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狼の友達

亀更新ごめんなさい。

狼の女の子が出るよ

夢の中で、絵を描いてた。

夜空を水の龍が飛んでいるだけの絵を。

描き終えて、次のキャンパスを取り出す。

その龍は、星の光が舞い散っては溶けていく荒野に、そっと降りてきて、1人の愛する人に寄り添う。

ラピスラズリは、夢の中で、水の龍と、神官の物語の絵を、ずっと描いていた。

不幸な道をたどっていても、どこかで幸せになっていてほしい、と、願いを込めて。

銀色を、パレットの上に載せたところで、目が覚めた。


(夢の中で、絵を描いているなんて)


朝日が窓から差し込んで、ラピスラズリの寝ぼけ眼をくすぐった。

起き上がって、ふと扉のほうを見ると、昨日、カペラとともに描いた絵が、ちらっと目に入った。

扉を開けたまま寝ていたことに気づいて、頭をかく。

今日は、昔からの知り合いがきて、絵を市場に出す日だった。


(身なりを整えないと)


ラピスラズリは、夢の内容は頭の隅に追いやり、寝床から這い出た。

朝の、ひんやりとした空気が、肌をくすぐって、思わず身震いする。

今日は、知り合い以外に、カペラも来るのだから、準備をしないといけない。

まずは、くたびれた寝間着から、普段着に着替えて、窓を開けて空気を入れ替えた。

寝間着を無造作に洗濯桶に放り込みながら、部屋を軽く掃除をして、絵を引き渡す準備をして……。

と、あれこれ頭の中で考える。


(朝食は、そのあとだな)


テーブルの上に脱ぎっぱなしにしていた、絵の具まみれのエプロンを軽くたたんでいると

戸を叩く音が鳴ったので、開けてみると、つややかな黒髪が波打つ、女性が立っていた。

赤銅色の瞳に、人懐こい、朝日のような柔らかな色が浮かんでいる。


「おはよう!」


ニコっと笑いながら挨拶をすると、返事を待たずに家の中に、慣れたように足を踏み入れた。

彼女の名前は、ベルーガといい、ラピスラズリの友達であった。


「勝手に入ってくるな」


ぴしゃりとラピスラズリは一喝するが、彼女は気にする様子もなく、彼が描いた絵を見る。

キャンバスに描かれた、赤毛の神官と、銀色の龍の絵。

彼女は、その絵に吸い寄せられるように近寄り、口を少しだけ開けて見る。


「……」


時間が止まったように、目を見開いて、見つめる。

そして、その頬は上気して、目が輝いた。


「きれいな絵だね! 今までで一番、きれいな絵だよ!」


手をたたいて絶賛した。興奮気味にまくし立てて、次々と褒めちぎっていく。


「この、赤毛の人、本当にきれいだね。背景が紺色も深みがあっていい。銀色の龍が

この赤毛の人を護っているかのように見えるのが、私は一番いいと思う」


それから、それから……と、言葉を並べ立てていると、彼女は埃を吸って、せき込んだ。


「けほっ!」


その拍子に、髪の毛と同じ色の狼の耳が飛び出し、尾に生えている黒い毛が逆立つ。

ベルーガは、ラピスラズリの絵画を見て以来、家に訪れるようになった。

狼の耳は、人間の耳があるところから生えていた。


「ああ、ごめんごめん。せき込んじゃった」


そういいながら、尾を振った。

ぱたぱた、と尾が揺れて、耳がピコピコ、と動く。


「ほいじゃ、今日も売ってくるからね」


そう、声をかけると、ラピスラズリは絵を布でくるんでから、ベルーガに手渡しをする。


「落とすなよ」


「ほいよ、ちゃ~んと受け取って、汚さないように並べて売るから大丈夫!」


ふふっと笑いながら、麻袋に仕舞って、肩から掛けた。

それと同じくして、尾は張り切ったように、ぶんぶんと揺れ、耳は、ピン、と立つ。

彼女の姿は、やる気に満ち溢れた狼に見える。


「じゃあ、行ってきます!」


そういいながら、出かけてゆく。

ラピスラズリは、朝日の中に溶けていく、その後姿を見送った。



朝市には、様々なものが並べられている。

採れたばかりの果物に野菜。マフィンや、パウンドケーキなどの甘い焼き菓子。

砂糖に漬けられたドライフルーツ。

家具に、服に、水面のように輝くガラス細工。

それらを眺めながら、ベルーガも、敷物の上に、様々なものを並べてゆく。

彼女は、捨てられたガラスを集めて、装飾品を作ったりしていた。

飴玉のような、ガラスのビーズを沢山縫い付けたタペストリーに、不揃いなガラス玉に穴をあけて、

革ひもを通したネックレス。

いくつもの輝くものの中に、ラピスラズリの描いた絵を並べる。

職人のように、とまではいかないが、丁寧に作られたそれらは、薄絹のような朝の光を浴びて

本物の宝石のように輝いていた。


(今日は、どんな人が買いに来るかなぁ)


そう思いながら、人の波を眺める。

いつも、大商人や、貴族の人たちが、大金貨を10枚も20枚も詰め込んだ袋を手渡ししてくる。


(絵は、見る人が値段を決めるもの)


そう、ベルーガは、思っている。


(目が肥えている人が大金を出すのだから、ラピスラズリはすごいんだ)


そう、誇らしい気持ちになって、鼻歌を歌いながら、行く人来る人を眺めていた。

ふと、目の前に、人の足が見えたので、顔を上げると、黒い瞳の、背の高い男性が

絵を熱心に見ていた。

左耳が、爛れて、耳たぶがなかった。


「おれが手伝った絵だ……」


その人は誰に聞かせるまでもなく、ぽつり、と言葉をこぼすと、きゅっと口を結ぶ。


(ラピスラズリの知り合いかな?)


