第2話 理沙の母方の伯母
「あ……」
その男子は、私の存在に気付き、私の格好を見るなり、困っているかのような表情になる。
もっとも、前髪が垂れていて目の動きなどは見えづらかったが。
そいつは、自分が持っていた惣菜パンを棚に戻し、急いで店から出ていった。
無理に追いかける必要はない……かな?
人と話すのが無理な人もいる。
そんな人に自分から話しに行くのは逆効果だろうと理沙は考えていた。
夕方 七時頃
今晩は、食費を出来るだけ抑え、長く持たせるためにカレーにした。カレーを煮込み続けている間に、未だに残っている段ボールを父親の部屋に運びいれる。
自分の分の段ボールは全て片し終わったからだ。
……食費については、父さんは教授であることには変わり無いが、研究費に大半を使っているらしく、貯蓄は無い。
その為、暮らしはかつかつだ。
「……女の子の部屋っぽくは無いけど、まぁ、良いや。」
自分の部屋を見て、思わず口に出る。
元々、私はいわゆる女子らしさというのが嫌いだった。
その為、飾り気がほぼ無い部屋でも平気なのだ。
「というか、私自身が女子じゃないかもね。」
「そんな悲しいことを言わないでちょうだい!!」
「うわ!!?」
いつの間にか、黒菜叔母さんが玄関の扉の前にいた。
いや、どうやって入ってきたわけ!?
てか、なんで、ウチの場所知ってんのよ!?
「ここのマンションって、セキュリティ弱いわよね。」
「入られているから何も言えないんだけど……どして来たの?」
ん?と、叔母さんは笑顔で私の方を向く。
「そんなの……」
「姪が近くにいたら、遊びに行くに決まってるじゃない!!あと、お腹空いた。てへっ!」
後ろ!後ろは自分で何とかして!!
あと、二十九歳が、てへっ!なんて……高校の教師でしょ?私の担任でしょ?
「黒菜叔母さん……自分ちは?」
「黒菜お姉さん!……私んち?夫は単身赴任。子供は連れてきたわ。」
そして、黒菜叔母さんの後ろからひょこっと六歳ぐらいの女の子が現れ、玄関で靴を脱いで並べて、私のもとにトタトタと走ってきた。
「理沙お姉ちゃん!」
「え!明菜ちゃん!?」
私の所にやってきたその子は咄嗟にしゃがんだ私にジャンプして抱きつく。
「久しぶり~元気だね。」
「理沙お姉ちゃん!久しぶり!明菜ね、一年に一回しか会えなかったから、寂しかったんだ!……ねぇねぇ、恋理お姉ちゃんは?理海お姉ちゃんは?」
目をキラキラさせて家の中を見回す明菜ちゃん。
そんな明菜ちゃんには申し訳ないが、事実を伝える。
「ごめんね、この家には私とお父さんしか住んでないの。二人のお姉ちゃんはここにはいないんだ。ごめんね?」
そう言うと、明菜ちゃんはかなり悲しそうな顔になる。
でも、直ぐに直って私に笑顔を見せる。
「でも、理沙お姉ちゃんがいるからね!みんなに会えないよりかは良いもん!」
良い子だなぁ……
そんな事を思っていたのは私だけではなかったようで……
「明菜~!!私は嬉しい!お母さんは、嬉しい!とにかく、嬉しい!!」
語彙力!!貴女は教師でしょうが!!
私は叔母さんに対して内心で突っ込み、明菜ちゃんはそんな彼女のお母さんを無視して、私との久々のお喋りを楽しんでいた。
「んで、どうしたいの?」
ずっとハンカチを目に当て続けている叔母さんに私は尋ねていた。
「ぐずっ……有るかしら?」
「……長く持たせようと、カレーにしてたから。量はある。でも、私達の!」
それを言うと、明菜ちゃんがはしゃぐ。
「カレー!食べたい!食べたい~!!……ダメ?」
「オケです!!!」
女神、明菜ちゃんのおねだり攻撃に私の心のバリケードは一瞬にして砕け散った。
……食費なんて、気にするものか!!
そして、三人でカレーを食べることになったのだ。
甘口にしてて良かった……
「……明菜~?そろそろ帰るわよ~?」
叔母さんが眠たそうにしている明菜ちゃんに呼び掛ける。
「まだ、居るの~。理沙お姉ちゃん……あのね、明菜ね、この前……すぅ……すぅ。」
私と話したそうにしていた明菜ちゃんだったが、眠気に耐えきれず、そのまま正座している私の膝を枕にして寝た。
私は明菜ちゃんの頭を優しく撫でる。
すると、少し笑ったように見えた。
可愛ええええ!!!
