ハーヴェスト 2
ハーヴェストはあまり港町には降りない。一番最後に入った下っ端だからというのもあるが、本人が丘に行きたがらないというのもある。港町には必ず奴隷や奴隷商がいる、見たくないのだろう。だから海賊狩りの噂は耳に入っていなかった。
「なんか、変なの」
ハーヴェストの一言に二人は感心したようにハーヴェストを見る。
「そこに気づいたか。言ってみろ、何が変だ?」
「だって戦士でしょ? なんで陸で戦う奴らが、海賊相手に勝てるのさ」
「まさにそこだ。普通は海軍なんだよな。それが戦士様と来たもんだ。これは間違いなくこの国のお家騒動にちょっと巻き込まれた感がある」
国の情勢などがさっぱりわからないハーヴェストは首をかしげる。するとダイニーが代わりに説明をした。
「軍と戦士は違う所属なんだよ。戦士は騎士団と同じくくりだから王家に忠誠を誓った奴らだ。貴族ほどじゃないが立派な家柄が多い。でも海軍は言ってしまえば海賊みたいな奴らの寄せ集めなのさ」
戦争とは陸地で戦うのが普通だったのが、海を生業にしてきたものたちが急速に勢力を広げ始めた。海の戦い方がわからなかった王族たちは、海の戦いに長けた者たちを雇い入れているのだ。
上流階級でもない、まして国や王家に忠誠を誓っているわけでもない。働けば金がもらえるというだけで結ばれた関係なのだ。
「海は海軍の縄張りだろう。そこに戦士が海に出て名を上げればどうなるか。海軍が要らないっていうことになる。忠誠を誓って褒めてあげれば喜んで働く戦士と違って、海軍は契約だ。金がかかるからな」
「海軍をお払い箱にするために僕たちは利用されたってこと?」
「この国にも英雄みたいな戦士が何人かいるはずだ。そいつらが海賊の下っ端を金で買って海賊を陸に誘き寄せる。陸での戦いは戦士の方が強い、海賊はズタボロにやられるだろう。三分の一……要するに、半分近くっていうことだが」
ハーヴェストは算数がまだできないので言い直した。早く算数覚えろ、と頭をこづくと「後で!」とそっぽを向く。
「半分近くやられて慌てて戻った船に乗って逃げるが。人が減った海賊船なんて片付けるのは簡単だ。まとめて殺しちまえば裏切った奴らも口封じできるしな」
それは今回の自分たちの場合と全く同じだ。
「それがあの三人だけじゃなくて、他にも裏切り者がいるって思ってるんだ兄貴は」
「よくわからん宝が絡んでなかったらあの大馬鹿四重奏とアホ三銃士で終わりだったんだが。伝説の宝まで持ち出したんだったら、今回は何か特別な理由があるはずだ。いずれにせよ俺たちは表向きには何らかの役目を果たした。後は」
ドラグは袖に隠していたナイフを思いっきり真横に投げつける。
「ぎゃあ!?」
ナイフは刺さることなく正確に相手の頸動脈を切断した。ジャバジャバと溢れ出る血を眺めながらドラグは鼻で笑う。
「お勤めご苦労さんってことで、本当の後始末に来る本当のアホがいるってだけだ」
「そう簡単には俺たちを殺せないって思ってくれてるってことか。光栄だな」
ダイニーも笑うと短剣を取り出した。チラリとハーヴェストが死にかけている男を見てみれば、自分たちの仲間ではない。おそらく今回面倒なことを仕掛けたやつの手先だろう。地味な服で平民を装ってはいるが。奴隷だったハーヴェストの目から見れば、かなり立派な服だとわかる。ある程度地位があるのだろう。それに体の肉付きが良い。
「噂の戦士サマの部下?」
「だろうなぁ。船乗りと戦士じゃ体の肉の付き方が違うからな」
あっという間に三人は物陰から出てきた者たちに囲まれた。相手は五人、殺気立って武器を構えている。
「殺す?」
ハーヴェストの問いかけにドラグは少し考えてからニヤリと笑う。
「いやあ、様子見だな」
そう言うとドラグとダイニーは同時に勢い良く相手に向かって走り出した。ハーヴェストは子供ということもあって完全になめてかかっているらしく、一人が余裕の表情でハーヴェストに襲いかかってくる。
短剣を取り出して切り掛かってくるがあっさりとそれをかわす。そして後ろから相手の膝の裏側を切り付けると体勢を崩して倒れ込んだ。
ドラグは様子見だと言っていた、殺すわけにはいかない。仕方ないので顔面に思いっきり蹴りを入れる。
「ひぎい!?」
大量に鼻血が溢れでた。おそらく鼻の骨が折れたはずだ。それでもなお立ち上がろうとしてきたので、ふくらはぎを切り裂く。
「ぎゃああ!」
見ればドラグもダイニーも他の奴らを全員素手で地面に沈めていて決着がついている。自分はまだ子供だ、どうしたって大人に体力で勝てるわけがない。武器を使うのは許してほしいところだ。
「さて、お前らの飼い主の名前は?」
剣を抜いて相手の首にペタペタとつけながらドラグが言うと、相手は悔しそうにしながら叫ぶ。
「ヴェンゾン家だ!」