表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

Pass9善か悪か<<力>>

突然。

まさに突然、レーシュの周りを固める街人。


彼らの狙いは?

アレフを気絶させた狙いとは?

一体何が起きたというのでしょう。


街の人に囲まれているのはアレフさんだけではなかったのです。

ワタクシの周りにも殿方が数人現れたのです。


「ちょっと?!一体何の真似なのですかッ?」


ワタクシが訊きたいのは、周りを囲んだ事ではありません。


「その人に何をなされたのですか?!」


帽子を被ったまま倒された方へ、何をしたのかって話です。


「誘拐されていた女性を救出されたのは、そのお方なのですよ?!」


何も知らずに倒したというのなら許されるって訳でもないのですが、知らせておくのは必要だと感じたのです。


「あなた方は恩義はあっても、恨みは無い筈でしょう?」


それなのに何故こんな真似をしたのかって、質したかったからでもありました。


ワタクシが倒されたアレフさんに駆け寄ろうとしたら、立ち塞がる殿方達が。


「恨みはねぇが、邪魔をしてくれたんでな」


暴挙の理由を話すのです。


「邪魔?邪魔とは何の事ですか?!」


地下迷宮の魔物達をも倒してくれた恩人に、邪魔とは何事でしょう!


「魔物とは互いに共存できる関係になっていたんだぜ」


「冒険者達を迷宮迄誘い込めれば、街には被害を与えないと言って来ていたんだぞ」


ワタクシを前にした人が、とんでもないことを言い始めたのです。


「こいつがやったのは偽善に過ぎないんだ。

 魔物は何度倒したって直ぐに復活しやがるんだぜ?

 いくら迷宮を潰しても、また新しい住処を造っては襲って来るんだぞ!」


「それが嫌だったから冒険者を引き寄せ、魔物への貢ぎ物にしていたんだ」


「それを台無しにしやがって!」


口々に罵る声を上げる人達に、ワタクシは開いた口が塞がらなくなります。

この街の方達は、初めっから冒険者さん達を魔物への贈り物としか観ていない?

冒険者を道具以下にしか観ていなかった?

そもそも、魔物を退治しようなんて思ってもいないと?


それじゃぁ誘拐されていた女性は?

初めっから救出しようなんて思いっても居なかったの?


「連れ帰って来た方達は?

 女性はどうされたのです?」


この方達に冒険者への理不尽を説いても無駄でしょう。

それよりも折角連れ帰って来れた女性の安否が気になったのです。


「一度魔物に抱かれた女には、人の子供は産めやしないだろう」


その一言で悟らされました。


「あなた方は生き残れた女性に、何を?」


震える声で質してしまったのです。

人が悪魔と化す瞬間を、自ら求めた様なものだったのに。


「また魔物に襲われた時に備えておくだけさ。

 どうせもう、人には愛されない体に堕ちているんだからさ」


それは、彼女達に死を宣告するに等しい。

再び魔物が襲って来たのなら、まず最初の贄とされる・・・と。


「ケダモノ・・・」


この街に居る方達は、人の仮面を被ったけだもの


「獣?ああ、そうさ。

 魔物は何度でも襲って来るケダモノさ」


ワタクシに嘯く声が投げられます。


「違いますッ!ケダモノはあなた達の方です!」


頭が痛くなる程の負の感情が、湧きかえって来るのを感じたのです。


 

 ズキンズキン・・・と。



秘密にしているワタクシの角が、何かを求めて痛むのです。


けだもの・・・いいえ、あなた方は魔物にも劣る鬼畜です!」


痛みのあまり立ち眩みが襲って、しゃがみ込んでしまいます。

それでも取り囲んだ方を睨み、人為らざる行為を憎んだのです。


「アレフさんは愚かですが非情ではありませんでした。

 非情なように見えても、誰かを救うのを躊躇したりはしなかった。

 そのアレフさんを酷い目に遭わせて、痛痒もないなんて。

 あなた達はワタクシ達を如何になされるおつもりなのです?」


ワタクシもアレフさんも、そして折角連れ帰った女性達も。

この方達にとっては、魔物の贄にしか過ぎないというのでしょうか。


「どうもこうもあるかよ。

 殺して魔物に差し出したら良いんだよ」


「迷宮を滅ぼした張本人だって言えば、交渉に応じてくれるだろうし」


この方達は、本当に腐り切っています。

魔物との交渉なんて、いつ破られるか分からないというのに。


「自分さえ良ければ。

 他の人達の事なんて想いも、考えたりもしないのですね」


自分だけが生きていられれば・・・生にしがみ付くのは罪ではありません。


他人がどうなろうと・・・人として生きていられるのなら。


悪魔に魂まで貶められた・・・人ではなくなっている。



この街には、善良な人は居なくなってしまわれたのですか?


だとしたら・・・聖龍神のシスターが執る道は一つだけ。


「獣と化した悪魔達よ。

 悪魔は神に駆逐されるべき存在と知りなさい・・・」


ワタクシは、スクエア神父様から頂いた聖なる杖を放り出しました。


「神がお越しにならない穢れた場所に、悪魔が居るのなら・・・」


髪を結っていた黄色いリボンを摘まみ、勢いよく引きました。


「その地に穢れを祓う力を齎さん!」


リボンを解き、赤味を帯びる白角はくかくを晒したのです。



挿絵(By みてみん)



観られてはいけない秘密。

見せてはならないと言われている角を。


人に災いを呼ぶとされた、ワタクシの内なるモノを。



「気が遠くなる・・・」


先程から続いていた痛みが、急激に沸点を越えてしまったようでした。


それが始り。

そして・・・彼等の終わり。


「私に力を貸せ・・・」


紅い瞳で彼を見詰め、彼を欲する声が・・・


ワタクシの代わりに、身体に潜む者が現われたのです。


「私の力となれ・・・魔王よ」


ー 魔王?誰の事なのでしょう?


