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第38話 役柄と名前

 撫子高校は、撫子テレビが自社で創立した高校だ。

 テレビ局は高校を舞台としたドラマや番組をよく作るが、撮影ごとに高校へ許可を取ると大変だ。

 そこで自ら高校を創立した上で、撮影し易いように、入学者をテレビ局関係者の子供か、芸能事務所に所属するか、スポーツ関係者で固めた。


 ――だから、大学にある喫茶店みたいな学食があるのかなぁ。


 俺達が居るのは、校舎一階にある喫茶店だった。

 天井に吊るされたレトロなガラスシェードの照明が、店内を柔らかく照らす。

 濃い茶色の木製テーブルと椅子がゆったりと並び、観葉植物が間を挟んでいる。

 全体的に深みのある色調でまとめられていて、外光を取り込まない設計が、照明の雰囲気を引き立てていた。


 どこから撮っても、ドラマの画に映えそうな、お洒落な空間だ。

 厨房とカウンターは奥にあり、注文はテーブルで受け付ける形式になっている。制服を着たスタッフが静かに歩き、料理や飲み物を丁寧に運んでいた。


「唯一の不満があるとすれば、料理が小盛りなことか」

「悠くん、男の子だもんね。わたしのハンバーグ、半分食べる?」


 幼馴染み役の咲が、ハンバーグ定食が載った自分の皿を見せてきた。

 なお俺達は、それぞれ自分の役柄として行動している。

 俺は鈴川悠馬、咲月は近場咲として、幼馴染みが喫茶店に来たらどうするのかを自分達のイメージで勝手に演じている。

 撮影カメラは回っており、俺か黄川が許可すればシーンを使えて、実際に使うかどうかは監督次第となる。


「人の食べ物を取るのも、取られるのも嫌だ。それなら2個注文するほうが良い。まあ多すぎるから、頼まないけどな」


 俺のアドリブ次第では、半分この展開もあった。

 そんな自由すぎるアドリブの禁止事項は、幼馴染みの咲とメインヒロインの優奈以外が、台本に書かれていないシーンで俺に触れること。


 ――契約上、禁止事項は俺が決めて良いことになっているからな。


 前世持ちの俺は、基本的に女子が好きだ。

 だが、誰でもアドリブで自由に触れて良いと許可して、前任者の末路に至れば、流石に阿呆すぎる。

 それにより『男性にはウイルスを感染させられないから、積極的には襲わない』という設定に変わった。

 ゾンビは男しか居なければ男も襲うが、未感染の女が一緒に居れば女を襲う。

 一番アドリブが利く乱戦になっても、ゾンビは俺を襲えない縛りがある。


 優奈だけは好きにして良いが、1対1で女子に負けるとは思えない。

 一応前世では、小学生の頃に武道館に通い、柔道の基礎は身に付けた。本格的に格闘技をやっていないなら、あとは力の勝負だ。


 ――男女の力の差って、科学的根拠があるからなぁ。


 男尊女卑の話ではない。

 男女が同じ体重だとしても、男性の筋力量は、女性より40パーセントも多い。それは男性ホルモンのテストステロンが、筋肉の発達を促進するからだ。

 上半身の差はさらに大きくて、男性の筋力は女性より50パーセントも強い。

 それに筋肉の質も異なる。男性の筋繊維は太くて、速筋繊維の割合が高いため、瞬発力や最大筋力にも優れている。


 身長差は、腕の長さが相手より長くて、先に掴めることを意味する。

 体重差は、相手の攻撃を耐えたり、相手を突き飛ばしたりすることに有利だ。

 大抵の哺乳類は、オスのほうが強い。

 人間も同様で、生物の作りとしてそうなっている。

 護衛の人達は格闘技の有段者で、技で来るので俺が負けるかもしれない。

 だが素人が多少の護身術を習っている程度なら、流石に負けない。

 そんな風に脳内で戦っていたところ、対戦相手が俺を現実に引き戻した。


「悠君、クラスの子を紹介するね」

「ああ、よろしく頼む」


 優奈の友達というのは、このドラマに登場するレギュラー達だ。

 今は喫茶店のテーブルに7人が顔を揃えている。

 そのうち3人は、俺、幼馴染みの咲、メインヒロインの優奈。

 残る4人は、ドラマでレギュラーになる女優達だ。


「並び順で、千尋。山岳部で、結構アウトドア」

