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第3話 ウットリするほどそびえ立つ松。略すとウそ松

俺は相模原の浅い、とても浅い発言に耳とセンスと人格を疑った。


 人工皮膚?人工皮膚?


 どうやら相模原は何かとても大きな勘違いをしているみたいだった。




「何言ってんだよ相模原…! ロボットって言ったら完全にメカメカしい全長五メートル前後の工業タイプだろが!」




 俺は余りの相模原のズレっぷりに声を荒げる。人工皮膚?アンドロイドタイプ?つまりアレか?イケメン風男性アンドロイドだとこいつは思っていたのか?




 かーっ!つれーわ!わかり合えたと思ってたらすれ違ってたわ! つれーわ!


 すると俺に異議を唱えられた相模原は頬を膨らませながら反論してくる




「町田氏あんた何言ってんのスーツの似合うイケメンアンドロイドと酒に溺れたワイルドなヒゲが魅力のオジサマの組み合わせが正解! 正解なの! わかる?」




 ふぎぎぎ。なんてことだなんてことだ。だから地球から戦争はなくならないんですね。主人公がヒゲが魅力のオジサマな所は俺も同意しよう。だが違うんだよ。




 俺は相模原にこの世の真理を説くことにした。啓蒙しなきゃという使命感が体を包み込む




「いいか相模原……全長五メートル前後のゴツいロボが紳士的な口調でウィットに富んだ皮肉を交えてくるのが最高なんだよ!」




 こういう時に早口で思ってることを全部口にするのは逆効果だと俺は知っている。


 過去に何度もしてきた失敗だ。”めっちゃ早口”とリアルでもネットでも指摘され続けその度に俺は顔を真っ赤にしたものだ。




 俺は相模原へ講義を続ける。




「想像してみろ? 木に止まっていた鳥達が一斉にゴツいロボに移ってきたとする。そこを主人公に茶化されたロボが『モテる男は辛いですね。あなたが羨ましいですよ』みたいなのいいだろ?」




 オーバーウォッチのバスティオン然りラピュタのロボット兵然り…ロボが動物に好かれる…動物に優しいというシチュは外れのない設定…いわゆる”鉄板”なのだ!




 この設定苦手な人今まで生きてきて一人も見たことないよ俺。マジで。


 ほらやっぱりメカタイプの方が映えるじゃあ~ん。




 だがここで引かないのが相模原という女だ。間髪入れずに異議を唱えてくる。




「いやいやいやいや町田氏ぃ。アンドロイドタイプだからこそ人間の主人公と同じ目線を合わせられるメリットってのがあるわけよ!」




 目線、だと?俺は相模原の主張に耳を傾ける。




「酒に飲まれてる主人公のグラスを奪い取って一気に飲み干して『こんな質の悪い液体をあなた方は燃料にしているんですね』なんてやり取りができるわけよアンドロイドタイプは。たまりませんわ!」




「ぐむう」




 俺は思わず唸ってしまった。脳内に容易に浮かんでしまった…わからんでもない!


 同じ酒を飲むという行為で相棒感を増しながらロボキャラをアピールしつつ皮肉を交え。




 そして間接キスをほんのり仄めかし女性ユーザー様をキュンク…ッ! させる。


 まさかたった一手でここまで深めるとは…いや間接キスは俺の考えすぎか。




「ホラやっぱりアンドロイドタイプの方がハマってるじゃん! 認めなって町田氏。悪いようにはしないから」




 相模原は勝利を確信した笑みを浮かべながらすでに戦後処理へと移ろうとしている。




「講和条約を結ぼうとするなよ! 我が国はまだ敗北していない!」


「それにこの前私さ、サイゼでご飯食べてる時にナイスミドルなおじ様とスーツの似合うイケメンでそんな感じのシチュエーション見かけちゃったんだよね」


「…? サイゼ…サイゼで…? サイゼで何?」




 嫌な予感が俺の頭をよぎる。また始まるのか?




「ナイスミドルなおじ様が飲みすぎてるみたいでね。それを心配したスーツのイケメンがおじ様からワイングラスを奪い取ったの」


「はあ……イケメンがおじ様のワインを奪い取りーの?」




「『返せ!』ってプンスカしてるおじ様に向かってイケメンが軽く微笑んでから『だったら僕の口から直接飲み返してくださいよ』って言い放ってから目の前でワインを飲んだんだよ! もう私その光景が目に焼き付いちゃって! 思わずミラノ風ドリアをよそってた腕に力が入ってスプーン曲がっちゃってさ!」


「嘘だろ」




「」




 相模原の表情が凍りつく。




「なんで……なんで嘘つくん?」


「いや嘘じゃないし。嘘じゃないんですケド?」




 また相模原の悪いクセが始まった。こいつはその場の勢いなのか自己顕示欲なのかわからないがすぐバレバレの嘘をつく。




 相模原がつく嘘のバリエーションは多岐に渡ってそうで渡っていない。せいぜい二パターンだ。




 大抵は男と男がイチャイチャする光景に偶然出くわすか、クレーマーが店員に理不尽な文句をつけているところに女子高生か老人が乱入。




 何かご立派なことをビシっ! と言い放ちクレーマーは『グヌヌ』そして周りの客が拍手喝采というシチュエーションの二つだ。今回は前者になる。




「ある程度年いってる男性がサイゼで深酒しているのも不自然だしファミレスというオープンな場所でそんなやり取りするわけないだろ常識的に考えて」


「……」




 相模原の瞬きの回数が露骨に多くなる。ドライアイかな?




「つうかなんだよ口から飲み返してくださいって。つうかなんだよ口から飲み返してくださいって。口…から……口から? いやなんだよ飲み返すって。やだよこわいよ……」




「……何言ってるのか意味わかんないんですケド? 実際目の前で起きたことだし」




 相模原が自分の唇をペロペロ舐め始める。乾燥したのかな?




「最後のスプーン曲がったってのも本当不自然。お前この前もおそ松さんみたいなイケメン二人がキスしてるのを偶然見かけて興奮して壁殴って骨にヒビが入ったとか包帯もせずに言ってたよな?」




「いや…別に? 信じてもらおうとか? 思って? ないし?」




 相模原が汗をかき始める。風邪かな?




「マジで勘弁してくれ。いやもう本当勘弁してください!」




 俺の懇願から相模原は不貞腐れたかのように目線を逸らす。




「もうこの流れ何回目だよ…! お前がバレバレの嘘ついて追求されてそのセリフを吐くってお約束の展開…嘘つくならせめて脳に優しい嘘をついてくれよ!」




「つ、つまらない男! 町田氏あんた本当につまらない男だよ! あーやだやだ!こういうつまらない男ってモテないんだろうなあ!」




 こ、こいつ逆ギレしやがった!

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