表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森は唄う  作者: 風花月
1/3

プロローグ

「この子は、いずれ秋を」

 ソロモンは、赤子の頭に手を置き告げた。

 産室は未だ後始末でバタバタしているときであった。

「!」

 出産の痛みでベットに伏したままであったトルカは、その祝福を聞き、耳を疑った。産まれた赤子の元気な様子に安堵し、女の子として幸せに生きてほしいと思った直後のことだった。

「秋、でございますか」

 思わず、口をついて出てしまった。

 ソロモンはその不敬を気にしたようでもなく、トルカに向かい微笑んだ。

「そうだ。これで、久々に秋が満たされる。」

 ソロモンはまた微笑むと、手のひらに熱を集めた。そして、小さな金色の指輪を作った。

「万物の実りを支える、秋の御方の誕生だ。」

 そう言うと、赤子の小さな手を取り、中指にそっと指輪をはめた。

「この指輪は、成長とともに大きくなる。私からの加護の証だ。ただ、見えると何かと厄介になろうから、普段は見えぬようにしておこう。」

 指輪はたちまち見えなくなった。

 赤子は、その手をきゅっと握りしめた。そして、微笑んだように見えた。

 ソロモンはしばらく赤子を眺めたあと、続けた。

「サリューシュのトルカよ。この子は下つ国に修行に出すがよい。私が加護しよう。伴侶がやがて下つ国に産まれくる。それまでに、預けるに良さげな家族を探しておこう。指輪があるから、彼女の行き来は自由だ。15になったら、下つ国の家族の一員となるようあちらを操作しよう。」

 これは決定事項であった。トルカにも、夫の侯爵にも拒否権はない。

 初めての子なので手元で育てていきたかった。だが、ソロモンがそう言うのなら、そうするしかないのだ。彼の加護があるというなら、少なくとも生涯守られる。その方がよい。

「ありがとうございます」

 トルカは頭を下げて礼を述べた。

「この子は私と直接やりとりできる。必要な知識は与えよう。それ以外は、この家の子として普通に育てるがよい。」

「ありがとうございます」

 ソロモンは、周りで片付けをしている侍女たち、トルカの手当てをしている産医や看護師に向かって告げた。

「皆、この娘は秋の御方だ。だが、特別扱いはするな。この家の子として普通に育てるがよい。加護が必要なときは、与えよう。」

 皆一瞬手を止め、頭を下げて承った。

 トルカは眩暈を感じ、そのまま気を失った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