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大掃除と服と

ようやく三話目投稿。

下手したら1年たつところでした。

舞台も何にも決めてないので全部私の頭の中にある矛盾まみれの世界です。

リニアの家は、散らかっているわけではない。

食べこぼしがある訳でも、汚れたものをそのままにしている訳でもない。

ただ、埃が家具を覆いつくしている。

床は一面の灰色だ。

青年と少女が呆然と立ちすくんでいると、家を放置していた張本人のリニアが、カラカラと笑い

あっけらかんと言う。


「最後に掃除したの、いつだか忘れちゃったよ」


そんなリニアの言うことは無視をして、カペラは家具を動かし、マグノリアは箒で掃いてゆく。

埃が食器棚の隙間や、棚の中に降り積もっているので

1度中身の全てを取り出し、掻き出さなければならなかった。

カペラはリニアと棚をどかしたり、重いものをどかしたりしていた。

そこをマグノリアは、箒で掻き出していく。

リニアは、段々とほの暗い、後ろめたさを覚える。

せっせと、棚をどかしたり、拭いたりする2人の背中に、リニアは声をかける。


「俺が放置してたんだ。だから、カペラたちが、ここまでする必要はない」


声は自分でも驚くほどに上擦り、微かに震えていた。

リニアは罪悪感を混ぜ込みカペラに言った。

自分がここまで放置していたので、自分が本当なら、やるべきなのだ。


「これだと、人が住むところじゃあないだろう?

それに、おれたちも住まわせてもらうんだ。

なあ、マグノリア」


マグノリアは、頭に埃を乗せながら頷いた。


「みんなで掃除すれば、早く終わる!」


わたしは掃除が得意なんだ!

得意げに彼女は笑う。


「それに、おれは別に気にしていないし、嫌だとも思っていない」


汗ばんだ顔に、はにかんだ笑みをカペラは浮かべて

リニアにそう言った。

リニアにとって、家は、極まれに帰る所だった。

しかし、埃を被った棚、テーブル、椅子、床……。

それらを見るのが、いつしか嫌になった。

掃除は嫌だったし、面倒くさい。

自分は相当な面倒くさがりなようで、掃除をすると言うだけで萎えた。

がらんどうの家も、誰も居ないのも嫌だ。


「そうか、ありがとう」


少し照れくさくなって、俯いてお礼を言う。

がらんどうの家が嫌だったが、今は友達が家で

待っていてくれるのだ。

カペラ、マグノリアが居てくれるのだ。

そう思うと、心がほんわりと暖かくなる。


「早く終わらせて、お菓子を食べよう!」


マグノリアが、待ちきれない! と言う様子で

箒を両手で握り、声を上げる。

彼女が帰り道に買った琥珀糖を、早く食べたい!

と頬を膨らませている。


「ああ、そうだな。早く掃除は終わらせて、お菓子を食べよう」


カペラは棚を戻しながら、マグノリアを宥める。

至るところに積もった埃を払い、雑巾がけをする。

マグノリアは、綿のように分厚い埃を見ては汚い!

と顔を顰めては、埃を払って落としていた。

べっこう色の瞳は、そんな灰色の埃の中でも、朝露のの様に澄んでいた。

不意に、リニアは目を奪われる。

べっこう色の瞳は、夕焼けを集めたかのような透明感を持っていた。


「きれいな目だな」


ぽつん、と、リニアが零す。

マグノリアの瞳が、不思議なほどに美しく見えた。

交じりっ気のない純粋な目を、彼女はリニアに向ける。


「ありがとう。わたしの自慢の目なんだ」


そう言って得意げに笑う。

どのような経緯で、カペラがマグノリアと出会ったのかが気になるが、まだ訊くときではないと思い、いい目の色だ、大事にするんだぞ。

と言う意味を込めて、頭をわしゃわしゃと撫でる。


「リニアの銀の目もきれいだね。星の色だね」


異国から渡ってきたの? とマグノリアが訊く。

銀色の目は、今まで見たことがない。

そんなに多くの事は知らないのもあるが、銀の目は、初めて見たものの1つ。


「異国から、というより……大切な人から貰ったんだ」


リニアは、目を逸らしながらマグノリアに答える。


「大切な人?」


首を傾げながらマグノリアは訊き返した。

目を貰ったのだろうか?

その、「大切な人」は、自分の顔から目を取り外して、はいどうぞ。と、リニアに差し出したのだろうか。


「異国から渡ってきた、大切な人から貰ったんだよ」


ふふふ、と、リニアは微笑みながら答える。


「そうなんだ、どんな人か今度教えてほしい」


マグノリアは、頭についた埃を払いながら、リニアの目を見る。


「もちろん。今度、教えるよ」


2人は、目を見合わせて笑った。


「こっちは一通り埃を掃きおえたぞ」


カペラがリニアたちに声をかける。

ふと、室内を見ると、あれほど積もっていた埃は、取り払われ、見違える姿を見せていた。

その代わり、室内にいた3人は埃まみれになっていて、灰色の綿を頭からかぶっているようだ。

話しながら掃除をしているうちに、きれいになっていたことが嬉しくて、リニアは声を上げて笑った。


「ふふふ、あはははっ!」


すごいな、誰かと掃除をするだけで、こんなにきれいになるのか!

