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封鎖された研究棟

かすかに赤く光る目で“意思”を伝えた少女・薫は、再び館の奥へと姿を消した。


「……あれが、“冬原薫”か」


「間違いないわ。けれど――人間とは思えなかった」


紗香は、少女の瞳に宿っていた“悲しみと覚悟”を思い返していた。

それは言葉を超えた何か――たとえば、「人間であることをやめた存在」の哀しみ。


**


老女・三宅トキヱは、奥の部屋へと祐一たちを案内する。

その部屋は旧職員用の資料室だったが、埃をかぶったファイルの山の中に、1冊だけ鍵のかかったファイルケースがあった。


「これは……?」


「この中に、“彼女”がいた理由と、最終施設の座標がある」


祐一がケースを開くと、そこには手書きの手帳と共に、**極秘研究施設《G-02》**と記された古い地図のコピーが入っていた。


**


「G-02……この場所、知ってる。昔、公安で一度だけ耳にしたことがある。

“国家指定封鎖区域”――地図から消された施設だ」


「その施設で、彼女は育てられ、そして逃げ出した。

だが今、“彼”もそこへ向かっている。……彼女を“回収”するために」


老女は硬い声で言った。


「回収……じゃあやっぱり執事は――」


「彼女を“守っていた”のではなく、“閉じ込めていた”のです。

石化とは、時間の牢獄。彼はそれを管理する“番人”だったのですから」


**


――そのとき、再び警報が鳴り響いた。


館の外に、複数の影が現れた。


「誰か来てる……!」


祐一は窓から外を覗くと、黒いコートの男たちが音もなく森に踏み込んでくるのを確認した。


「奴らは……公安でも警察でもない」


「情報が漏れたのね……!」


老女は手帳の一部を破り、祐一に渡す。


「もうここはダメ。G-02には**“地下ルート”**を使って向かいなさい。

これが、その入り口の座標よ。行きなさい、今すぐ――」


**


廃墟の裏から抜け出した祐一と紗香は、森を抜け、旧線路沿いを走る。

手帳に記された地下通路の入り口は、廃駅の地下倉庫にあるという。


その途中、祐一は立ち止まった。


「……気づいてるか?」


「ええ。さっきから、誰かが私たちを“追っている”」


森の中に潜む黒い気配。

それは執事でも国家の追手でもない、もう一つの存在。


かすかな呼吸音とともに、夜の闇が深まっていく。


**


二人は、ようやく廃駅へと辿り着く。


その地下倉庫には、封鎖されたエレベーターがあり、手帳の鍵番号で扉が開いた。


「行こう。この先に、“すべての始まり”がある」


――そう言って、祐一と紗香はゆっくりと地下へ降りていった。


**


エレベーターの扉が閉まると同時に、背後の暗闇の中で、ひとつの影がゆっくりと立ち上がった。


それは、かつて人間だった“何か”。


だがもう、彼は“石化されたまま”ではなかった。


**


――静かに目を開けるその存在。


口の中で、確かにこう呟いた。


「――薫を……回収する。彼女は、まだ鍵を持っている」

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