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私が聖女っていったいどういうことですか?  作者: 花月夜れん


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42話・失くした記憶(カトル視点の過去)

「アリスト…………」

「兄……上……」


 私の目の前に立つ男は、弟のアリスト。その弟の体を貫くのは私の剣。

 真っ赤な血が、傷の隙間(すきま)から漏れでてポタリポタリと滴り落ちる。

 何故、私はこの様なことをしてしまったのか?


(こいつが悪い)


 幼い頃の自分の声がした。


(こいつが僕から奪った)


 奪った? いったい何を?


(大切な――――――)


 ーーー


「カトル様」


 この笑顔が素敵で、小さくて可愛い年下の女の子は、マナエル。僕は彼女のことが大好きで、僕のお嫁さんになって欲しいと思っている。だけれど、僕は年上で……。


「アリスちゃん!」


 弟のアリストの方が、この子と同い年で……。僕は()()()()。弟の呼び方は()()()()()()

 僕の割ってはいる隙間なんてないのかもしれない。そう思うことが何度あっただろうか。


 僕はあの日、一生懸命考えて、マナエルが好きそうな花を集めた小さな花束を作ってもらった。僕専用に作ってもらった庭にある、お気に入りの花も中にいれて――。


「マナ!」


 メリエルとマナエル、二人の姉妹がくる日だった。


「カトル様」


 姉のメリエルは名を呼ばれなかったからだろう、お辞儀だけしてどこかへと歩いていった。

 マナエルは、いつものように笑顔で僕にお辞儀する。


「何か私にご用ですか?」

「あの、あの――」


 僕は後ろに隠した花束をぎゅっと握りしめ彼女の前で立ちすくみ言えないでいた。


(はやく、言わないとアリストに取られるよ?)


 僕の中の僕が急げとせかしてくる。


「僕と結婚してくれないか!」


 持っていた花束をつぶれるくらいぎゅっとしながら僕は彼女にそれを差し出す。

 言ってしまった……。

 目をつぶってしまった僕は彼女の表情が見えないことに気がついてそっと片目をあけた。その目に写ったのは、耳まで真っ赤に染まった可愛いマナエルの姿だった。


「カトル様、わ、私でいいのでしょうか……?」


 僕はコクコクと首を縦にふる。


「僕はマナが大好きなんだ。だから僕のお嫁さんになって欲しい」


 僕より小さな手が花束を握る僕の手にふれる。そっと花束を受け取ったマナエルがとても可愛い笑顔で「はい」と答えてくれた。


 ーーー


「アリスちゃん」


 いつものように弟を呼ぶ彼女。僕は彼女のことを愛しているし、信じている。けれど、やはり――――。


「マナ、君にお願いがあるんだけど」

「お願いですか?」


 首を傾げて聞いてくる。つまらない嫉妬だとは思うけれど。


「僕のことはカトルと呼んでくれ!」


 そう伝えると、マナエルはキョトンとしたあとすぐに、ふふっと笑ってから答えてくれた。


「はい、カトル」


 ーーー


「カトル、ごめんなさい、約束守れなくて……」


 マナエルが病にかかり、日に日によわっていったある日のことだった。急に彼女が僕達に会いたいと伝えてきた。自分のことを感じ取っての行動だったのだろうか。


「マナ……」


 ぎゅっと握る彼女の手は、あの日のように握り返す力すらすでになかった。


「メリエル姉様、ごめんなさい。カトル様を……。お願いします」

「マナエ!」


 君が僕のお嫁さんになるんだろう? 僕が好きなのはマナエルなんだ……。約束したじゃないか……。


「アリスちゃん、ごめんなさ…………」


 マナエルが最後に口にした名前は僕じゃなくなった。彼女は腕から力が抜けて、そのままこの世界からいなくなってしまった。

 僕から、マナエルの最後を奪った弟。

 僕は、マナエルがいなくなったことが信じられなかった。信じたくなかった。


 ーーー


 マナエルの姿を姉に写して、彼女は生きていると、思い込もうとした。けれども違う。彼女はマナエルではない。わかっている。姉妹だけれど姿も中身も全然違う人間なんだ。

 メリエルを見るたびに私は胸に刺がささっている感覚に襲われる。彼女は悪くない。彼女が私に寄せる感情もなんとなくわかっている。けれど――。


 ーーー


「聖女召喚には、すべての魔力と最愛の人の記憶が必要か――」


 私にはちょうど良いものではないだろうか。最愛の彼女を忘れ、国を守ることだけを考えられる。そうだ、忘れてしまえば。


「やりましょう」


 私は、王に頷く。この聖女召喚は国を救ってくれるはずだ。

 そして、私のことも…………。


 ーーー


 マナエル、私は君を失ってしまった。

 そして、もう一度、失ってしまう。すまない。本当は失いたくない。けれども……。

 これが、私の選んだ道だ。


 記憶を失くしてしまったら、こんな思いもすべてなくなってしまうのだろうか。


 私は魔法陣の前に立ち、儀式を始めた。

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