え?何?私ってロリコン?
六歳の従姉妹をこんなに可愛いと感じる私はロリコンなのでしょうか?
「もう、明菜~お家に変えるわよ~。ほら、七階行くわよ~」
「え?七階?」
私は聞き間違いかと思った。
「言ってなかったかしら?私達、ここの七階に住んでるのよ?あと、ここの部屋は元々、貴女のお父さんが仕事用に購入していた部屋なのよ~。」
……全く知らなかったわ。
結局、明菜ちゃんは叔母さんに抱えられ、眠ったまま、自分達の家である七階へとエレベーターで上っていった。
「……?あれ?私、担任の先生と同じマンション?」
結構、ヤバい事……かは、分からないが重要な事に気づけた一日だった気がする。
翌日
相変わらず早めに登校していた私は、暇だった為に美術準備室を訪れていた。
校舎内にまだ先生達もほとんど来てはいなかったが、叔母さんはいた。
「……ここは、貴女の教室じゃないわよ?」
先生が少し呆れていた。
「だって、親戚がいるところって落ち着くじゃん?」
私は先生の目の前でくつろぐ。
「……私、貴女の担任ですけど。」
「ここが教室で良くない?」
ダメよって言われた。
「三日目でしょうに……少しはクラスメートとはどうなの?適応力の高すぎる貴女なら大丈夫だろうけど。」
「私の適応力うんぬんじゃなくて、クラスの適応力が無くない?私っていう存在だけであそこまでなるもん?」
「……まぁ、異端児二人目が出てきたらそうよね。」
「二人目?」
「……聞いているだろうけど、うちのクラスの青木の事、知ってる?」
「あぁ……何故か登校しないって奴か。引きニートなだけじゃないの?」
先生は首を振る。
そして、先生は机の引き出しの中からあるものを取り出し、私に渡してきた。
「これは……鍵?」
「そう。屋上のスペアキー。青木はいつもそこに。」
「……色々、聞きたいけど、……なんで、持ってるのよ?」
「それは秘密。貴女なら青木と関わっても大丈夫だと思うから……まぁ、気を付けてね。」
「気を付けて?それは、どっちの意味よ?」
「……貴女自身よ。」
その後、暫く雑談を続けた後、先生は職員室へと向かった。
朝の七時四十五分。時間はあるから覗いてみるか。
私は、屋上へと向かった。
「鍵は閉まっていると……」
屋上への扉は固く閉ざされていたが、ドアノブに埃は無かった。
つまりは、誰かが最近になって屋上の扉に用があったことになる。
……イタズラじゃなけりゃ、入ったことになる。
私は、取り敢えず、警戒しながら鍵を開けずにドアノブに手をかけ、回した。
「ひ!………………。」
何やら、扉の奥からそんな情けない声が聞こえたような……気がするが、ドアの鍵を開け、扉を開けた。
そこにいたのは、お察しの通り、
あの小さいスーパーに居た、髪が寝癖みたいにボサボサの男子だった。
その男子の目の前には私がよく知っているものがあった。
……前、言ったことを否定しないといけない。人と話すのが苦手な奴には話す。私自身が人間嫌いだったし。
怯えているその男子に向かって私は歩き、尋ねる。
「……へぇ。こんなところで。私のクラスに一人だけ居ないと思ったら。」
その男子は黙ったまま……いや、怖がっていた。
「授業には出ないわけ?別に私はどっちでも良いけど。」
そこまで言うと、そいつは口をゆっくりと開いた。
「……き、君は?」
「私?私は、今年からの転入生、白峰理沙。貴方は?」
その男子は黙る。
言いたくないようだったが、残念ながら私は君の名前までも知っている。
「言わないなら、それで良いよ。君が皆に名前を言ったことが無くても、私は知っている。君は、青木蒼空。三年間、授業には出ずに屋上で黙々と絵を描き続ける隠された美術部員。」
それだけでその男子は更に恐怖の表情を浮かべる。
「……約束したのに……なんで……」
「約束?先生は約束を破ったの?」
「……破った。僕の事は必ず守るって言っていたのに……」
成る程。私は悪人、先生は悪人ですか。
残念ながら、私は私。先生は先生。
更に追い詰める。
……この程度で追い詰めるというのかは分からないのだが、私は“伯母”さんに教えてもらった方法で追求する。
「単純に君が弱いだけ。授業には一回も出ずに屋上で絵を描き続ける事しか能無しの極度の人間嫌い。いや、定期テストでは全教科赤点スレスレで毎回合格はしてるけども。……幼少期から両親、兄弟に虐待され、小学校の中学年から毎年の虐めの対象。中学校までの先生は対応してくれず、中学三年から家出&ホームレス化。そこを今の高校の担任教師、風雅黒菜に保護されるってね。」
