襲撃の判決
男爵が死亡して1週間がたった。
ウォーデン家は元の領地がイワン侯爵に占領されたままであるため帰れず、王都の邸宅で過ごしていた。王宮ではウォーデン男爵家とイワン侯爵家の処分が話し合われているだろう。
そして、ある程度片が付いたのか、アークは王宮の大広間で叙任式に呼ばれた。一度貴族になれば世襲制であるため、ウォーデン男爵家の次期当主となったアークに男爵の位を授けるのだ。
アークに詰め寄った大臣や聖職者の他、今回は国王ゼロルド1世も参加している。
アークは大広間の玉座に座っている国王の前にひざまずいた。
「アーク=ウォーデンをウォーデン男爵家の次期当主と認め、男爵の位を授ける。」
アークは練習してきたように儀礼を尽くし、短時間で無事に叙任式は終わった。
そして国王は続ける。話は侯爵家との事件に移った。参加者の貴族たちも関心は叙任式よりもこちらの方だ。みんな聞き耳を立てて、異様な静かさの中国王の次の言葉を待つ。
「アークよ。今回の事件のことは私も報告を受けている。父を亡くしたことは気の毒であった。私も心を痛めている。」
国王がアーク側に同情するような言動をしたため、こちらの有利な側に判断が下ったのかもしれないと期待する。
国王が大臣に目配せをし、大臣が書類を片手に発表をした。
「イワン侯爵家とウォーデン男爵家の衝突事件の処分を発表いたします。イワン侯爵家はウォーデン男爵家に賠償金を500金貨支払う。ウォーデン男爵家には北西のミカンダ地方に新たな土地を与えて、そこの領主とする。以上」
「えっ、それだけ?」
参列していた貴族の一人が思わず声を出した後、慌てて口をつぐんだ。数秒遅れて他の貴族たちからもどよめきが起こる。アークも怒りを通り越して失望した。
金で解決された。
侯爵家は冠位をはく奪されるどころか降格もされず、占領したウォーデン領はそのまま支配下に入るのだ。ウォーデン側には代わりの土地をやるから今までの土地は諦めろということだ。この前の忠告は全く無視されて、侯爵家に甘々な判決が下ってしまった。
しかし、一度判断が下されたのならば従うしかない。ここで反発することは国王に反発するようなものだ。
「謹んでお受けいたします」
アークは怒りや情けなさで涙声になりそうなのを我慢しながら、感情的にならないように平静な声で答えた。