表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

シトリンとベルーガ

お久しぶりです。

シトリンは、朝市に足を運んでいた。

所属している騎士団の訓練は、今日は休みで、なんとなく来てみたのだ。

愛竜のガレオスは放牧場でほかの竜と遊び、とてものどかな朝で、誰もが楽し気に買い物をしていた。

新鮮な果物も、野菜も朝日とともに降り注ぐ、人々の声を浴びて輝いていた。


(何か、きれいな石でも売っていたら、欲しいなぁ)


シトリンはきれいな石を集めるのが趣味で、例えば、何かの絵画のような模様が

刻まれている石や、幾何学模様のようなものが刻まれている石を好んで集めていた。

はじめはきれいな色の石だけを集めていたが、次第に模様の刻まれた石にも惹かれていき、今に至る。

部屋の壁に、板をはめ込んで、そこにガラスの器を並べて、その中にきれいな石を入れていく。


(埃がたまらないように掃除が大変だけれど、眺める時間は、至福のひと時なんだよね)


ほんの少し前の出来事のこと。

金色の粉で模様が描かれた、碧色のゴツゴツとした手触りの石を拾った。

あまりにもきれいだったので、寮に持ち帰って眺めていたら、夕食の時間を告げる鐘の音が鳴った。

仲良くしている同じ石が好きな友人に見せびらかそうと思い

ハンカチに石をくるんで、ポケットに入れてから、食堂に向かう。

夕食は、薄く切られた玉ねぎとレタスのサラダと麦のパンに、スープだった。

スープにはクルトンと、人参、青菜、芋が入っていた。


「シトリーン! こっちだよぉ」


シトリンと一番仲良くしているオルシャが手を上げて呼びかける。


「オルシャ! そっちに行くから待ってて」


テーブルと椅子の列の間を通り、オルシャのもとに向かう。

もう食事は用意されていて、湯気が白く立ち上っていた。


「今日はシトリンは非番だったからねぇ。何してたの?」


人懐こい笑みをシトリンに向けて、オルシャは話しかけた。


「いつも通りの石探し? 飽きないねぇ」


「そうよ。よくわかったわね」


シトリンは、黒い瞳に驚きの色を浮かべて、オルシャに返した。


「シトリンのやることなんて、大体わかってるよぉ。で、どんな石見つけたの?」


それを聞き、待ってましたと言わんばかりにポケットから石を取り出して、オルシャに見せた。

目を丸くして、オルシャはそれを見つめる。

碧色に金色がちりばめられた石が、食堂のろうそくの光に照らされている。


「これ、ラピスラズリの原石だよ。よく見つけたねぇ」


誰にもわからないように、小声で彼女はささやいた。


「これ、ゴミ捨て場で見つけたのよ。捨てられてたなら、いいでしょって」


よくぞ訊いてくれた! と嬉々と、そして静かに答える。

幸運の守り石と謳われるラピスラズリの原石を手に入れて、シトリンは少し得意になった。


「次の休みの日、海にシーグラス探しに行こうよ」


そういいながらポケットに原石をしまい、麦のパンをちぎって口の中に放り込むと

麦の香りが口の中いっぱいに広がった。


「賛成!」


オルシャはサラダを口に運びながらしれっと、シトリンの皿に、薄く切られた玉ねぎを載せた。

シトリンは負けじと自分の嫌いな人参をオルシャのスープ皿に載せてゆく。


「私、玉ねぎ嫌いだから食べてよシトリン」


「そう言うのなら、私の苦手な人参も食べてよ」


2人はお互いに嫌いなものを押し付け合い、そして食べる。

教官に「うるさい!」と叱り飛ばされるまでその押し付け合いは続いた。

いくら、周りの見習いたちから完璧な騎士だと言われるシトリンでも、人参だけは苦手なのだ。


原石を手に入れた日から、2人で嫌いな野菜が出ないように何度も念じてみたが

効果はなく、当たり前のように嫌いな人参が食卓の上に並んでいた。

どうやら、ラピスラズリに願っても、自分が嫌いな野菜が食事に出なくなる。

ということはないらしい。


少し前のことを思い出して、クスクス笑いながら、市場を歩く。

市場のアクセサリーを出している露店を、遠巻きに眺めてみるものの、気に入るものはなかった。

石も同じで、どうやら、岸辺で探すほうがよほど気に入るものを見つけられるようだ。

人込みから少し離れたところにある、木でできたベンチにそっと腰を掛けた。

シトリンの黒髪は、朝日を浴びて(オブ)(シディ)(アン)のように輝く。

名前の元になった、金色の宝石とは違う、黒い髪と瞳を、シトリンは持っていた。


『まるで、オブシディアンのような髪と瞳だね。意志の強さを感じるよ』


オルシャとは違う、別の友達からそう褒められたことがある。


(お母さんは、なんで私にシトリンなんて名付けたのかな?