ここまで言うと、そいつの顔は青木だけに青かった。
「……君は……?」
「さっきから、理沙だって言ってるでしょ?」
わざとそのように言う。
「……君も、僕をバカにするのか?」
「そう思うのなら、思いなさいよ。最も、この学校に来たのは三日前ってことを把握しなさいね。」
私は、揺さぶる。
すると、
その男子は、
「……やめてくれ。止めてくれ。」
泣き出し、その場に座り込んだ。
しかし、私はそんなものを求めてはいない。
「……君が弱いだけ。私は事実を言っただけでそんなんでは話にならないわ。」
「虐めてくる奴は皆、事実って言葉が好きだ。」
「勝手に思わないで。弱いと固定観念が生まれてしまう。それに貴方は振り回されているだけ。」
泣き出して居た奴は、フラフラと立ち上がる。
「……本当に僕の事を知らない奴が言わないで。」
「何を急に?私は貴方の事実を知っている。」
「……どうせ、黒菜先生も虐めてくるに決まっている。」
話がずれだした。
「もう、この世界が嫌なんだ。死にたい。虐待してくる両親、兄、弟が嫌いだ。虐めてくる同級生も嫌いだ。何もしてくれなかった先生が嫌いだ。僕を死なせてくれなかったあの先生も嫌いだ。事実が嫌いだ。ろくに辛さを知らない、勝手にここにやってきたお前も嫌いだ。」
そんな言葉に私は、
「あ、そ。」
だけ、答えた。
それには流石に青木は目を見開く。
「さっきから何なんだ。嫌いばかり。嫌いっていうだけなら赤ん坊だって、泣いて、訴えられる。」
「……」
「自分からは反抗しないのか?抵抗しないのか?反撃しないのか?考えないのか?他人の力任せでそれが無くなるとその人の責任ってか?それは、只の自己中です。」
「!!」
「子供は攻撃を食らうと抵抗する。抗い、考える。
しかし、本当に子供の奴は、訴える事しかしない。訴えて責任転嫁ばかり。何も考えやしない。
お前は後者だ。本当に子供だ。」
「……子供なら、大人を頼るのが当たり前……そうじゃないのか?」
ようやく青木が反論する。
しかし、私はそれを打ち砕く。
「分かっていない。人間の精神について知らないんだな。
何のために反抗期ってのがあるのよ?
子供が訴え、大人に訴えるのは、自分に抵抗するだけの力が無いということ。
しかし、子供が少し成長した時、誰かに自らの力を認めてもらおうとする。
それが反抗期。
後先考えないが、自らを色々な状況に立たさせる。
そして、大人に怒られ、正しい知識を幾度に渡って教えられる。
……だから、私は敢えて、どちらにも子供という表現を使った。ただし、前者の子供は誰かに頼らずに進み、怒られて学ぶ。後者は誰かに頼り、衰退する。お前は、抗った事もなく、抗ったことによる怒りを食らったことがない、本当の子供だ。」
そう言い放ち、私は踵を返す。
「お前が本当に子供じゃないなら証明してみろ。残り三分、予鈴が鳴る。私はお前に興味は無い。しかし、先生はお前を心配している。そんな先生にお前は虐めてくると誤解していたんだ。……誠意を見せろ。」
そして、私は帰った。
青木を屋上に一人で残して。
「……自然に伯母さんの能力使っちゃった。まぁ、人に危害加えていないし、大丈夫か。」
理沙はそのように呟いた後、教室へと向かった。
【後書き ネタバレ要注意】
理沙「……今回、師匠の言葉の感じも出しちゃったなぁ……幼少期はずっと彼女と一緒にいたから……元気にしているかな?あと、伯母さんにも。」
理沙「……私の魔法の師匠、魔理沙師匠と、さとり伯母さん……。」
こんな感じで、今回の作品では、登場キャラクターが間接的に東方projectと関わりがある設定になっております。
しかし、『空の蒼きあとに、』では、直接名前を出したり、そのキャラクターが出るような話ではないので、関与はしていないことにしております。
今回のは、後書きにどのような設定になっているかを説明するために書いております。
『空の蒼きあとに、』は、本編 『白黒信夢録』の伏線の物語であり、主人公は『白黒信夢録』にて登場するキャラクターの娘に当たります。
舞台は近未来の日本、広島をメインとしており、理沙にとって高校生活最後の一年をテーマとしております。
家族関係図等は省略させて頂きますが、一応、説明はさせてもらいました。
これからもどうぞ、宜しくお願いします。




