第1週(月) SIDE 巡川蹴翔(1)
■ 第1週(月) SIDE 巡川蹴翔 ■
今日から、曜日替わりでの宿借り生活が始まる。
それもみんな、宿泊先は女の子の一人暮らしとのこと。
年頃の男女を一緒に住まわせるとか、いくらあのばあちゃんとはいえ、やり過ぎではないだろうか。
もっとも、今の僕が女の子に手を出すことなんてありえないのだけど。
なお、住人については、初日に訪れるまで僕には秘密らしい。
できたばかりの新しい匂いのする廊下を歩き、今日泊めてもらう部屋の呼び鈴を鳴らした。
念のためスマホのカメラを見ながら、髪くらいは整えておく。
顔が地味なら髪型も地味な量産型高校生がそこに映っているだけだけど。
「はーい」
ドアの向こうから、少し緊張した聞き覚えのある声がする。
開いたドアの先にいたのは――
「美月ちゃん!?」
「いらっしゃい」
幼稚園に入る前から、僕が小学校の途中で引っ越すまで、近所に住んでいた幼なじみの『月風 美月』ちゃんだ。
高校の入学式で再会した時は、とても嬉しかったのを覚えている。
しかも、なんと今年は、同じクラスだ。
サイドテールがチャームポイントの委員長で、その大きな胸が揺れる様子は、男子の視線を集めている。
まって!?
同級生と毎週月曜、同じ部屋で寝るってこと!?
想像しただけでクラクラする。
「お、おじゃまします……」
部屋の間取りは1DK。
ダイニングキッチンだけでも、一人暮らし用のワンルームとしては十分な広さがある。
さらにその奥に1部屋あるのだ。
かなり贅沢な部屋と言えるだろう。
間取りは全室同じらしい。
クラスでは凜としつつも話しやすいと評判の美月ちゃんだが、今は信じられないほど赤くなってもじもじしている。
「こっち……」
美月ちゃんに案内されるままダイニングキッチンを抜け、奥の部屋へと入る。
シンプルながらもオシャレな家具が並ぶ中、大きなタワーパソコンと、そこに繋がる高そうなマイクが目を引く。
夜なのでカーテンは閉まっており、景色を見ることはできない。
といってもここは1階なので、高層マンションのような風景が広がっているわけではないけれど。
「座って」
勧められたのは二人がけの小さなソファーだ。
ベッドと机、さらに大きめの棚があってなお、ソファーを置くスペースが確保できている。
高校生が一人暮らしをするにはかなり贅沢な部屋だろう。
都心から離れていると言っても、まともに借りたらかなりの金額になるはずだ。
僕と美月ちゃんは並んでソファーに腰掛けた。
ギリギリ肩が触れない距離。
「なんで美月ちゃんが……?」
なぜばあちゃんのアパートに住むことになったのか。
そして、なぜオレの許嫁になるなんて行動に出たのかだ。
「おばあちゃんがもう保たないってなった時にね、私達7人が入院先の病院に集められたんだ。そこで他の6人を見て思ったの。こんなにすごい人達が相手だったら、絶対蹴翔君を取られちゃう。ここで、引いたら一生後悔するって」
「それって……」
「うん。私、蹴翔君のこと好きなの。幼稚園の頃からずっと」
学年でもトップクラスの美少女に告白されたのだ。
嬉しくないはずがない。
「すごく嬉しい。でも……」
だがそんな喜びとは別に、僕の視界は真っ白に染まり、呼吸が荒くなる。
「ごめんね蹴翔君。蹴翔君の事情を知っててこんなこと言うなんて……。押しつけだよね……」
汗でびっしょりになった背中をぐったりとソファに預けながらも、僕は小さく首を横に振る。
「美月ちゃんは悪くないよ……」
ここまでお読み頂きありがとうございます。
続きもお楽しみに!
今日はもう少し更新予定です。
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