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カペラとリニア

少しだけ進みました。

2人は、竜騎士の後を追うように歩いていく。

鋭い翼で、空を切り裂いて飛んで行った竜が、目の奥に焼き付いて

離れることはなく、まだ自分の頭の上を飛んでいるのではないか? と思うほどに

はっきりと耳の奥に羽音が残り、風にあおられた髪も肌も、ひんやりと冷えていた。

マグノリアは、カペラに、竜騎士の後を追って行こう、と言うと

右手を引っ張り、前を歩いていく。

彼女の願いは、いつもたった1つの、揺るぎないものだった。


『わたしの願いは、家族になってくれる人を見つけること』


それは彼女の願いであり、夢でもある。

そして、そのあと必ず言うことがあった。


『カペラも一緒に家族になってくれたら、もっといい』


そんなマグノリアの気持ちが、カペラは、胸が熱くなるほどに嬉しかった。

まだ子供で、素直という言葉がふさわしい彼女が、カペラを信用している。


(マグノリアが、俺を信用してくれている)


そう思うだけで、カペラの体中に、喜びが駆け巡る。

親子では無ければ、血がつながっているわけでもないのに、彼女は何の疑いも持たずに心を許している。

自分を信じて、共に旅をしている彼女の背中に、カペラは誓っていた。


(絶対に幸せにする)


