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ラピスラズリは語る

頑張って書きました。物語はどこに行くのだろうか

絵を描いた。オルカが月を見上げている絵を、描いた。

深い蒼色の闇に、銀砂をちりばめた星が広がっていて、どこまでも続く星空だった。

たった1人で、オルカは月を見上げていた。


「オルカの声は、届いたのかな」


ラピスラズリは、色を塗りながら、ふと言った。

この土地には、悲しい話がいくつもある。

懺悔を続けた修道士の話、赤毛の神官と、水の竜の話、そして、月を見上げるオルカの話。


「いつか、カペラには、すべて話してやろうと思っているのだがな、さて、話せるかな?」


まだ、悲しい話はある。

女騎士と敵国の歩兵の話。騎士と、敵国の王女の話。文字だけ見れば、似ている話だが全然違う話だ。

この土地は、涙でできているといってもいいかもしれない。


「先人たちの涙でできた国……か。」


女騎士と敵国の歩兵が恋に落ちた。恋に落ちたが、互いが敵同士だった。

王女は誇りを持っていたし、騎士は愛情にあふれていた人だった。


「恋心はいつまでも報われないものだな。オルカ」


絵の中の、月を見上げているオルカに話しかけた。

オルカは何も言わずに、ただ、白い輪郭を、深い蒼色い闇に浮かび上がらせ

月を見上げているだけである。


「そんな俺も、恋はよく知らん」


そういって1人笑った。


「オルカは、人間が大好きで、友達が欲しくて、けれど作り方がわからなかった。

オルカは、愛されていたのかな?」


オルカだけじゃなくて、赤毛の神官も、誰かを愛し、愛されていたのかなと思った。

懺悔を続けた修道士も、愛し、愛されていたらいいと思った。どこかの瞬間で

生きていてよかった。と思えるような、瞬間があったらいいと思った。


「オルカの絵は、俺にとっては特別なんだ。初めて、あいつから、ベルーガから聞いた話だから」


赤毛の神官も、特別な絵だったけれど。

カペラにオルカのことを語って、さらに大切な絵になった。

この絵は、この絵を大切にしてくれる人のもとにわたってほしいと、心の底から思った。


「カペラに語ったから、さらに特別な絵になったな」


「いつか、盗賊の話もしたいものだな。あんたの大切な友達の」


「そして、あんたの子供たちの話も、してやりたいと思う」


オルカの絵に語り掛けた。

いつか、ラピスラズリが聞いたオルカの話を、カペラに語り聞かせてやろう。


「それとも、ベルーガが話してくれるかな?」


それもそれでいいと、ラピスラズリは思っている。

人の涙でできた国といってもいいのだ。遅かれ早かれ、いつか知る日が来る。


「オルカ。あんたは、幸せだったのか?」


いつか、オルカにあったら訊いてみたいと思ったことだった。

白の絵具と、黄色の絵具で、星を散らしながら、絵の中のオルカに訊く。

ずっと昔の人物に、問いかける。

ラピスラズリは幸せだった。街から離れた静かな環境で、絵をかいて暮らせるのは

贅沢なことだった。

それは、姿を隠して、いるからできることであった。

深い蒼色の目は、遠い昔の物語を見ていた。

絵を描きながら、はるか遠い、昔の物語に思いをはせた。


「おはよう、ラピスラズリ」


カペラが朝日を背に、戸を開けてやってきた。


「おはよう。あと少しで描きあがる」


ラピスラズリは、楽し気に返した。


「絵は描けたの?」


そう訊いてきて、カペラがキャンバスをのぞき込む。

のぞき込んで、彼は驚いた。あまりにも美しかった。


「……きれいだ」


星空が一面に広がり、レモン色の月がふんわりと浮かんでいる。

そのレモン色の中にも、桃色や、水色、紫色が混ぜ込まれている。

月明かりは、薄い銀色で、優しく風に吹かれているように翻り、オルカを包んでいる。


「オルカさ、月と話しているのかな?」


ラピスラズリは、そういわれてみれば、と思って


「いわれてみれば、そう見えるな」


と返した。


「それで完成なの?」


「いや、まだだ」


真剣な声でラピスラズリが言う。


「まだ、子供たちと、友達の盗賊2人がいないだろ」


そう言うと、筆を動かし、オルカの足元にしゃがんで、一緒に月を見上げている子供たちと

オルカに寄り添っている、2人の盗賊の影を描き込んでいく。

描きこむというより、浮かび上がらせるという表現のほうが正しかった。