そして、孤独を感じなかった。


「埃まみれじゃないか! みんなで風呂に行かないとな!」


すっかり気を良くしたリニアは、皆で公衆浴場に行こうと言い出した。

マグノリアのべっこう色の髪は、埃を被って薄っすらと灰色がかかっていた。

家中の窓を開けていたものの、それでも口の中は微かに埃臭かったし、公衆浴場に行くことには賛成だった。

皆で外に出ると、それだけで息がしやすくなる気がした。空は薄紫色になっていた。

カペラの顔も埃や汚れだらけで、ふと窓ガラスを見れば髪の毛や頬に綿埃がついた男が、こちらを見ているので、早く汚れを洗い流したくなる。

しかし、カペラ達の荷物はすっかり埃を被っていた。中身は無事だろうが、取り出す事すら面倒になり、公衆浴場に行く途中にある店で、手ぬぐいや着替えを買うことにした。


「仕方ない。新しい服を買おう。マグノリアも、新しい服を買ってあげるよ」


荷物の中から金貨や銀貨、銅貨の入った袋を取り出し、上着の内ポケットに入れながらカペラが言う。

マグノリアは、新しい服を買ってもらえる事にはしゃいでいた。

服屋に立ち寄れば、あれやこれやと迷っていた。

初めて見る服に目を輝かせ、装飾品の美しさに目を取られ、中々決まらなかった。


「いらっしゃい。可愛いお客さん。悩んでいるのなら、お姉さんが選んであげようか」


奥から女性が出てきたので、マグノリアは飛び上がって驚いた。


「あら、めずらしいべっこう色の髪だね。きれいだね」


目を見開いているマグノリアを見て、女性はカラカラと笑いながらも謝る。

左手が、義手だった。


「ごめんね。驚かせたね。私は店主だよ」


そう言いながら、手近にあった髪飾りを手に取りマグノリアに差し出した。

マグノリアは思わず、手の上にある髪飾りをじっと見る。

青い石を嵌め込まれた、木でできた髪留めで、繊細な花の模様が彫られていて、美しかった。


「この髪飾りは? クロッシュさんが作ったの?」


敬語も忘れたマグノリアにカペラはハラハラするが、女性は気にする素振りも見せず

1言あげるよ、とだけ言う。


「驚かせたお詫び。最近来た女の子だよね? 荷物を抱えて、吟遊詩人さんと歩いてるの見たのよ」


女性は楽しそうに言う。

マグノリアは手の上の髪飾りに見とれつつ、こくん、と頷いてそっと受け取った。


「ありがとうございます」


しっかりお礼を言ったので、カペラはほっと胸を撫でおろす。


(礼儀とかを教えていなかったけれど、以外と見ているものなんだなぁ)


マグノリアは意外と観察力がある子なのかもしれなかった。

カペラが人とかかわる姿を、マグノリアは隣でそっと見ていたのだ。

よく、「子は親を見て育つ」とか言が、もれなくマグノリアもカペラを見て育っていた。


「あら、いい子だねぇ。お姉さん感心! よし、お姉さんが似合う服を選んであげようね」


店主はマグノリアに似合う服を見繕ってくれていた。

カペラは、なんとなく自分の服を探していたが、どうも合う服が見つからなくて困った。


(合う大きさがない……)


彼はそこそこな大柄だったので、この店にある服は少し小さい。


(仕方ない。別の店をみてこよう)


そう思っていたらリニアが隣から声をかけてきた。

リニアも少し困った顔をしていた。


「俺に合う服が見つからないから、別の店を見てこようと思うが、カペラも来るか? 合う大きさ

見当たらないんだろう?」


カペラはこくりと頷いた。

小声で、そうする、と言うと、リニアはマグノリアを探して声をかける。

マグノリアは、店主と話をしていた。


「マグノリア」


声をかけると、べっこう色の瞳がこちらを向く。


「どうしたの?」


手には、美しい髪飾りを持っていて、腕には黄色い服を抱え込んでいる。


「俺たち、別の服を見に行ってくるから、少しだけここにいてくれるか?

