黒猫の部屋
「これはただのオカルトじゃない。科学的に、どこかで何かが起きていた。父はそれを確かめようとしていた」
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翌日。
祐一と紗香は黒猫と老人が暮らしていたアパートを訪れる。
部屋の中は埃っぽく、家具も最低限。
しかし、祐一の目が鋭く光った。
「妙だな。ここ、誰かが“あとから手を加えてる”」
例えば壁のひび割れ――明らかにコンクリートが新しい。
しかも、一部だけ“中から盛り上がったような形”。
「……この中に何かがあった?」
紗香が無言で頷き、ナイフで薄く壁を削る。
すると、中から出てきたのは――灰色に変色した、猫の片耳のようなものだった。
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「これは、石になってる……」
「まるで“封印”されていたみたいに見えるね」
現場に残されていた鏡を祐一が調べると、
鏡面の裏に、小さな英文のメモが貼られていた。
“When the eyes are watching, it petrifies.
Beware of the mirror that remembers.”
(視線が注がれるとき、石になる。記憶する鏡に注意せよ)
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「“鏡が記憶する”……何かの暗号?」
「あるいは、古い研究のメタファーかも」
紗香は呟く。
「この件、何かの“前兆”かもしれない。父が最後まで記録を残した意味……それが、今になって動き出してる」
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そして夜。
事務所の暗がりの中――
資料を並べたまま寝落ちする紗香の隣で、祐一は静かに壁の地図を見ていた。
印をつけた場所は3つ。すべて“石化現象”の痕跡がある。
「東京で、何が始まってるんだ……?」
そのとき。
机の上に置かれた“老人の鏡”が、微かに揺れた。