カペラは思わず見入ってしまったが、欲しい色を訊いて、その色を作っては、渡していった。


「これでどうだ」


ラピスラズリは、満足げに息をついた。

満天の、銀色の鈴をちりばめたような星空に、月と話しているようなオルカ。

そのそばには、子供たちがオルカの足元に座って、一緒に月を見上げている。

そして、盗賊と思われる影が、静かに寄り添っていた。


「オルカと、話しているような絵だね」


カペラが微笑みながら、その絵を見た。


「いつか、俺がある人から、オルカの人生を聞く。その時に、オルカのことを聞かせてやる」


絵に埃が付かないように窓際に持っていきながら、ラピスラズリが言った。

それをカペラは手伝い、口を開く。


「おれ、オルカの話の前に、赤毛の神官の話を聞きたいな」


そうか、と、ラピスラズリは返事をすると柔らかく笑った。


「じゃあ、絵は完成したし、お前も『最後のほうは』手伝ってくれたから、話してやろう」


にやり、と意地悪く笑った。

ラピスラズリに悪気はなく、話をしながら描いたおかげで、オルカの情報が整理されて

このような絵が描けたので、感謝しているのだ。


「うっ……話すほうに夢中になって、仕事しなくてごめんなさい……」


カペラは首をすくめるが、ラピスラズリはそれを笑い飛ばした。


「さて」


彼は、椅子に腰を掛けて、カペラにも座るように促した。


「赤毛の神官と、水の竜の話を、聞かせよう」


2人がどんな道をたどったかを、優しく語って聞かせた。

元が悲しい話だったので、ラピスラズリも、話しながら悲しくならないように気を付けながら、語った。

カペラの目が潤んで、洟をすする音がした。


「悲しい。悲しいけど、2人がどこかで、暮らしていたらいいと俺は思ってる」


ラピスラズリは、その言葉を聞いて、少し驚いた。

少なくとも、初めて聞いた感想だった。

ラピスラズリは、この話を聞いたとき、2人はもうどこにもいないのだと思ったのだ。


「だってさ、わからないじゃん」


涙を拭きながら、カペラは言う。


「誰も、その2人には会っていないんだもん。

もしかしたら、仲良く暮らしてるかもしれないし、オルカだってそう。

おれたちは誰も、オルカには会っていないから、盗賊にも。

もしかしたら、幸せに過ごしてるかもしれないって、おれは思いたいな」


だれも、その人たちに会ったことないんだ。


俺は、幸せだったと思いたい。

カペラは涙をぬぐい、にっこり笑ってそう言った。


「お前は、みんなの幸せを祈るわけか。あったことない人たちの

過去の人たちの」


ラピスラズリは驚いた。

今まで、そんな人に会ったことはない。

ベルーガは、何かを面白がる人なので、誰かの幸せを祈るわけでもない。


「うん。みんなが幸せであってほしい」


この街の人たちも、過去の人たちも、幸せであって、どこかで幸せになっていてほしい。

それは、壮大で、それでいて清らかな願いだった。


「そうか。もしかしたら、お前がそう思うなら、案外、幸せになっているのかもしれないな」


ラピスラズリは、息をついて、そういって笑った。


「そういえば、赤毛の神官は、なんていう名前なの? 名前、出てなかったよね」


カペラは、思い出したように言う。


「オランジェだ。赤毛が、夕焼け空の色だったので、そう呼ばれてる」


「水の龍は?」


「ティア。鱗とたてがみの色が、涙色だったそうだ」


「そうか。オランジェとティア。幸せだったらいいな」


カペラがそう言ってほほ笑んだ。

ラピスラズリも、そうだな。と、笑う。

外で、歌が不意に聞こえた。

黒い髪の竜騎士が、気分よさそうに歌いながら滑空していった。

知らない声だったので、シトリンではなかった。


「……あ、黒髪の竜騎士の歌」


カペラは、もともとはとある噂を聞いて、この国にやってきたのだ。


「ああ、あの言い伝えだか、噂だか、だろ? 黒髪の竜騎士の歌を聞いたら

願いが叶う。という」


興味なさげに、ラピスラズリが言う。

彼は、乾いた絵を布にくるんでいた。


「あの噂も、どこから来たのやら」


そういって、ふう。と、息をついた。

そして、思いついたように口を開いた。


「こんな、悲しい話が多い土地に住みたいといったあんたも、物好きだな」


「知らなかったんだ。こんなに、悲しい話が多いなんて」


カペラは、苦笑いしながら答えた。

