とある事務員さん達の話その13。
なんの予定もない休日。
朝からたまっていた洗濯物を片付けて、買い出しに出かけて。
このまま出かけてもよかったのだろうが、なんとなく家でのんびり過ごしたい気分で。
いつもよりちょっとだけ手の込んだ料理を作って、いつものように互いに自由に過ごして。そうして夜は借りてきたDVDをだらだらと見ている。
壁を背もたれにして、ベッドに足を投げ出しての映画鑑賞。
恭一郎さんが見たがっていたアクションものの最新作を借りてきたのだが、わりと面白かった。途中で寝落ちる事もなく、2人とも無言でエンドロールを眺めていた。気がつけば随分な時間をこうして過ごしていたようで、テレビ台の隅に置かれたデジタル時計が、カチリ。0を3つ並べる。
今日ももうお終いだな。テレビを消しながら、ふと思った。
「あの、恭一郎さん。」
ああ、そういえばこの人に言わなければならない事がある。
隣で欠伸を噛み殺す恭一郎さんをじ、と見つめた。出来るだけ真面目な顔を作って視線を送れば、なんだよ、と動揺の色が伺える。
「……大嫌いです。」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食らった顔というのはこう言う事だろうか。完全に予想していなかったであろう台詞に、恭一郎さんはえ、とかへ、とか、間の抜けた声をあげながら目をぱちぱちささている。
そこが限界だった。
「ふ、くくく…」
思わず吹き出して、笑いに震える己が体を抱え込む。訳わかんねぇ、といまだに理解できず眉間にしわを寄せるツ恭一郎さんに、視線を流して答えを示してやった。
テレビ台の上のデジタル時計。そこに時間と共に表示されている日付に。
「あ。」
ようやく合点がいったらしい。
「なんだよ。そういうことかよ。」
今日という日付けの意味。
ふざけんなよと悪態をつきながら、安堵のため息が漏れた。
「くっそ、ホントかわいくねーな。」
首に腕をまわされ、逆の手で頭を掻き乱された。
「あーくそ、かわいくねぇ!」
ふたりでくつくつ笑いながらじゃれ合う。大嫌いですって、あー俺もだよって。ひとしきり笑いあって、おさまるころにはベッドに押し倒されていた。
「…で、俺すげぇ眠いんだけど。このまま寝るだろ?」
冗談めかした口調で、けれど組み敷いた己を見下ろすその瞳には欲望の色。
自分の中にある欲望を掻き立てる、色。
あぁ、それが欲しい。なんて、絶対口には出さないけれど。
「……近づかないで下さい。大っ嫌いなんですから。」
手を伸ばして引き寄せて、自ら唇を重ねる。かるく触れ合って、2人で顔を見合わせて。
そうして、2人でシーツの海に沈んだ。