送信ボタンを押すと、ほとんど間を置かずに返信が来た。


『ありがとうございます。近日中にオンラインで打ち合わせは如何でしょう?』


 先方は、とんでもない判断力と行動力だった。

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