明日なんて来なければいいのに
明日なんて来なければいいのに。
……などと、幸せいっぱいの少女みたいなことを思う日が、三十を過ぎたこのおれに訪れるとは考えもしなかった。
しかし、そんな気分になるのも無理はない。今日はやけにツイているのだ。
歩いていたら五百円玉を拾ったし、新装オープンだとかで、おれの目の前でパン屋の店員が無料のパンを配り始めたし、職場の美人の同僚から話しかけられ……と、こんなことで喜ぶなんてまるで男子中学生みたいだが、まだ終わりじゃない。この流れに乗ろうと思い、出先で買ったスクラッチくじが見事に当たったりもしたし、パチンコも見事に……と今度は仕事をサボるダメなサラリーマンの部分が出てしまったが、とにかく、おれはツイていた。
しかし、思えばおれの人生は不運なことの連続だった。もっとも、それはおれの能力不足や努力不足など運以外の要素もあるだろうが、しかしその分の揺り戻しが今日来たのだろうか。なに、「でも今さらになって……」などとは言うまい。ただただ感謝し、腐らず、またこの運を享受できるように、分析というほどでもないが、一応記録をつけておこう。何か法則性を見出せるかもしれない。まず、今日の日付を……
「……と、あっ、はははは!」
そう思い、部屋のカレンダーにペンで印をつけようとしたとき、おれは笑った。
カレンダーの今日の日付に【幸運の日】と書かれていたのだ。語呂合わせでもない、なぜ今日なのかはわからないし、初めて気が付いたが、これがツイていた理由なのだろう。なんだかすっきりした。それもまた幸運の日の効果なのかもしれない。
しかし、このカレンダーは確か、懸賞に当たって家に送られてきたものだったよな。懸賞に応募した覚えがなくて不思議に思っていたのだが、まさか魔法のカレンダー……などと、また少女みたいな考えが浮かんだな。しかし、もしそうだとするなら、やはりおれはツイている。また来月にでも幸運の日があったりして――
明日の日付には【取り立ての日】と書いてあった。
明日なんて来なければいいのに……。