そこまででした。

私の意識が残っていたのは。


もう一人の自分が現れ、何かを求めていたのは覚えていますが。






レーシュがリボンを解き、白角を現わした時。


こん棒で殴られて気を失っていたアレフに変化が。




 ビクンッ!




レーシュの角に気絶させられたアインと同じ。

身体を痙攣させたかと思えば、目を開け放つ。


「誰だ、俺を呼んだのは?」


角を現わしたレーシュに街人達が注目していて、目覚めたアレフには誰も気付いていなかった。


周りに人影がない事に気が付いたアレフがゆっくりと起き上がると。



「おいおい見ろよこのシスターを」


「エルフだぜ?」


「いいや、違うぞ。エルフには角なんて生えてはいないぞ!」


レーシュを取り囲む男達の姿が観える・・・


「あいつ・・・あいつが?!」


レーシュを見詰めて唸るアレフ?


「アイツが呼んでやがったのか?!」


白角を露わにしたレーシュが?


「このアインを・・・いいや。アスタロトと知っていて呼んだのか!」


アイン?アレフではないと?


「あの角には恐るべき異能が秘められている。

 俺を封じられる程の威力を持っていやがるんだからな!」


アインであった時にぶつかった。

そしてアレフにされていたのだと?


「面白い。

 実に面白い奴だ・・・太陽(レーシュ)と名乗ったシスターは」


ニヤリと哂うアイン。

再び身体を取り戻した悪魔王を宿した男が、最初に為すべきは?


「俺を呼んだのなら・・・決まってるだろう?」


アインが帽子を脱ぎ去って嗤うのだった。




街長を始めとして皆が皆、魔物に諂いながら生きている。


いつからそんな卑屈な生き方を選択したのか。


どうして抗うのを諦めてしまったというのか。




二人を囲う者達からは、悪意しか感じ取れなかったのだ。






「人の分際で、悪魔よりも醜い心根に堕ちたか」




オッドアイを光らせるアイン・ベートがニヤリと哂った。




「この俺に、人の呪われし姿を見せたな」




アレフだった面影は潜み、代わりに現れたのは悪魔王の瞳。


左の瞳が金色へと変り、黒の召喚術師アイン・ベートと成ったのだ。




先程までのアレフとは全く違い、引き締まった貌に見せているのは目的を遂げようとする魔王の凄み。




ゆらりと揺蕩うアインから感じられるのは、容赦など微塵もかける気などない惨忍さ。


自分に敵対する者を赦しはしない魔導のタロット使い・・・




魔王を宿した残酷なる黒の召喚術師アイン・ベートへと成り代わっていたのだ。






「それにしてもだ。


 俺を封じた娘・・・太陽レーシュを名乗った娘には・・・


 とんでもない異能ちからが秘められているようだな」




街人に囲まれているレーシュを見詰め、謎多き娘の事を考えた。




「あの角にはどんな秘密があるのだ?


 エルフなんかではない。エルフである筈が無いのだ。


 この俺を封じられるのは同位の悪魔か、若しくは神しか居ないのだからな」




アインは魔王アスタロトの異能で探ってみたのだが、はっきりした反応が掴めないでいた。




「この俺に本性を見せないとはな。


 レーシュと名乗っているが、どことなく翳を感じる。


 しかも並みの悪魔など、及びも付かない位の魔力を感じるぞ」




レーシュは法名。


授かっている名は、メレク・アドナイと名乗った。


神の名を貰っているらしいが、神ではないのだけは確かだと謂える。




「もしも神だったとしたら、俺の存在を見過ごす筈は無いからな」




悪魔王アスタロトを、神が無視する筈が無い。


神だったら、気安く魔王と同道する筈が無いのだから。




「どうやら、そこら辺の悪魔達を相手にするより。


 このレーシュという娘を手元に置いておく方が賢明な策のようだ」




アインに宿る魔王アスタロトは、目的を果たす為にレーシュを手の届くところに置くと言った。


その目的とは、如何なるものなのか?




「不本意ながら召喚術師風情に貶められ、魔王が人アレフに宿る羽目になった。


 本来の魔王アスタロトに戻るには、それ相応の魔力を手にしなければならない。


 魔力をタロットに封じ込め、全てのカードを揃えなければならないのだ!」




黒の召喚術師アインとなったのは、魔王として復活するのが目的。


仮初めの姿のままでは、貶めた相手にも復讐が出来ないと。




「いつの日にか、必ずお前を八つ裂きにしてやるぞ、堕天魔ルシファーよ!」




アインの口から魔王アスタロトの怨唆が零れ出る。


自らを人の中へ貶めた相手を呪い。


魔王にして神でもあった堕天魔ルシファーに復讐を誓い。




「その時まで待っているが良い!


 俺は二度とは負けぬ。次こそは必ずお前の首を櫂てやるからな」


目的の為ならば、如何なる手段をも厭わないと言うのであった。



挿絵(By みてみん)



少女は立ち上がり街人を睨んでいる。

その姿は人が人では失くした愚かさを忌み嫌っているようでもあった。

まるで神の罰を与え様としているかのように。


アインに宿る魔王アスタロトは、目的のためならばレーシュを下僕に貶めるのも厭わないと考えていたのだ。

黒の召喚術師アインに戻った時。

彼の中に宿る者が蠢き出す。


彼を呼んだレーシュは?

もう一人の自分に乗っ取られた彼女は?


次回 Pass10 陰為る姿 <<隠者>>

彼と彼女の秘密。2人が出会ったのは宿命だったのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