ベルーガは、ふとそう思い、声をかけようと口を開いた。


「ラピスラズリの、絵だ……」


かけようとした声を呑み込み、目を見開く。

その男性は、目に喜びの色と共に、涙を浮かべていた。


(ラピスラズリの、ファン?)


気になってベルーガは、男性に声をかけた。


「あの、この絵を描いた人を……いや、この絵を描いた人と、知り合いなんですか?」


絵に見入っている男性に、改めて、ベルーガは声をかけた。

ベルーガの声を聞いて、男性は、あっという顔をして、ベルーガがそこにいたことを

初めて知ったように、目を泳がせる。


「あ、ああ、失礼……えっと……」


言葉を探している様子の男性を、じっと見つめる。

ふんわりとした声が、ベルーガの耳に、3月の風に乗り、届いた。


「おれは、カペラって名前で、ラピスラズリに、雇ってもらったんです」


照れ笑いをする彼は、そういった後に、えっと……と、言葉の羅列がこぼれ出ていくだけで

カペラは眉毛を下げた。

狼耳(おおかみみみ)を持つベルーガには、カペラの心臓の音が痛いほどに聞こえる。

心臓の音は正直で、言葉が頭の中で散っていき、散って言った言葉を、また組み立てている

様子を、ありありと伝えてきた。


『気に入る仕事が見つからなかった。引っ越ししてきたばかりで、どこに何があるかも

わからなかった』


『ラピスラズリが、画材を道にばらまいてしまって困っていたから、拾うのを手伝った』


という言葉が、聞こえてくるのだ。


(なるほど、誰もが素通りしていく中、真っ先に助けたのがカペラさんだったのか)


「そうだったんですね。彼を助けてくれて、ありがとう!」


友達が助けられたのだから、と、お礼を言うと、言葉をくみ取ってくれたと勘違いしたカペラは

力の抜けた笑みを浮かべる。


「ああ、いいえ。おれも、雇ってもらいましたし……」


パタパタ、と、ベルーガはひそかに尾を振った。


(心臓の音を盗み聞きしてごめんね)


ひっそりと謝罪を心の中ですると、絵のほかに、ベルーガ自身が作ったガラス細工を

カペラは、熱心に眺めていた。初めて作ったガラス細工で、気に入ってはいるのだが、買い手が現れず

持て余して困っていた物。

捨てられていたガラス瓶を溶かして作ったもので、(やすり)をかけてみても細かい傷が残り

形が歪で、シカを作ったはずが、立ち耳の犬のようになってしまった。

平らなところにおいても、指でつつけばグラグラと揺れて、飾るには、不安定なものだった。


「これ、なかなかいいね。おれに売ってください」


透明な、歪な形のシカのガラス細工を、カペラは指してベルーガに言った。

いつも売れ残っている物で、古くて、透明感もあまりないものだ。


「い、いいんですか? こんな、古いものを……」


お金を出して買ってもらうには、忍びなくて目を泳がせる。

それに、ラピスラズリに雇われた、とはいえ、まだ、雇われたばかりで、お金もないだろうに。

う~ん、と、ベルーガは眉を顰める。


「あ、お兄さん、もしかしたらお引越ししてきたばかりですか?」


実は、心の声が聞こえたのだが、それは黙っておく。

カペラは、目を丸くする。


「そ、そうだけど」


「見かけない人だから、そうだろうって思ったんです。だったら、このシカは、お兄さんへの

引っ越し祝い、ということで、プレゼントというのはどうでしょう?」


ベルーガはつづけた。


「このガラス細工は、私が初めて作ったガラス細工なんです。

ほかの人は見向きすらしなかったのに、欲しいって言ってくれたからお兄さんへのプレゼントです」


そういって、ガラス細工を差し出す。


「お兄さんは、あの偏屈で人嫌いなラピスラズリが、自分の工房に、招き入れた人だから

きっと、いい人だから。頑張ってという、祈りも込めたプレゼントだから、受け取ってください」


不格好なシカのガラス細工が、鈍く光った。

カペラは、ちょっと微笑んで、ガラス細工を受け取る。

カペラの手の中で、ガラス細工が嬉しそうに、光をはじいた。

嬉しそうにガラス細工を眺めて、カペラはふんわりと笑った。


「ありがとう。部屋が、殺風景だったから、これで華やぐよ」


「よかったです。カペラさん、受け取ってくれたお礼に、私の名前を教えますね」


ベルーガは、姿勢を正して名乗った。


「私は、ベルーガと申します。ラピスラズリの友達です。これから、仲良くしてください」


そう言って微笑む。

狼耳がパタパタと揺れた。


「あ、それとね、私、狼族なの」


ほら、と尾と耳を見せる。

カペラは驚いた様子だったが、興味津々、といった具合で、耳を見る。


「これ、ほかの人には内緒ね」


ベルーガは片目を器用に瞑り、カペラの右手を、両手で握った。


狼耳と、狼の尾ってどうやって隠すんだろうね。

私も知らないけど。

ベルーガちゃんにきいてください←

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