そう。知らなかったのだ。

赤毛の神官と、水の龍の話も、月を見上げるオルカの話も。

まだまだある、悲しい話。

それらを1つ1つ、ラピスラズリは、絵にしていたのだろうか。


「ねぇ、ラピスラズリは、その悲しい話を絵にしていたの?」


カペラは気になったので、ラピスラズリに訊いた。


「いや、今のところ、オルカの絵と、オランジェだけだ。懺悔を続けた修道士の絵は描いてない」


ラピスラズリは、そのうち、その悲しい話を全て、絵にしようと思っていた。

絵にして、皆が見れるようにすれば、悲しい末路をたどった人たちが

少しでも救われるのでは? と思ったのだ。

ああ、この人がいま、幸せだったらいいなぁと、誰もが思ってくれるかもしれないと。

ラピスラズリは、そう思っていた。


「でも、そのうちすべて描くつもりだ」


「すべて、カペラに手伝ってもらいたいと思っている。一緒に描こう」


ラピスラズリは、カペラの目を見てそう言った。

カペラは、ラピスラズリの仕事仲間から、友達になれた気がして、うれしくなった。


「もちろんだ! 一緒に描こう」


カペラは、ラピスラズリに飛びついた。

そして、ぎゅうぎゅうに抱きしめて、よろしく! と嬉しそうに言った。

その笑顔は、暖かな日差しのような、親愛にあふれていた。

ラピスラズリも、花がほころぶように、優しく微笑んでいた。


「そういえば、赤毛の神官は―――オランジェは、どうして水の龍の、ティアに惚れたのかな」


カペラは、ふと思い出したように問う。


「きっと、お互いに1人じゃ、生きていけなかったのさ。

オランジェはあまりにも、完璧すぎた。

逆にティアは、完璧ではなかった。あまりにも不器用で、優しくて、そんなところに、オランジェは

どうしようもなく、惹かれてしまったのさ」


ラピスラズリは、訥々と語る。

オランジェは、寄り添ってくれる誰かが欲しかったのだろう。

ティアは、不器用で、優しい龍だったから、不器用なりに、寄り添ったのかもしれない。


「オランジェとティアは、寂しかったのだろうね」


寂しい者同士で、惹かれあってしまったのだろう。

不幸な道をたどると、わかっていたとしても、出会いたかったのだろう。


「人は、みんな1人だと寂しいものさ。俺は別にさみしくないが」


彼はそっけなくそう言うと、カペラを見てニッと笑う。

カペラはそういえば、とまた口を開いた。


「懺悔を続けた修道士は、どうして懺悔を続けたのかな。

修道士って、人を導く人だよね? よく知らないけど。」


ちらりとカペラを見て、ラピスラズリは口を開いた。


「その修道士は、本が好きだったから、たくさんの言葉を知っていた。

図書の管理をやっていたらしい。そして、ある人と出会ってしまった。

出会わなければ、悲しみなどとは、懺悔とは、無縁の人生を送っていたのさ。

それが、出会ってしまった。運命とは、皮肉なものだ」


一度口を閉じて、そして話を続けた。


「修道士は、赤子を連れた流浪の傭兵と出会った。その傭兵と仲良くなって……」


そこまで語った時、口をつぐむ。ラピスラズリの耳に、修道士の叫びが聞こえた。


『出会わなければよかった、俺と出会わなければ死なずに済んだのに。ごめんなさい』


涙にまみれた、悲痛な懺悔と叫びが、ラピスラズリの耳に、残った。


「死に分かれた。修道士は、傭兵の連れていた赤子と腕に抱いて

ステンドグラスに描かれた神に、延々と懺悔を続けたという」


ステンドグラスの光に抱かれて、修道士は泣いていたのだろう。

朝も昼も晩も。大好きな本に囲まれて、奉仕活動をしていた修道士は

どうして友達と死に別れてしまったのだろうか。


「そうだったんだね。出会わなければよかったと、後悔してしまうくらいに、修道士は

仲良くしていた時間が、大好きだったんだね」


カペラはしみじみと、目を細めて、その話を聞いた。

修道士の嘆きは、朝日が大地を染めても、昼の陽だまりの中でも、星が夜空で歌っても。

その、続いたのだろう。そして、修道士は、涙でおぼれてしまったのだ。


「その修道士は、どこに行ったのかな」


「きっと、今もどこかで嘆き続けているさ」


「悲しいから、救われていてほしい。オランジェも、ティアも、その修道士も」

次はどんな話にしようかな

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