店主さん、申し訳ありません。俺に合う大きさがなくて、別の店に行ってくるので、この子を

ここで待たせていいですか?」


申し訳ないという思いを言葉ににじませながら、マグノリアの手に銀貨を2枚握らせる。

店主は、大丈夫だよ、と笑って承諾した。


「1枚はその服の代金、もう1枚はこの子を少し預かってもらう代金です。

マグノリア、渡しておいて」


そんな、いいよ! 大丈夫と言う店主の声を背に受けて、カペラとリニアは、店を出て行った。

もう星が空にちりばめられていて、月まで登りつつあった。


「俺、いい服屋ほかにも知ってるから、そこに行こう」


カペラと2人で、夕闇の市を駆け足で別の服屋に向かっていった。

その服屋は、少し離れたところにあり、大柄な男性用の服をたくさん売っていた。

そこで、店主の男性と交渉しながら予備用の着替えも買い揃え、マグノリアを迎えに戻る。

マグノリアは店主の女性とすっかり仲良くなっており、お菓子までごちそうしてもらっていた。


「すいません、遅くなっちゃって……」


店主は笑顔で出迎えてくれた。


「大丈夫だよ。楽しかったし、またいつでも来てよ」


またね、マグノリア。

マグノリアもお礼を言って、カペラと手をつなぎながら、外に出た。


「あそこの店主さん、クロッシュさんて名前なんだって」


マグノリアは、カペラとリニアに、いろんな話をした。

クロッシュは手先が器用で、どんな服や小物も、装飾品も作れること。

旦那さんがいること。

何より優しくて、いろんな話をしてくれた。


「俺も何回か世話になってるよ」


リニアは、よく布袋をクロッシュの店で買っている。

竪琴を持ち運ぶために買っているのだが、ほかにもいろいろなものを

入れるため擦り切れてしまうのだという。


「妹さんが竜騎士なんだって」


「へ~、竜騎士か。竜騎士と言えば、『黒髪の竜騎士の歌を聞いたら、願いが叶う』なんて言うけど

本当なのかな」


マグノリアが思い出したように言った。

リニアは、う~ん、と考える。


「ああ、よく言うけど、どうなんだろうな。噂があるということは、本当に願いが叶ったから

そういう風に言われるわけだよな」


カペラはクスクスと笑いながら、本当だったら、と言う。


「本当だったら、良いな。俺は願いが叶ったら、良いなと思っているぞ」


3人は笑いながら公衆浴場にたどり着いた。

男湯と女湯に分かれていて、マグノリアに、入浴料の銅貨を持たせて

女湯に入っていくのを見送った。

カペラたちは、男湯に足を進める。

石の分厚い仕切りで分けられた風呂は簡易浴場のような感じで、湯が沸く場所があったことから

そこから湯を引いている。

女湯の高い声が、男湯まで反響して聞こえた。


「カペラー! リニアー! 聞こえる?」


女湯のほうからマグノリア声が聞こえた。

カペラは驚いて、足を滑らせ、しりもちをついた。


「聞こえるから叫ばないでくれ! 恥ずかしい!」


2人は耳をふさぎながら、体や頭を洗う。髪の毛から埃が流れてゆく。

周りの男たちが、くすくすと笑いながら2人を好機の目で見つつ、兄ちゃんたち、子持ちか?

と初老の男に声をかけられた。

しかし、汚れを落とし、天窓から星を眺めながら入る風呂は心地よかった。

よく耳を澄ますと、マグノリアが別の女性や子供と話をしている声が聞こえた。

カペラはほんの少し安心した。彼女は人懐こいからそのうち友達ができるだろうと考えていたが

こんなに早く誰かと打ち解けるとは、思っていなかった。


「マグノリア、誰かと話しているな」


リニアが隣から耳打ちしてきた。


「ああ、びっくりだよ。こんなに他の人と話ができる人だと思わなかった」


カペラは少し誇らしい気持ちで返す。


「そうか。実は、面白い話があるんだ」


リニアは、宝物を見せる子供の様な顔をして切り出す」


「なんだ? その話」


カペラが興味を持ったように、リニアに顔を向ける。


「人と友達になることにあこがれた怪物の話」


カペラはその話を聞いたことがなかったので、ほう、と声を漏らす。


「どんな話なんだ?」


体の泡をすべて洗い流し、浴槽につかりながら聞き返した。

リニアは、少し考えて、語りだした。顔が少し赤い。


「この辺にも森の奥で生息してる怪物はいるけれど、たまに人里に降りてきて

人と友達になろうとする怪物が別の国にいるんだ。

友達になることにあこがれた怪物は……」


そこまで語ったとき、女湯のほうから、マグノリアの声が飛んでくる。


「熱いから先に上がるよー! カペラ!」


「待て待て! 俺も上がるから! 子供一人はさすがに危ない!」


ざぶざぶと音を立てて、カペラが上がった。


「俺も行くよ、湯だった」


リニアは顔を些か赤くして、後に続いた。

体についた水滴をタオルでぬぐい、脱衣所で新しい服を着こんで、入り口まで行く。

マグノリアは、同じ年くらいの女の子と話をしていた。


「あ、カペラ!」


「お待たせ。帰ろう」


またね、とマグノリアは女の子に声をかけて、カペラたちの近くまで駆け寄ってきた。


「新しい友達?」


リニアがマグノリアに聞くと、マグノリアはう~ん、と少し考える。


「名前は聞いてないけど、なんだか仲良くなった」


他愛のない話をしながら、リニアの家まであるいていく。

夜市はたくさんの人々で賑わい、酒場からは賑わいと、かすかに歌声が聞こえてくる。

空はもう、月が昇っていて、カペラのすぐそばにいる2人を、淡い銀色に染めていた。

夜空で、飛竜が騎士を乗せて、大聖堂まで飛んでいく影がかすかに見えた。

いくらでもだらだら。

矛盾まみれだっていいじゃない。

楽しければ(開き直り)

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