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第46話 道具調達

「弓道場に弓矢を取りに行って、その後にドローンを回収しよう」


 俺は実弓と瞳子を見ながら提案に賛同した。

 武器もドローンもあったほうが良い。


「今学校には300人ほどの生徒と20人くらいの先生が居る」


 それは、登校した生徒数が3分の1だったことから予想した数だ。


「感染者が30人で押し寄せても、いきなり320人が全滅はしない。今が弓矢とドローンを取りに行くチャンスだと思う」

「それって、ほかの子を囮にするっていうこと?」

「俺が鬼ごっこに加わったら、ほかの子が襲われるリスクも分散される。むしろ助けになるんじゃないか」

「そういうわけで弓矢とドローンを取ってくるから、場所を教えてくれ」

「私も行きます」


 俺が告げると、実弓が俺を見返して訴えた。


「女子には感染のリスクがあるんだが」

「弓には種類や重さがあります。見分けは付きますか?」

「分からない」


 弓の種類や重さを説明されても、どれを持ってくれば良いのか見分けが付かない。実弓を連れて行かず、俺が必要な弓を持って帰れなければ、行く意味が無い。

 渋面を作りつつも、頷くしかなかった。


「それなら、わたしも行きます」


 瞳子も名乗り出て、俺は実弓の時よりも渋面を浮かべた。

 実弓は弓道部で身体を鍛えているが、瞳子は写真部で明らかに鍛えていない。


「機材が沢山あって、どれが必要か分からないと思います」


 俺はドローンを扱ったことがないので、写真部の部室にある機材のどれが必要なのか分からない。


「この状況で移動するのは安全とは言えない」

「このまま立て篭もっていたら、水が飲めなくなって、食べ物も無くなります」

「今動くのは必要だと思います」


 実弓と瞳子の言い分は道理である。俺は咲達に向き直った。


「ちょっと行ってくる。交代で防火戸の内側で待機してくれ。戻ってきた時、非常扉を三三七拍子で2回叩くから、それが聞こえたら開けてくれ」

「スマホは通信量が増えすぎてトラブルが起きるかもしれない。声を掛けると感染者に気付かれるかもしれない。だからアナログだ」

「分かったわ。交代で待機しているわね」


 優奈が千尋や咲と顔を見合わせて答えた。

 俺、実弓、瞳子の三人は防火戸の前に置いた机を外して外に出ると、階段を降りていく。2階に降りた俺は、そこにある防火戸を閉じた。


「2階と1階の防火戸も閉じておく」

「どうしてですか」

「3階だけ閉じていたら、そこに何かあると思われるかもしれない。全部閉じていたら、時間を稼げる」


 実習棟を出ると、まだ生徒が逃げ惑っていた。


「どうしてだ」

「スマホや定期が無いと帰れません」

「だから教室へ取りに戻ったわけか。学校の大失敗だな」


 中庭に出ると、制服の女子生徒が一人、地面に仰向けに倒されて抵抗していた。その上に感染者と思わしき部外者がのしかかっている。その傍には別の生徒が居て、襟元を掴んで引っ張ろうとしていた。


