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君と歩む永遠③

 ガラガラガラッ

「クソが……クソが、クソが、クソがぁあああああああああああああああ!!!!」

 完全に小者を思わせる罵声と共に、瓦礫を崩しながら痩せた<狼>が立ち上がる。

 フーッ、フーッ、と肩で息をして、目は血走り、全身血まみれの形相だった。シャンデリアの下で、よほどの大怪我を負ったのだろう。

「殺してやるっ……白狼ぃいいいいいいいいい!!!!」

 怨嗟の絶叫を喉から迸らせる<夜>に、グレイが不愉快そうに眼を眇めると、スッとクロエの長身が無言で前へ進み出た。

「アレを死ぬまで殺すなら、持久戦になるんだろう。全員でかかる必要はない。一番手は俺だ。――またお前が激怒して、あたり一帯を無差別に巻き込まれるのは困る。しっかり頭が冷えるまで待機していろ」

「……ふむ。随分と信用がないな」

「お前……この瓦礫の山を見てから物を言え」

 呆れたようにジロリと三白眼がグレイを視線だけで振り返る。グレイは古の盟友の苦言に苦笑して、甘んじてその言葉を受け止めた。

 タンッ……と軽く地を蹴り、軽やかに<夜>との距離を詰めるクロエの背中を見送り、グレイも後ろを振り返った。

「マシロ。ティアを連れて、少し離れた場所で待機しろ。<夜>はおそらく見境がない。どんな手に出るかわからん。――戦いに巻き込まれぬよう、命を賭してティアを守れ」

「う、うん……わかった」

 小さく頷いて、マシロはハーティアの手を引き、タンッと地を蹴り距離を取る。後ろ髪を引かれるようにグレイの方を振り返るハーティアは、<狼>同士の戦いにおいて自分の出る幕がないことをわかっているのだろう。もの言いたげな表情をしながらも、ぐっと言葉を飲み込んで大人しくマシロに従った。

「シュサ、と言ったか。……赤狼の戒も使えるのだろう?」

「まぁね。あんまり得意じゃないけど、それなりに」

「そうか。――では、お前は交代要員の治癒を担え。<夜>とは我ら二人が主に戦おう。……とどめが刺したいなら、最期はお前にやらせてやる」

「ハハッ……りょーかい」

 視線をやると、クロエが<夜>へと肉薄するところだった。

 石の床を抉るほどのグレイの踏み込みほどではないものの、一足飛びで距離を詰めるそのスピードは、並の<狼>とは比べ物にならない。

「クソがっ……!――切り裂け!」

 必死に飛びのきながら、ヴンッ――と小さな戒の発動音と共に、<夜>は力ある言葉を放つ。

 ヒュ――

 風を切る音が響いたかと思うと、ババババッと一気にクロエの皮膚がぱっくりと裂け、腕、足、腹、至るところから血が噴き出した。

 フッ、と<夜>は満足げに笑い――すぐにその笑みは凍り付く。

「――――!」

 全身を一気に切り裂かれたはずの灰狼は、進撃を止めるどころか、全くスピードを落とすことなく<夜>の懐へと肉薄する。

(しまっ――コイツ、痛覚が――!)

 セスナの記憶にあった知識が脳裏に蘇るも、遅い。戦闘の最中に遭って爛々と目を輝かせるクロエは、笑みさえ浮かべているようだった。

「はぁああああ!」

「っ――!」

 ゾンッ……

 気合一閃――クロエの生み出した不可視の刃が、斜めに<夜>の身体を通り過ぎる。

「――――ガ……ハ……」

 視界が、傾く。

 ――身体が、わき腹から斜めに真っ二つに、分かたれていた。

「灰狼くーん。治癒に時間がかかるように、なるべく細切れにしてね。あ、戒を使えないように、声帯あたりは念入りによろしく」

「……ふん……」

 暢気とも取れるシュサの声が響くと、クロエは小さく鼻を鳴らし、言われた通りに再び不可視の刃を生み出した。

 ヴォンッ――

 ぶしゃぁああああっ

 一瞬で身体を細切れにされた<夜>は、首だけの状態になりながら、なすすべもなく血だまりへと倒れていく。それを見届けることもなく、クロエはくるりと踵を返した。 

「……お見事だ」

「ふん……弱すぎて相手にならん」

 労うグレイの言葉に、鬱陶しそうに頬にかかった返り血をぬぐいながら不機嫌そうに呻く。クスクス、と笑いながら、シュサは切り裂かれたクロエの傷を戒で癒していった。

「さて……あと何回殺したら、あいつは死ぬのかねぇ」

「……さてな。だが、<朝>よりは少なくて済むだろう。千年前から、あいつは馬鹿みたいに前線で、治癒の力を惜しみなく使っていた。すでにある程度は削られているはずだ」

「そう?……まだまだ全然元気みたいだけど?」

 シュサに言われて血だまりに沈む身体を見れば、すでに少しずつ分かたれた身体が再生しつつあるようだった。

 グレイは、苦い顔でそれを眺め――ゆっくりと、己の懐に手を差し入れた。

「……これから<夜>を殺すとして――我らには一つ、別の選択肢がある」

「ぅん?」

「――水晶の力に、頼る」

「――――!」

 懐からゆっくりと引き抜かれたグレイの手には――陽光を眩くはじき返す、白銀の水晶がきらめいていた――


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