二、学生その壱
不思議な空間だ。
最近出来たショッピングモールに、新型のストリートピアノが設置されたと聞いたからやってきたが、当の建物はボロボロで、控えめに見てもバブルよりも前の建造物に見える。……バブル経済なんて経験してないけども。
冷やかしのつもりだった。ピアノの経験は少しあったから、下手くそな奴を笑って、買い物でもしようかと思っていた。
ショッピングモールはぼろいだけでなく、入り口には不気味な婆さんがいるし、カラスは多い。入るのは最初戸惑った。しかし、往復でバス代が千円近くになるから、何もせずに帰るのは癪に障った。だから、婆さんが進めるままに中に入った。そこは不思議な、いや、不気味な空間に見える。
平屋づくりの建物に、中央の通路を左右に店が並んでいる。空いている店は数店舗で、人通りも全くない。多くの店のシャッターはしまっているし、モール内は薄暗い。正面には『ピアノは時間まで公開しません』と、ここもシャッターが下りている。人通りは、店の数に比べて多い。しかし、誰も彼も生気がなく、目的もなく歩いているように見える。
俺は何をしに、ここまで来たのだろう。不気味さは好奇と表裏だと思っていたけれども、ここはどうもワクワクしない。ピアノの時間まで待つか、どうするか。悩ましい。
そのうちに空腹を覚えて、近くのレストランに入る。先客はやたらと図体のデカい坊主……、背後から見るだけでもかなりの猫背と分かる、立ち上がったら二メートルは超えるだろう。ぶつぶつと独り言をしている。注文がまだ来ていないのが、テーブルにはコップがあるだけ。二つ置かれていることから、連れがいるのだろう。こんな坊主の相手はどんな奴なのだろう。少しワクワクした。