オブシディアンとか、ブラックダイヤとか付けたほうが、似合ってたのに)


自分の髪を鏡で見ながら、ひっそりとそう思っていたこともあった。

石畳の隙間を目で追い、その先にある人込みをぼんやりと眺めていると

見慣れた姿を視界の端にとらえる。

自分の黒髪を褒めた友達の姿を、露店に見つけた。


「ベルーガ!」


小さくその名前を呼んで、立ち上がると、露店まで足早に向かう。

彼女は、ガラス玉を縫い付けたタペストリーを並べているところだった。

彼女は早々と気づき、シトリンの姿を目にとめると、うれし気に微笑んだ


「ベルーガ!!」


「そんな声で呼ばなくても聞こえてるよ」


シトリンが自分の目の前に来てから、ベルーガはそういいながら、ガラスのボタンの詰め合わせを

手提げから出して、シトリンに見せて、少しからかうように言った。


「さっきから私を大声で呼ぶシトリンさん。ベルーガさん特製のガラスのボタン詰め合わせを

買いはしませんか?」


今なら、願いの叶う護符付きですよ。いかがですか?

いたずらっ子のような笑顔で、ボタンの詰め合わせを見せる。

ベルーガの作ったガラスのボタンの詰められている、木で作られた簡素な箱には

異国を思わせる絵が刻まれていた。

立ち耳の不思議な黒色の動物が、賢そうな目で何かを見守っている絵は、神殿に描かれている壁画のようで、目が離せなくなる。

ガラスのボタンも、色とりどりで、見ているだけで楽しいものだった。

絵の具を垂らした模様が浮かんでいるボタンや、透明感のある青色のボタンは

キラキラと輝いて、シトリンの目をくぎ付けにする。


「冥界の神特製の、ガラスのボタンですよ」


笑い声をひとさじ混ぜたベルーガの声が、シトリンの耳に届いた。

はっと我に返ったシトリンは、声の元に目を向けると、赤色の瞳と目が合う。


「そんなこと言っても、いま私、お金がないのよ」


困った様子で、シトリンは返事をした。

見習い騎士でも給金は貰えるが、衣食住を提供してもらっている関係で正規の竜騎士の1/4しかもらうことができず、無駄遣いはできない。

こんなのお小遣いだよね、と、オルシャと話したことを少し思い出す。


「それに、冥界の神って冗談言っても、私は信じないわよ」


ベルーガはきれいな絵や物が大好きな、ある日突然現れた、正体不明の人物だった。

少女のような、大人の女性のような、どちらとも言えない雰囲気が彼女にはあった。


「冗談冗談。このボタンの詰め合わせは、取り置きなの。」


あっけらかんと笑いながらベルーガは言って、ボタンの詰め合わせを敷物の上に戻す。


「けど、冥界の神さまだった話は本当だよ。たくさんの魂を冥界に案内したんだから」


ゆらゆらっと、狼の尾を振りながら彼女はシトリンに言う。

シトリンは周りを見た。こちらを見ている人は幸い、いなかった。

身をかがめ、声を潜めてベルーガにそっと告げる。


「こんなところで尾を出さない! 見られたらどうするの?」


「スカートで隠れているから大丈夫!」


そう返事すると、ポケットから何かを取り出して、シトリンに渡す。


「はいこれ。石好きでしょ?」


シトリンは手渡しされた石を見る。

白色で、赤い縞模様が入っている、つるりとした石だった。

赤ちゃんの握りこぶしくらいの石で、シトリンはとても気に入った。


「かわいい! きれい!」


密かに声を上げて喜ぶ。


「冥界の神さまからの贈り物だよ。おまじないもかけておいたからね」


「どんなおまじない?」


石を眺めて、手で握りながら聴き返す。


「シトリンの背伸び癖が治りますようにって、おまじないかけておいた」


にやり、と笑うその姿は、盤面遊戯を楽しむ人のように見えたが、シトリンは気にも留めず

石を握りしめて、お礼を言う。


「ありがとう! 大事にするけど、他のおまじないはないの? 例えば、嫌いな野菜がなくなるとか!」


「んー、それは、残念ながらないっ! 克服しなさいっ!」


ベルーガは、自信満々にそう言った。

おふざけで言ったつもりが、大真面目に返されて、シトリンはくすくすと笑った。


「商売中にお邪魔しました。またね」


そういうとベルーガも、こちらこそ、返した。