カペラは、まっすぐ前を見つめる少女に、得意げに手を引かれて、あとをついていく。

気が付けば、こんなに大きくなっていた。

ついこの間までは、自分の太ももくらいしかなかった身長が

もう腰まで届いている。


「カペラ! 見て」


不意にマグノリアが立ち止まったので、たたらを踏んで止まると、誰かがの手前で手を振っている。


「誰かが国境に立っている」


目を凝らしてみると、竪琴を背負った、背が高い男性だった。

見覚えのあるその姿は、裾の長い服を腰のあたりで帯で縛った格好をしていた。

記憶の中にいる、懐かしいその姿は……名前は、リニア。

カペラの友人であり、吟遊詩人だった。


「リニア!」


カペラはうれしくなり、リニアを目指して駆け出した。

マグノリアは、驚いた声を上げたが、リニアの姿を目にとめると、カペラの後を追いかけた。


「待って! カペラ!」


うれしそうな声で名前を呼び、駆け出すカペラは、小さな子供の様で

いつも凛とした、優しい雰囲気のカペラしか知らないマグノリアは、驚き、目を白黒させる。

カペラは足が速く、まだ子供のマグノリアは追いつくのに必死だった。

成人男性に、子供が勝てることもなかったが、見失わないようにしながら

何とかカペラに追いつく。

追いついて息を整えながらカペラを見ると、カペラは頬を上気させて、リニアと言葉を交わしていた。


「久しぶりだな! リニア。元気だった?」


突然駆けてきたカペラに、面喰いながらも、はにかみながら、返事をする。


「元気そうだな、カペラ。俺は元気さ」


無邪気な、少年のようなカペラに、リニアもつられて笑顔になる。


「相変わらず、吟遊詩人を?」


「ああ。気ままに歌って、投げ銭もらってる」


竪琴を抱えて、ポロン、と弾いて見せた。

記憶の中にある音色と同じ音に、マグノリアは驚いた。

幼い時に、リニアの竪琴の音を聞いたことがあると、カペラは語ってくれたことが

あるが、おぼろげな記憶に流れる音色と、同じだった。


「まあ、今日はここに立ってて正解だったわけだ。カペラたちが来る気がして

ずっと待ってたわけだけど」


そういって、歯を見せて笑った。

リニアの、銀色の目が、優しく細められる。


「俺の見立てだと、この国に、住まいを構えようってことだろう?」


リニアの言ういことが当たっていたので、カペラは驚いた。


「なんでわかったんだ?」


「あんたたち、あの姉弟が家に住んでるのを、ずっと羨ましそうに見てたし

マグノリアもそろそろ大きくなってきて、定住しないとって感じかな」


得意げに言うリニアに、カペラは少し考えてから、いいや、と口を開く。


「半分正解、半分はずれ。大きくなって定住しないとな、とは思うが……

おれたちの願いをかなえる為に、この国に来たんだ」


ほう、と、リニアは銀色の目を丸くする。

前は、ここに住んだらどうだと、あれほど言っても聞こうとしなかった男が

どんなつもりだと思ったら、願いをかなえるためと答えた事に驚いた。


「珍しいこともあるものだな。家はゆっくり探すといいし、しばらくは俺の家に住めばいいさ。

俺の家なんて、あってないものだからね」


寂しがりやのカペラさんには、ちょうどいいだろ! と、リニアは

おどけて見せると、カペラは、顔を赤くしてリニアの肩をバンバン! とたたいた。

寂しがりやだといわれたことが、なんだか恥ずかしかった。


「竪琴は壊さないで!」


リニアは慌てて、背負っていた竪琴を抱え込み、カペラに泣きまねをしながら言った。

カペラは、マグノリアの手をつないで、リニアについて歩いていく。

ベージュ色の石がきっちりと正確に敷き詰められ、なだらかな道となっている。

その上を、カペラたちはとりとめのない会話をしながら、のんびりと歩いてゆく。


「マグノリア、大きくなったなぁ。前に会ったときは、小さかったのに」


くふくふと笑いながら、目を細めてリニアがマグノリアに話しかけた。


「どれぐらい、小さかったの?」


リニアの目を見て、マグノリアは問うた。

んーと、と声を上げてすっと、手を低い位置、マグノリアの胸当たりを示した。


「これくらい。俺も、カペラも年を取る!」


胸の前で抱き込んでいた竪琴を背負いなおすと、にっと笑ってカペラを見た。

カペラはリニアの目を見て、微笑むと、口をそっと開いて尋ねる。


「最後にあったのはもう、ずっと前だからね。姉弟たちは元気にしてるの?」


あの姉弟たちのことが、ふっと気になった。

柔らかな金色の髪を持つ、不安げな表情を浮かべていた、儚い雰囲気を浮かべていた双子。

幸せになったのか? 元気にしているのか? 

