貴族と海賊の出会い
俺は出会った
僕は出会った
ひと目見て思った
見た瞬間思った
こいつとは相いれないな、と。
港が近いダンスパーティー会場。貴族たちが華やかなパーティーの始まりに胸を踊らせていた時だった。突然の襲撃、どこから現れたのかもわからず一体何者なのかもわからなかった。見た目の小汚い男たちが一気に攻め込んできた。
「はいはい、海賊様ですよー。死にたかったら逃げ回っていいし、命がいらないんだったらその場で棒立ちしてな」
海賊の男がケラケラと笑いながら目についた人間全てを斬り捨てていく。
「きゃー!」
「うわああ!」
「け、警備は何をやっているんだ!」
「警備? あのクソ弱かった奴ら? 欠伸して退屈そうにしてたから全員殺しておいてやったよ」
「ひ」
いかにも金持ちそうな太った男にそう言うと、海賊は笑いながら男を頭から一刀両断する。そこら中に血が飛び散り、それを見てしまった周囲の者たちはさらにパニックとなる。
「こんなところに宝がありますよって派手に宣伝してたら、奪いに来るだろ普通」
このパーティーの目玉は、「月の女神の涙」と言われる幻の宝のお披露目パーティーだった。王族がまだ到着していないのが不幸中の幸いだ。しかし先に集まっていた貴族たちはなすすべもなく次々と殺されていく。
「あったかー?」
「ねえなあ。デマじゃないですかねえ?」
「こんだけ有名人かき集めといて偽物でしたなんて言うわけない。宝ってのは自慢したいもんだからな。必ずある」
なあ? と、逃げ出そうとしていたこのパーティー主催の貴族の男の首を鷲掴みにした。
「ひいいい!」
「で、宝は?」
「あ、あ、あれは渡せな――」
「自分の命と引き換えか。そんなに大事じゃしょうがねぇなぁ。それにしても己の命一つと同じ価値とは。価値があるんだかねえんだか」
ばーか、と笑うと男の首を狙って剣を振るおうとしたが。
「おっと」
気配を感じて咄嗟に大きく後ろに飛びのいた。するとそこに何かが勢い良く飛んできて貴族の首に突き刺さる。
「ひぎい!?」
「あーあ。避けるから刺さっちゃったじゃないか」
あっけらかんと言ったのは、いつからそこにいたのか。大混乱でそこら中に血が飛び散っているというのに平然とした若い男だった。
「そりゃ避けるだろうよ、危ねえな」
「後ろに目玉でもついてるの? 死角から狙ったのにびっくりだ」
「第三の目でもあるのかもな」
喋りながらも口調だけは軽口だが、海賊の男は目つきが変わった。その様子を見て他の海賊たちにも緊張が走る。船長であり、皆の頭目であるこの男がこの表情をするときは本気になった時だ。
「毎日酒やチーズをくらってるお貴族様ってわけじゃなさそうだ。なんだテメエは」
「失礼だなぁ、二百年続く由緒ある家なのに」
返り血で真っ赤になっているというのに眉をピクリとも動かさない。沸き起こる悲鳴の中に何人か自分の部下の悲鳴も聞こえて、海賊たちは周囲を警戒する。
「なるほど。無能な警備以上にやばいのが中に入ってたってわけか」
凄まじい速度で次々と海賊に襲いかかる《《何か》》。人がごった返しているので姿を見ることができないが。
海賊の一人がテーブルを勢い良く蹴飛ばした。しかし飛んでいたテーブルは真っ二つになって左右に分かれて飛んでいく。
「よく止めた、あんがとよ」
「ブチ当たるのを期待したんですけど、やっぱりだめでしたか」
まさか真っ二つにするとは、と呟く。そこにいたのは一人の少年だ。貴族らしくやたらと装飾品がついた剣を持っているが。これで海賊を殺して回っていたらしい、彼も返り血で真っ赤だ。
「ウチの奴ら何人死んだ? おーい、死んだやつ返事しろー」
「あはは、面白いね君。大道芸人として雇いたいくらいだ」
その言葉に他の海賊たちはピクリと殺気だったが、船長である男は気にした様子もない。
「まだ四人」
剣についた血を払いながら少年が淡々と言う。その言葉に船長は気を悪くした様子もない。
「このへんの金持ち連中とつながってウチの情報を漏らしてたアホどもの人数と重なるな。口封じしてくれてありがとよ、手間が省けた」
「やっぱり偽物の情報か。ま、金欲しさに寄ってくる馬鹿なんてそんなもんだろうけど」
貴族の青年は海賊退治をお願いされたんだよね、とあっさりとばらして見せる。宝の情報を流せば必ずここにやってくる、それを一網打尽にする計画だったようだ。だがそんな事は海賊たちにはとっくにバレていた。
「それでもここにやってきたって事は、お宝は本物だったってわけだ。どうして本物なんて出そうと思っちゃうのかな、馬鹿みたい」
あはは、と笑う貴族と思われる男。先ほど剣が刺さったこのパーティーの主催者はとっくに死んでいる。
青年は見た目は金持ちでいかにも貴族なのだが、血まみれになっている少年以上にとんでもない化け物のような印象だ。