「やっほー、山中千尋だよ。よろしくね」

「鈴川悠馬だ。よろしく」


 左手をパタパタと振ったのは、胸のサイズが小山のような、ゆるふわ系女子だ。髪を二つにまとめて、波ウェーブを作っている。

 いかにも女子といった外見だが、山岳部はアウトドアの知識が豊富だ。ゾンビが発生する世界では、とても頼もしい存在であろう。

 千尋は舞台役者で、身体を鍛えている。実際に、山登りもできそうだった。

 山中千尋の役名は、「千の山中を尋ねる」という意味だ。


「次は、実弓。実弓は、弓道部」

「的場実弓です」


 実弓はショートヘアで、実直そうな印象の少女だ。

 弓道をやっているからか、姿勢が真っ直ぐ伸びており、綺麗な立ち振る舞いだ。希少な同世代の異性の前にあっても、至極冷静で、愛想笑いは浮かべていない。

 本人はアイドルグループ所属だが、本当に弓道をやっていて選ばれたそうだ。

 的場実弓の役名は、ゾンビの世界が的場で、実弓で射るという意味だ。


「その隣が瞳子」

写野まの瞳子です」


 ペコリと頭を下げたのは、髪が胸の辺りまで伸びたロングストレートの少女だ。

 勉強はできるが、文芸部などに所属していそうな、大人しいタイプだろうか。

 気が入っていなさそうな感じで、自己紹介も簡潔に名前だけだ。

 そのため優奈が、瞳子についての補足をする。


「瞳子は写真部で、ドローン撮影とかもしているんだよ」

「へぇ。写真部って、色々やっているんだ」

「程々です」


 瞳子は内向的なキャラクターだが、カメラに詳しく、ドローンを飛ばせるので、偵察などで役に立つ。

 演じている本人は、ドラマに出る女優だと聞いた。そういう人間が本当に内向的だとは思えないので、キャラクターを演じているだけだろう。

 写野瞳子の役名は、写野が「写すの」で、瞳子が「瞳の子」という意味だ。


「最後に、小春」

「落合小春だよ。よろしくねっ」

「ああ、よろしく。それで落合さんは、何部なんだ?」

「小春で良いよ。チアリーディング部!」


 最後に紹介されたのは、明るい茶髪の三つ編みハーフツイン少女。

 小柄な小動物系だが、梨穗との違いは、見た目で分かる脳天気な顔だ。

 こいつは絶対に何も考えていないなと、一見すれば思ってしまう顔立ちである。

 もっとも本人は、子役からタレントという一割以下の登竜門を潜り抜けている。天然であるにせよ、道化師を演じているにせよ、求められる役割は果たせる。

 落合小春の役名は、落合がオチ担当、小春は「ほがらか」という意味だ。


 山岳部の山中千尋、弓道部の的場実弓、写真部の写野瞳子、道化師の落合小春。この4名が、俺、メインヒロインの優奈、幼馴染みの咲と共に出るレギュラーだ。

 ちなみに俺は、大中小無で覚えた。

 千尋は山、実弓は着やせするタイプ、瞳子はつつましやか、小春はお子様だ。

 怒られるので、口には出さないが。


「咲は軽音学部だから、皆の部活は見事にバラバラだな」

「そんなものだよ。なまじ同じ部活だと、差が出たら気にしたりしない?」

「言われてみれば、そうかもしれない。男は部活で競うだけの人数が居ないから、気付かなかった」


 優奈に問われた俺は、前世の感覚を一旦忘れて、今世の状況で答えた。

 こういった男子目線の発言は、ドラマを視聴する層にとって新鮮かもしれない。

 男子の実体験は、男子からしか聞けない。

 男子が言えば、それは少なくとも男子1人の意見になる。

 逆に女子が1億人で言っても、男子1人分の意見にすらならない。


「ところで、白沢さんの部活は何なんだ」

「あたしも優奈で良いよ。部活は国際交流部で、海外の高校生と交流しているの」

「英語、話せるのか?」

「ビデオチャットアプリを使って、よく海外の人と話してるよ」

「そんなものがあるのか」

「うん。自分が話せる言語を選択して、あとはランダムでマッチングするか、相手のプロフィールを見て自分で選ぶの。30ヵ国くらいの人と話したよ」


 俺は呆然としながら、優奈の目を見詰めて、本当なのかと言外に問うた。

 すると優奈は、うんうんと頷いて、事実だと返してきた。

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