封鎖された地下鉄ホーム
「これが、その通報記録か」
祐一は、紗香が手に入れた一枚の報告書を見つめていた。
それは数日前、都心の地下鉄ホームで起きた**“謎の目撃情報”**に関する警察の内部記録だった。
通報内容:「白い手が、壁の中から這い出ようとしていた」
対応:「確認できず。通報者は混乱状態にあり、事情聴取後に帰宅」
その後、駅の一部区画は“設備点検”として封鎖された。
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「この封鎖、“表向き”だな」
祐一がつぶやく。
「ええ。点検名目だけど、現場には警察だけじゃなく、民間の研究員らしき人物たちもいたって」
紗香は手帳を開き、聞き込みのメモを読み上げた。
・地下鉄職員談:「突然、封鎖が決まり、我々も立ち入りを禁じられた」
・清掃員の証言:「夜中に、ホームの端から“濡れた足音”がした」
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ふたりは封鎖された南北線・霞町駅の地下ホームへ向かう。
すでに改札周辺は立ち入り禁止テープで覆われ、警備員が常駐していた。
だが祐一は、封鎖線の盲点を見つける。
警備が手薄な側道の階段――そこから、ホームへとこっそり侵入した。
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「静かすぎるな……」
ホームには誰もいない。だが、湿ったような空気と、どこか鉄の匂いが漂っている。
ふと、壁際の鏡のような金属板に、祐一が近づいた。
「これ……まるで、“監視されている”みたいだ」
そのとき――紗香が叫ぶ。
「祐一さん、見て! 壁に“手の跡”がある!」
金属板の表面には、白く粉を吹いた掌の跡。
まるで、何かが中から這い出そうとしたかのように。
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調査を進めていると、ふたりは排気ダクトの奥に隠された古い扉を発見する。
扉の先には、使われなくなった旧ホームと、さらに続く封鎖された通路があった。
そこには、古い鉄の札が吊るされていた。
「鏡花――通行禁止」
祐一は目を細める。
「“鏡花”? おい……これは、偶然か?」
紗香の顔から、血の気が引いていた。
「父の手帳に、書かれていた言葉よ。“鏡花計画”って……」
ふたりは、古びた通路の奥に、何か“封じられている”ことを確信する。
それは、過去に誰かが葬り、記録から消した――もうひとつの事件の痕跡。
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ホームを後にしようとしたとき。
祐一は、一瞬だけ――自分の背中越しに、“白い影”が映るのを見た。
ふたりがいたはずの場所に、もうひとつの“誰か”がいた。
そして、その“誰か”は――祐一を、じっと見つめていた。