ベルーガと別れて、朝市でにぎわう大通りを歩いていくと、吟遊詩人が明るい声で歌っていた。

華やかな衣装を着た踊り子が、くるくると軽快に踊っている様子が目に浮かぶような

聴いているだけでウキウキしてくる歌声の正体は、たまに街角で会うリニアだった。

リニアは、酒場のステージで歌われる有名な歌を、楽しげに歌っている。


この月の下 一緒に踊りましょう

ドレスを翻して この草原で

私たち以外は 誰もいない

星が笑っている 月が歌っている

二人だけの 優しい夜


くるくると踊りながら、よく通る声が空に昇って行き、周りから拍手が起こる。

銀貨や銅貨がたくさん投げられて、リニアが目を見張っている様子が見えた。

余裕で楽し気に歌っていた姿と、あわあわとしている姿が同一人物に見えず密かに笑う。

観客がはけた時を見計らって、シトリンは声をかけた。


「リニアさん、大盛況だったじゃない」


「ありゃ、シトリン」


突然声が降ってきて、銀色の目が丸く見開かれた。

リニアはしゃがんで、銀貨や銅貨を拾っていたので、近くにシトリンが来たことに気が付かなかった。

金貨や、見たことのない宝石も交じっているので、なかなか拾い終わらない。


「小金貨まで混じってるじゃない! 相変わらず歌が上手なんだね」


そういいながら、シトリンは銅貨を拾って、リニアの前においてある麻の袋に入れてゆく。

時折混じっている宝石を拾ってそれを眺めていた。


「恥ずかしいところ見られちゃったなぁ」


照れながら投げられた銅貨を拾って、麻の袋に入れた。

しばらくそれを繰り返して、銀貨と銅貨、そして宝石をすっかり拾い終える。


「いい加減、どこかで歌う仕事見つければいいのに。お母さんも言ってたよ。

リニアさんの歌はただで聴くのもったいないってさ」


『リニアさんが偶然歌ってるところ通りかかってねぇ、お母さん、竜で飛んでたんだけど

降りて聴いちゃったよ。やっぱりあの人は歌が上手だわぁ』


ニコニコしながらカンパーナが言ってきたことを思い出した。

立ち上がり、膝についた砂やほこりを払いながら言う。


「建物の中で歌うのはあんまり好きじゃないんだ。外で歌うほうが気持ちいい」


苦笑いしながらリニアは答えた。

気ままに歌うほうが好きなのだ。


「そういうものかぁ。冬とか、中のほうがいいけど、外のほうが気持ちいいからね」


シトリンも、建物の中で勉強するより、外で竜に乗って飛ぶほうが好きだし、石を拾っているほうが

楽しいので、気持ちがわからなくもなかった。

リニアは麻の袋を拾い上げて、竪琴を抱えあげると、またね、とシトリンに言ってから

家に向かって歩き出す。

シトリンも、宿舎に一度帰って、ベルーガからもらった石をなくさないうちにしまいたかったので

訓練所に帰ろうと踵を返す。

気が付けば、朝市の客足もまばらになっていた。

ベルーガの、ガラスのボタンの詰め合わせを買った人はいったい誰なのだろうか?

どうでもいいことが、なんとも気になった。

一度、どうでもいいことが気になると、次々といろんなことが気になってきた。

ガラスのボタンなど、高価なものはそうそう買えないし、正規の騎士のカンパーナですら

そう言ったものはそうそう買わなかった。


『いつか、シトリンにガラスのおしゃれなボタンが縫い付けられたかわいい服を

買ってあげたいものだねぇ』


カンパーナがスピネルにそう話していたのをいつか聞いたことがある。

まだ、見習い騎士にすらなっていなかったころだ。


「確かに、かわいかったしきれいだったよね。ガラスのボタン」


あと、ベルーガはほかにも絵などを売っていた。有名な画家の、ラピスラズリの絵だ。

謎の画家。顔を誰も知らない画家。

と、巷で歌われていた。


『水の龍と、神官の絵を描いて売っていた』


最近の話はそんなものだったような気がする。

いつか、カンパーナが言っていた話を思い出した。


『水の龍と神官は、お互いに惹かれあった。そして、不幸な道をたどったのよ』

久々に投稿しました。

登場人物の顔とか忘れててかなり焦りました。

過去の話を読み返しながら書きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