「助けて!」


 俺は両手を伸ばして、左右にいる実弓と瞳子の手を掴んだ。

 細くて柔らかい手をそれぞれ強く引きながら、声を無視して駆け出す。


「助けないんですか」


 走りながら、実弓が短く問う。


「もう感染している。助けて連れて行ったら、皆も感染する」

「ねえ、助けてよっ!」

「いま君が逃げれば、君は助かるぞ」

「見捨てるなんて酷い!」

「君が感染するのは自由だが、俺達まで巻き込まないでくれ」


 そう叫びながら、俺達は駆け抜けて弓道場の前に辿り着いた。

 弓道場は校庭の片隅にひっそりと建っていた。

 瓦屋根の平屋建てで、入口の引き戸は頑丈そうな金属製だった。

 実弓が前に出て、入口脇にある植木鉢に手を掛けると、下から鍵が出てくる。


「合い鍵です。何年も前の先輩が作ったそうです」


 合い鍵を実弓が差し込むと、金属製の錠前が開いた。

 引き戸を開け、俺達は弓道場の中に滑り込んだ。


「靴は脱ぐな。感染者が来た時、靴無しで逃げることになるぞ」


 俺達は靴を履いたまま弓道場内を走る。

 やがて道場内の引き戸を開いた実弓は、弓立てにある弓を手に取った。さらに棚にあった矢筒に手を掛けた。


「俺も持とう」

「分かりました。それなら矢筒と矢をお願いします」


 実弓が矢を漁り始めたところで、背後からガタンと音が鳴った。

 咄嗟に振り返ると、制服を着た長身の女子が1人立っていた。


「元部先輩、1年の的場実弓です。この2人は私のクラスメイトで、鈴川悠馬君と写野瞳子です。その人は、春まで弓道部の部長だった3年の元部先輩です」


 実弓が早口で紹介して、俺達は少し警戒を下げた。

 元部は、いわゆるお助けキャラだ。

 このドラマ『セカンドフレア』は学校から郊外へ脱出する話である。

 だが俺達は高校1年生で車を運転できない。

 元部は3年生で免許を持っていて運転できるという設定だ。


「先輩は、これからどうする予定ですか?」

「どうする予定って?」

「とりあえずの安全地帯、水と食料、それらはありますか?」


 元部は首を横に振った。


「俺達は、それを確保しています。ついでに感染しない男の俺が居ます」


 これは脚本があるドラマ撮影だ。


「元部長でしたら、弓道の腕前が高いのでしょう。とりあえず、俺達の仲間に加わりませんか」


 俺は脚本に沿って、まことに不本意ながら、年上の巨乳を仲間に誘う。

 弓道場で、実弓が使う24本入りの矢筒と弓1本を手に入れた。

 それだけではなく、交換用の鏃と羽根も入手した。


「矢は使い回しが出来るし、これ以上は持って行けないから邪魔ね」


 矢自体が思っていたよりも長くて、それを入れる矢筒も大きかった。

 さらに元部も自分の分を抱えている。

 大きな荷物を複数抱えて移動するとリスクが有る。

 弓道部員が2人居て、2人分の弓矢と交換部品を持っていることから、それ以上を持ち出すことは自重した。


「これからどうするの」


 仲間に誘った元部は、俺達の方針を尋ねてきた。

 現時点で元部は、一緒に行くとは言っていない。

 あまりにも無謀な計画をしているようなら、軌道修正させるなり、断るなりする選択肢があるわけだ。


「外へ飛び出すのは危険なので、家庭科室に安全地帯を作りました。次はドローンを手に入れて、それから一度戻ります。水と食料は数日保ちますが、状況が好転しなければ、いずれ脱出します」

「脱出した後は、どこに行くの」


 自宅に着いたとしても、綺麗な水が供給されなければ、移動せざるを得ない。

 世界規模で発生しており、感染者と欠席者で3分の2という時点で、現在のインフラの維持は不可能だ。

 もしも逃げ込むのなら、自然の水が手に入り、開墾された畑もあって、自給自足できる島が良い。

 問題は、校内の移動すらままならないのに、海を渡るなど不可能ということだ。


「安定して水を得られる山を考えています」


 俺は千尋が話していた案に乗った。

 すると元部は、思いがけない提案をしてくる。


「それならドローンを取りに行った後、職員室に車の鍵を取りに行きましょうか」 「車ですか」

「そう。顧問の先生の机の引き出しに、車の鍵が入っているから」


 職員室にある顧問や担任の席を把握していることは、何ら不思議ではない。

 だが元部は、その机に車の鍵が入っていることまで把握しているらしい。


「先輩、車の免許を持っているのですか」

「取ったわよ。18歳だからね」

「うちの高校は、在学中に免許を取れるんですね」

「取れるわよ。そうじゃないと、就職で不利じゃない?」


 高校生の採用を検討する企業があった場合、片方が運転免許証を所持していれば、前者を採るに決まっている。

 実際に撫子高校でも、車の免許取得は認められている。


「ちなみに車種は何ですか」

「黄川のオリオン。SUVだから安全」

「それは心強いですね。小回りが利いて、悪路も走行できて、燃費も良い。こういう状況だったら、一番乗りたい車です」

「元部先輩、先生はどうしたんですか」


 俺がスポンサーを讃え終わると、実弓が当然の質問をした。

 いかにゾンビが大量発生しているとはいえ、車を持って行かれたらとても困る。俺達を見渡した元部は、不要となる状況を告げた。


「正面門で、6人くらいの感染者に噛み付かれていたわ」


 それは不要になるだろう。


「ウイルスは、神経伝達物質のバランスを破壊して、判断力を失わせるそうです。オリオンに安全装置があっても、そういう人に運転させてはいけないですし、街を出歩かせてもいけないですね」


 実弓が何か言いたげだったので、後期高齢者の100倍くらい運転が危険な人に車を持たせてはいけないと、弁護した。


「そうね。それじゃあドローンを取りに行きましょう。写真部で良いのかしら」


 元部が尋ねると、瞳子が頷いた。

 弓道場を後にした俺達は、中庭を抜けて、グラウンドの隅を駆けていった。

 撫子高校の運動部の一部が入る部室棟は、グラウンドの端に建つアパートのような平屋建ての集合棟だ。


 その一室が、写真部に割り振られており、走って行くと部室棟に辿り着いた。

 部室の入口には、植木鉢が置かれていた。

 瞳子がその前にしゃがみ込み、土を指で掘る。

 すると土の中から、合い鍵が出てきた。


「この学校の管理体制が心配になるな」


 撫子高校には、鍵屋の真似事をしていた先輩でも居たのかもしれない。

 鍵を差し込んで扉を開けた瞳子は、そのまま部室内に駆け込む。

 部屋の壁際に設置されている棚の前で立ち止まり、手を伸ばした。


「ありました。大丈夫です」


 見渡す限り、周囲の資機材も整っているようだ。


「動かせるか」

「普段から充電しているので、大丈夫です」


 俺が問い掛けると、自信があるのか瞳子が即答した。

 俺はそれに頷き返して、しばしその場で待機する。


「カット、お疲れ様でした!」


 外の拡声器から、数話分の撮影が終わったことを告げる声が響いてきた。

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― 新着の感想 ―
疑似パニックリアリティーショウととらえればいいのかもだけど、流石に長回しが過ぎるw
急に現実に戻された もう咲月と緑上以外の本名とか言われてもピンと来そうにないw
ここまで通しだったのか…放送時に疑惑になってメイキングか特番で暴露されて驚愕されるやつ
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