G-02:地下実験区画
エレベーターが静かに停止した。
地下深く――まるで地球の心臓に近づくような、圧力と沈黙。
ドアが開くと、眼前に広がるのは無機質で巨大な地下通路。
コンクリートの壁に刻まれた番号、「B3 - Sector 07」のプレート。
錆びた空気、照明は不気味なほど整って点灯している。
「……誰か、まだここを管理してる?」
「もしくは、“誰か”が動き出したばかり、ってことかもな」
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通路の先には、研究室群と隔離区画。
『極秘実験記録』のラベルが貼られたキャビネット、そして観察室には――
中空の石化ポッドがずらりと並んでいた。
「まるで……見世物小屋」
紗香はつぶやいた。
祐一は、壁の端末を操作し、データを呼び出す。
画面に浮かび上がったプロジェクト名:
《PROJECT GENESIS》
•目的:石化細胞の“保存”と“再活性化”による超寿命生命体の開発
•被験体No.01:冬原薫(8歳)
•被験体No.02:不明(執事)
「……薫はここで、実験されていた」
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さらに、紗香が発見した別のファイルには驚愕の記述があった。
【覚書】
冬原薫の血液には、石化因子を中和する特異抗体が確認された。
“復活液”の生成には、彼女の血液が不可欠。
また、彼女は封印生物・No.α-Σの覚醒トリガーとなり得る可能性。
「やっぱり……彼女は、“鍵”だったのね」
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研究所の奥、セクター09。
そこは厳重な扉で封鎖されていた。だが、エレベーターの鍵番号と同じコードで扉が静かに開く。
その中には――
巨大な球体の格納装置。
中心には、黒い結晶のような石化物体が浮かんでいた。
冷却装置が絶え間なく作動し、気体が霧のように渦巻いている。
「これが……“究極存在”……?」
だが、そこで警告音が鳴った。
“外部アクセス感知。ゲートCより侵入者あり。”
祐一と紗香は一斉に顔を見合わせる。
「来たな。――あいつだ」
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非常灯が点滅し、通路の奥から重い足音が響く。
石のように硬く、機械のように規則的な――
「冬原家執事、識別番号α-2。
……対象:薫の確保と、No.α-Σの覚醒準備に移行する」
彼は、既に人間ではなかった。
石化技術を取り込んだ、“時間の外”にいる存在。
祐一は胸ポケットから、老女に渡された小型キーを握りしめる。
「紗香。おれたちは、“人類”の側だ。あいつとは違う」
「ええ。私は、“彼女の側”につく。だから……“それ”の目覚めは阻止するわ」
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逃げるのではない。
追うのでもない。
“真実を止めるために”、二人は研究所の最深部へと進んでいく。
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――その背後で、格納装置にわずかな亀裂が走った。
それは、数千万年前の鼓動。
この世で最も古く、最も“恐れられた命”が、再び目覚めようとしていた。