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第1話 ガラスの仮面

「ないよないよないよ…! どこにもないじゃんよ…! 本当冗談はやめてくれよ…!」




 時刻は午後十時。場所は自室。俺、町田まちだ 圭吾けいごはアイツから受け取ったリュックの中身をひっくり返す。


やっぱり見つからない。目を皿のようにして俺は探し直す。




期待で高鳴っていた鼓動が不安の鼓動へと変わっていく。同じドキドキでも前者はバフ。後者はデバフだねこれ。




「嘘だ嘘だ嘘嘘。おいおいおい頼むよ本当マジかこれ。これマジか。」




 祈るように呟きながらリュックを引っ掻き回してもやはりお目当てのブツはとうとう姿を現してくれなかった。




「なんで……! どうして……!」




 失望と動揺で目の前の視界がグニャリと揺れる。




「どこに……どこにあるんだよ……入ってねえじゃねえかよガラスの仮面二十五巻!」




 いくら叫んでも二十五巻がひょっこりと顔を出して『自分、ここにいたんですよ。さあ読みねえ続き読みねえ!』とアピールしてくれるなんてありえないことはわかっていた。それでも声を挙げずにはいられない。




 だってさあ! 主人公の北島マヤとそのライバル姫川亜弓が初めての共演。舞台の上でバチバチとお互いの演劇魂がぶつかり合うという激アツ展開が繰り広げられることに! って”ヒキ”からの続きの二十五巻がねえんだもん!




いや待てよ……もしかしてアイツこうなることをわかって特定の巻を……続きが気になる所を抜いて俺に手渡したのか?


”あの時”からこうなると予想してたのか?




だとするならば相模原祭莉さがみはら まつり……恐ろしい子!


 いや本っ当恐ろしい子!








「よっしゃ! カラオケ行こうぜカラオケ! 今日は米津玄師マラソンすっから!」


「今日は英語科目を中心にやっていきましょう。休憩と勉強を兼ねて一冊丸々英語の小説を読むのはどうでしょうか」




 教室内は煩わしいホームルームが終わった開放感からかクラスメートの帰り支度でざわついている。


 おテンションがお高いおリア充グループ共はこれから繰り出すおカラオケで何を披露するか盛り上がり




お成績がお高いおガリ勉グループ共はお図書館でどのお教科を掘り下げていくか眼鏡をクイックイッしながらご相談している。クイックイしすぎだろ。


度以前にサイズがズレてんぞ。




そんな高カーストグループのどちらにもなれなかった俺は目の前で帰り支度をしている唯一の同ランクスクールカーストである相模原さがみはら 祭莉まつりの背中に声をかける。




「なあ相模原」


「なにさ町田氏?」




相模原は俺からの問いかけに背中で返事をする。




「あのさ、信頼していたパートナーが自分のことを庇って死んでしまった。そんなトラウマを持つベテラン刑事がいるとするよ?壮年で酒浸りね」




 帰り支度を進めていた相模原の手が止まりこちらに向き直る




「いいねえ。うん。それはいいよ町田氏~」




 相模原の食いつきはなかなか良かった。今の所ストライクなようだ。


 こいつは自分の好みの話になると一オクターブ上の音域で返事をする。話を続ける。




「ある日その刑事は”上”から特殊任務を命じられる。でも一人じゃない。ロボットとコンビを組んでその任務に挑めと命じられるんだ」


「続けて続けて」




「ベテラン刑事は過去のトラウマから一匹狼気質な男。当然その命令に反発する。一人でやれると訴えるが強制的にバディを組まされることになる」


「いいねいいね」


 


俺と相模原は暇さえさればこうして”イケてる”シチュエーションやキャラを語り合う。


イケてないナード特有のイケてないムーブだ。


会話は続く。

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