また会おうと話をしてから、10年経ってしまった、とぼんやりと思う。

そんなカペラの気持ちを察してか、リニアは明るく答える。


「ああ、元気だよ。弟のほうが結婚式あげて、奥さんもらって、お姉さんと3人で暮らしてる」


結婚、という言葉に驚いて、カペラは声を上げた。


「あの弟が! すごいなぁ」


感心した、という風に、目を細めた。リニアはそれだけじゃないぞ、と続けた。


「奥さんがかなりの頑固な気質でね。弟さんに一目ぼれして

あたしはこの人と結婚するんだーって。そりゃあ大騒ぎして……」


リニアの脳裏には、その時の光景が浮かんでいるのか、目に楽しげな色が浮かんでいる。


「姉のほうも黙っちゃいなくてね。儚い見た目だったと思うだろう? それがものすごい剣幕で

許さん! ってね。

頑固者が2人並んで、毎日毎日、言い合いでお互いに譲らなくて」


あの不安げな顔をしていた姉が、言い合いをしていたなんて、信じられなかった。



「一目ぼれか。それはいい」


そう言うと、カペラはふっと微笑んだ。

そんなカペラを、マグノリアは、不思議な気持ちで見上げている。

楽しそうなカペラの様子に、驚きっぱなしだった。

自分に対しては、親のように兄のように優しくしてくれるが、太陽が顔を出したように

明るく笑うカペラは、子供っぽく見えた。


「もう13年だぜ。どこほっつき歩いてたんだ」


肘で小突いて、いたずらっ子のように問いかけるリニアはとても楽しそうだ。


「いろんな国をめぐってた。でも、どこもしっくりこなくてね」


苦笑しながらカペラは答える。

ふむ、と、リニアは考えこんでから、立ち止まり、カペラを振り返る。


「家、通り過ぎちゃった」


そういって、真顔で引きかえすリニアを見たマグノリアは、カペラと顔を見合わせて

くすくすと笑う。

カペラの家は、レンガの壁に、飴色に塗られた木の屋根の小さな二階建ての造りだった。

家の中は簡素で、テーブルとイス、あと2つの小さな部屋に、それぞれの部屋にベッドがあるだけで

皿も最低限しかなく、棚や台所、隅には埃や小さな塵も積もっていた。

彼はこの家に住んでいて、住んでいないようなものだと1目でわかったので

カペラは荷物を言われた部屋に置くと、金貨、銀貨の入った革袋を肩から掛けて

リニアとマグノリアを連れ、買い物に出かける。


「足りないものが多すぎる。いったいどこで寝泊まりしているんだ?」


カペラは顔をしかめて、歩きながら訪ねると、リニアは少し考えて答える。


「食事は外で済ませちゃうし、野宿とか、宿とか」


あきれ顔で、カペラとマグノリアは聞いた。

彼は今まで旅人のような生活をしていて、せっかく持っている家を蔑ろにしていたのだ。


「それだと、家はあって、ないようなものだね」


マグノリアは思わずそう零した。

せっかく帰る家があるのに、帰らないなんて、もったいないと彼女は思う。

なぜ家に帰らないのか、少し気になった。


「どうして、家に帰らないの?」


気になったので訊いてみたマグノリアに、リニアは苦笑して答える。


「そうだね……確かにないようなものだね。

だけど、面倒くさいんだ。料理作るのも、洗濯も苦手だし、誰も教えてくれなかったし

気づいたら帰らなくなっちゃった」


片眼をつむって、するすると答える彼は、心底困った、という顔をした。

頭の後ろで手を組み、マグノリアの顔を見て、だから、と続けた。


「だから、宿に泊まって服を洗濯してもらったり、外で食べたりするんだ」


ふくふく、とリニアはいたずらが成功した子供の様に笑う。

カペラはリニアの頬をむにゅっと指でつまんだ。


「面倒くさがりもそこまで行くと、重症だな」


どうやって生きてきたんだ? カペラはため息とともに言う。

そのうち「生きている事が面倒くさい!」と言い出しそうなリニアの近くに

住まいを持とう、と、心の中でカペラは誓った。

この、面倒くさがりの放浪癖がある友人が、息をすることや、家に住むことを放棄する前に

止められるように、と計画を立てる。


「じゃあ今日から私たちが作ってあげる!」


マグノリアは、ぱっと顔を輝かせて、いいことを思いついた! と言わんばかりにリニアに言う。

食事は安宿でいつもカペラと作って食べていたし、洗濯も自分たちでしていた。

洗濯も、料理も彼女の得意分野だった。


「マグノリア、いったいいくつ?」


彼女は、どうやらリニアが思っているより大人なようだ。

マグノリアは胸を張って答える。


「13歳!」


「まだまだ子供じゃあないか」


お前、子供に何やらせてたんだよ?

そう胡乱な目で、訊いてくるリニアを、カペラは見ないふりをした。

カペラは少し料理が苦手だった。


「おれが食事を作ると、焦げるし燃えるんだ」


火をくべて料理を作ると、いつの間にか、鍋の中で野菜や肉が燃えていたことがある。

なのでカペラは、野宿をしていた時は、食べられる草をそのまま食べたり

木の実を食べて生きてきた。

一行は、目的の家具屋に入り、使う皿やカップを選ぶ。

ガラスづくりの美しい皿に見とれていたマグノリアは、その皿を買ってほしいとカペラにねだる。


「カペラ、これがきれいだから、買ってみんなで使おう!」


カペラは木製の皿やカップを選んでいたので、マグノリアが持ってきた皿を見てぎょっとする。

青色のガラスに、銀色の染料で掘られた星の柄が美しい皿は、見るからに脆そうで、雑に扱ったら

割れてしまいそうだった。


「確かにきれいだけど、落としたら割れて使えなくなるから駄目。

木で作られた皿のほうが、落としても割れないし丈夫だから」


カペラはその皿を取り上げ、もとにあった棚に戻した。

高そうな皿は、持っているだけで緊張するので、できれば持ちたくない。

マグノリアはふくれっ面になり、カペラを恨めしそうに見る。

カペラが戻してしまった皿に、先ほど、露天で見つけた琥珀糖を盛りつけたら……きっと、きらきらと陽の光を浴びながら輝いてきれいだろうな。

そう想像して、あの皿が欲しかったが、落としたら悲しいだろうと思いなおし、逸れないように、カペラの後についていった。

カペラは、必要最低限の、掃除道具が揃えてある場所に入っていった。


「カペラ、掃除道具はいらないだろう?」


顔を微かに引きつらせたリニアが、声を震わせてカペラにいうが、聞く耳を持たず、籠の中に雑巾やはたきを入れてゆく。


「掃除道具も必要だろリニア。あんなに家の中が埃だらけじゃないか」


有無も言わせず、あらかた揃えると、会計するところに行った。

会計を済ませ、店の外にでる。

リニアの籠の中には木でできた食器や、テーブルクロスが入っていた。

カペラは、片手に掃除道具の、たくさん入った籠を提げていた。


「生活用品は以上。あとは服や下着を揃えて終わりだな」


小さく息をついて、カペラはリニアを見る。

これから、カペラの家や仕事が見つかるまでは、3人で暮らすのだ。

マグノリアは、期待で微かに胸が踊るのを感じた。


(まるで、家族のようだ!)


父親が2人ーーーーいや、兄が2人なのかもしれない。

兄が2人の家族。

賑やかで、毎日が楽しそうだ。

カペラは簡単な読み書きなら出来る。

リニアは、読んだり書いたりは出来るのだろうか。

いや、出来なくても、彼は、歌が歌える。

歌を教えてもらおう。

心の友達になるような、そんな歌を。

ワクワクしてきたマグノリアは、カペラとリニアの間に割って入る。


「カペラ! お腹が空いたから、何か食べたい」


マグノリアはカペラの手を引いて、お菓子や軽食が売られている店に引っ張って行く。


「分かった! 買うから、引っ張らないで」


つんのめりながら、たたらを踏んで何とか体制を持ち直す。

そんなカペラを、リニアは目にやさしげな光を浮かべて、眺めていた。


「おーい! 置いていくなよ」


カペラの後を、軽く駆け足で追う。

3人の、賑やかな生活が、幕を開けた。

これからもちんたら書きます。

よろしくお願いします。

インスピレーションや、リスペクトしたキャラがモデル。

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